介護現場のハラスメント。カスハラ対策義務化と、ハラスメントを防ぐ職場づくり
パワハラという言葉が法律に明記されたのは、2020年6月のことです。それから6年、今度はカスタマーハラスメントが対象に加わりました。2026年10月1日、事業主にカスタマーハラスメント対策を講じることが、法律で義務づけられました。
社会全体で、ハラスメントへの向き合い方が少しずつ整えられてきました。そして介護の現場にも、利用者さんやご家族から向けられる厳しい言葉や要求、職員同士の行き過ぎた言動など、考えなければならないことがあります。
もし、自分がハラスメントを受けたらどうすればいいのか。事業所は、職員から相談を受けたときにどう対応すればいいのか。
この記事では、介護現場のハラスメントについて基本的なことを整理したうえで、最後に、なぜハラスメントは起こるのか、どうすれば防ぐことができるのか、わたし自身の考えもお話ししていきたいと思います。
カスタマーハラスメントについて
2026年10月1日から、事業主にカスタマーハラスメント対策を講じることが義務づけられました。
介護でカスタマーハラスメントというと、利用者さんやご家族から職員への言動が対象になります。大きな声で怒鳴る、威圧的な言葉を繰り返す、必要以上の要求をする、長時間にわたって対応を求めるといったものです。
しかし、利用者さんからの言動には、認知症などの症状が影響していることもあります。大きな声を出す、暴言を吐く、叩くといった言動が、病気の症状として現れることもあります。
そのため、言動だけを見て判断するのではなく、本人の状態やその背景も含めて考える必要があります。ただし、症状があるから職員が何をされてもいいということではありません。症状としてどこまで受け止めるのか、どこから事業所として対応するのか、その線引きも必要だと思います。
ご家族からの言動については、通常の要望や苦情なのか、ハラスメントなのかを区別する必要があります。
利用者さん、ご家族、どちらからの言動であっても、行き過ぎた言動があった場合には、職員一人で抱え込まず、事業所として対応できる体制をつくっておくことが大切です。
パワーハラスメントについて
利用者さんやご家族からのハラスメントだけでなく、職員同士のパワーハラスメントにも気をつける必要があります。
指導のつもりで強く言い過ぎてしまう。声を荒げてしまう。みんなの前で必要以上に責める。失敗を何度も持ち出す。本人の人格を否定するような言葉を使う。こうしたことが繰り返されれば、働くことそのものがつらくなってしまいます。
もちろん、職員を育てていくためには、指導や教育は必要です。ただ、感情をぶつけてしまうとハラスメントになってしまいます。「何が問題だったのか」「次はどうすればいいのか」を優しく丁寧に伝えることが大切です。
また、パワハラは上司から部下、先輩から後輩だけに起こるものではありません。
部下や後輩から上司や先輩に対して、集団で無視をする、必要な協力をしない、強い言葉で繰り返し責めるなど、関係性によっては、いわゆる「逆パワハラ」と呼ばれる状態が起きることもあります。同じ立場の職員同士でも起こり得ます。
立場に関係なく、相手への言動が行き過ぎていないかを考えることが大切です。
もし自分がハラスメントを受けたら
もし自分がハラスメントを受けたら、まずは記録を残しておくことが大切です。
いつ、どこで、誰から、何を言われたのか、何をされたのか。そのとき自分がどう対応したのか。できるだけ具体的に残しておきます。その場でメモするのが難しければ、勤務が終わったあとでも構いません。覚えているうちに書いておくことが大切です。
1回だけでは判断がつかなくても、同じようなことが続いたときに、記録が残っていれば状況を説明しやすくなります。
そして、一人で抱え込まず、上司や事業所の相談窓口に相談します。いざというときに迷わないよう、自分の職場にハラスメント対応のマニュアルがあるのか、どこに相談すればいいのかを一度確認しておくことをおすすめします。
組織としてどう守り、どう対応するか
職員からハラスメントの相談があったときは、まず何が起きたのかをきちんと聞き取ります。いつ、どこで、誰から、どのような言動があったのか。繰り返し起きているのか。本人が記録を残していれば、それも確認します。
相談を受けた日時や内容、その後どのような対応をしたのかを記録に残しておきます。
相談した職員のプライバシーにも配慮する必要があります。相談したことや相談内容が必要以上に周囲へ知られないようにし、相談窓口によっては匿名で相談できることも、職員に伝えておくと安心です。
相談を受けたあとは、必要な対応を行います。職員同士の問題であれば、一方の話だけで判断せず、双方から事情を確認することも必要です。利用者さんやご家族からの言動であれば、職員一人に対応を任せず、事業所として対応します。
その後も、同じことが繰り返されていないか、安心して働けているかを確認していくことも大切です。
もちろん、相談したことを理由に、その職員が不利益を受けるようなことがあってはいけません。
普段からマニュアルや相談窓口を用意して、何かあったときにスタッフがすぐに相談できる環境を整えておきます。「何かあったときに相談できる」「相談しても不利益を受けない」と職員が思える状態にしておくことが、組織には求められます。
パワハラはなぜ起こるのか?
ここからは、パワハラについて、わたし自身の考えも交えながら、もう少し掘り下げてみたいと思います。
パワハラは、なぜ起こるのでしょうか。
その理由はひとつではありません。職場での立場や力関係、行き過ぎた指導、ストレスや感情のコントロールなど、さまざまな要因が関係していると思います。
その中で、わたしが特に大きいと感じるのが、「心の余裕」です。
心に余裕があると、人に優しくできます。逆に、心に余裕がないと、つい人に冷たく当たってしまうことがあります。
忙しさや疲れが積み重なって、心が満たされない状態が続くと、ちょっとしたことでも強い言葉が出てしまうことがあります。
相談しやすい環境が大事
では、職員が心の余裕を持って仕事をするために、職場でできることは何でしょうか。
わたしは、まず相談しやすい環境をつくることだと思います。
仕事をしていれば、うまくいかないことや、モヤモヤすることもあります。そんなとき、一人で抱え込まず、「ちょっと話を聞いてほしい」「今ちょっと余裕がない」と言える相手がいれば、モヤモヤした気持ちを抱え込まずに済みます。
誰かに話しているうちに、「自分は何に引っかかっていたんだろう」「何がしんどかったんだろう」と、自分の気持ちが整理されていきます。こうして「心の棚卸し」をすることで、自分の心の状態にも気づけます。
相談を受ける側は、じっくり相手の話を聞く時間を作るといいと思います。その場で時間が取れなければ、「今は時間が取れないので、◯時に話しましょう」と約束して、あとで時間を取ればいいのです。
ただ、「こんなことを言ったら怒られる」「弱音を吐いたら評価が下がる」と感じる職場では、相談したくてもなかなかできません。
困っていることや、自分の今の状態を安心して話せる。そんな心理的安全性のある職場であれば、困ったときにも自然に声を上げられます。
そのような職場にするために、1on1(ワン・オン・ワン)で定期的に上司と話す機会を設けることも効果的です。問題が起きたときだけではなく、普段から話す機会があれば、すぐに自分の言葉にできない気持ちを整理することもできますし、いざという時に上司に声をかけやすくなります。
相談できる人がいる。話を聞いてもらえる。そんな環境が、職員の心の余裕につながるのだと思います。
怒りや不機嫌を周りにぶつけない
怒ること自体が悪いわけではありません。誰でもイライラしたり、腹が立ったりすることはあります。
問題は、その怒りや不機嫌を、そのまま周りの人にぶつけてしまうことです。強い口調で話す、物に当たる、不機嫌な態度をとり続ける。そうした言動によって、周りの人が萎縮したり、必要以上に気を遣ったりするようになります。そのような環境下では、心理的安全性は保てません。
そこで役立つのが、「アンガーマネジメント」です。アンガーマネジメントは、怒らないようにすることではなく、自分の怒りと上手に付き合うための考え方です。
イライラしたときに、すぐ言葉や態度に出すのではなく、少し時間を置く。怒りのピークのまま反応せず、いったんその場を離れたり、深呼吸をしたりして、気持ちが落ち着いてから話すようにします。
そして、「自分はいま何に怒っているんだろう」と考えてみる。目の前の相手に腹を立てているのか、それとも疲れや別のストレスが重なっているのか。自分の怒りに気づき、一度立ち止まることで、感情のまま相手にぶつけることを防ぎやすくなります。
ここで、面白い例え話をお話ししましょう。
夫婦喧嘩をしているときに、職場の上司から電話がかかってきたとします。あなたは、さっきまで怒っていたとしても、冷静な口調で電話に出ることでしょう。
そう、怒りはコントロールできるのです。
カスタマーハラスメントについて、最後に思うこと
ここまで、職場の中で起こるパワハラを防ぐために、心の余裕や相談しやすい環境、感情との付き合い方について書いてきました。
では、カスタマーハラスメントについてはどうでしょうか。
カスタマーハラスメントについては、相手の考え方や心の状態を、こちらが変えることはできません。
だからこそ、過剰な要望や行き過ぎた言動に対しては、職員一人に対応を任せるのではなく、事業所として毅然とした態度で対応するべきだと思います。
相手を変えようとするのではなく、どこまで対応するのかを事業所として決め、職員を守る。
職場の内側では、ハラスメントが起きにくい環境をつくる。外からのカスタマーハラスメントには、組織として対応する。
その両方があってこそ、職員が安心して働ける職場になるのだと思います。
まとめ
もし今、しんどさを感じているなら、それを一人で抱え込まないでください。記録を残し、相談できる先を確認し、必要であれば声をあげてください。そして、自分の心の余裕を保つことも、忘れないでほしいと思います。
ここまでの話を、1枚にまとめました。
よくある質問
ご家族からの強い要望と、カスタマーハラスメントはどう違いますか?
要望や苦情を伝えること自体は、正当な権利です。問題になるのは、その伝え方や頻度が行き過ぎたときです。大声で怒鳴る、同じ要求を執拗に繰り返す、長時間拘束するなど、職員が通常の業務を続けられなくなるような状態になれば、事業所として対応を検討する段階だと思います。
認知症の症状による言動なのか、そうでないのか、その場でどう見分ければいいですか?
その場で完全に見分けるのは、正直難しいこともあります。だからこそ、一度で判断せず、普段の様子や状態の変化と照らし合わせて考えることが大切です。判断に迷うときは、一人で抱え込まず、ケアマネジャーや主治医など、関わっている専門職に相談してみてください。
ハラスメントを相談したら、自分の評価が下がるのではと心配です。
その心配はもっともだと思います。だからこそ、相談したことを理由に不利益を受けることがあってはいけません。もし相談した結果、扱いが悪くなるようなことがあれば、それは相談した側ではなく、事業所の対応のほうに問題があります。
1on1をやったことがない職場です。どう始めればいいですか?
まずは、無理のない頻度で始めてみるのがいいと思います。問題が起きたときだけの面談ではなく、普段の状態を聞く時間として位置づけると、自然に話しやすくなります。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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