親の介護、兄弟で分担するには。言わないと伝わらない
「気づけば、私ばっかり親の世話をしてる…」
「なんで私だけ?」
その一言を口にしたくても、 「近くに住んでいるのは私だから」 「仕事をセーブしたのは私だから」 「言ったら、家族が壊れそうだから」 ——そう思って飲み込んでしまう方は、少なくありません。
その気持ちは、わがままでも冷たさでもないと思います。
そして、ひとつだけ先にお伝えしたいことがあります。言わないと、伝わりません。 きょうだいは、あなたが黙って抱えている量を、たぶん知りません。
今日の話は、「もめないために我慢する」話ではありません。もっと良い介護をするために、話す——そのための話です。
親の介護が、なぜ兄弟の一人に偏ってしまうのか
介護が特定のきょうだいに集中するのには、いくつかわかりやすい理由があります。
物理的な距離が大きいです。親の近くに住んでいる人が、どうしても「ちょっと様子を見る」「病院に連れていく」の担い手になっていきます。遠方のきょうだいは「行けないから申し訳ない」と思いつつも、日常の対応が難しい。気づけばそれが”当たり前”になっていきます。
性別や役割の思い込みも影響します。「長男だから」「嫁だから」「女きょうだいが多いから」といった古い感覚が、誰も口に出さないまま分担に影響することがあります。
そして、もうひとつ大きいのが「言い出しにくい空気」です。「手伝ってほしい」と言うと責めているように聞こえそうで、近くにいるきょうだいが黙って引き受け続ける。その積み重ねが、じわじわと疲弊につながっていきます。
一人で抱えてきた方に、まず言いたいのは。「あなたが強かったからじゃない、あなたが我慢してきたんですよ」ということです。
なぜ分けるのか——「みんなで支える」ほうが、良い介護になる
分担の話をすると、「自分が楽をしたいみたいで、言い出しにくい」とおっしゃる方がいます。でも、わたしはこう思っています。一人で抱える介護より、みんなで支える介護のほうが、親御さんにとっても良い介護になると。
理由は3つあります。
①一人だと、見えないところが出てくる。 ずっと近くで見ている人ほど、変化に慣れてしまいます。たまに会うきょうだいが「あれ、前より痩せた?」「歩き方が変わった」と気づくことは、本当によくあります。目が増えることは、それだけで安全につながります。
②親にとって、関わる家族が多いほうが嬉しい。 これは現場で強く感じます。介護される側にとって、「みんなが自分のことを気にかけてくれている」と感じられることは、想像以上に大きな支えです。逆に、一人の家族だけが疲れた顔で通ってくる——という形は、本人にとってもつらいものです。
③抱えた人が倒れたら、介護そのものが止まる。 これがいちばん現実的な理由です。一人に全部が乗っている状態は、その人が体調を崩した瞬間に何もかも止まります。分けておくことは、備えでもあるんです。
だから目指したいのは、誰か一人が犠牲になる形ではなく、家族みんなの暮らしが、そこそこバランスの取れた状態。親の生活も、きょうだいそれぞれの生活も、どれも大事だという前提で組み立てていきます。
頼む前に——相手にも、事情があるかもしれない
もうひとつ、大事なことを。
「動いてくれないきょうだい」に見えるその人にも、こちらから見えていない事情があるかもしれません。
たとえば、配偶者の親の介護をすでに抱えている。仕事で人を減らせない立場にいる。子どもの受験や、本人の持病。家庭の中がうまくいっていない時期——。
介護は、たいてい人生のいちばん忙しい時期に重なります。あなたが大変なのと同じように、相手にも「言えていない大変さ」があるかもしれない。
だから、頼む前に一度だけ聞いてみてください。
「そっちは今、どんな感じ? 無理のない範囲でいいから、手伝えることある?」
責める前に事情を聞く。それだけで、相手の身構えがずいぶん変わります。もし本当に手を出せない事情があるなら、「手」ではなく「お金」や「情報」で参加してもらえばいい——という話に、自然につながっていきます。
“できること”を出し合う。お金・手・情報の3つで考える
分担を考えるとき、「全員が同じことを同じだけやる」という平等は、ほぼ不可能です。そもそも、できることが人によって違うからです。
大事なのは「平等」ではなく「納得」。それぞれができることを持ち寄って、全体としてうまく回る形を作ることです。
整理するときに使いやすい枠組みが、「手・お金・情報」の3種類です。
| 役割 | 近くのきょうだい | 遠方のきょうだい |
|---|---|---|
| 手(直接の世話) | 通院の付き添い、買い物、家事、急なときの対応 | 帰省したときにまとめて担当、連休は交代で泊まる |
| お金(費用の負担) | 日々の立て替え、記録 | 毎月いくらと決めて送金、介護用品をネットで注文 |
| 情報(状況の共有) | ケアマネ・主治医とのやりとり、受診に同行 | 家族LINEの管理、通院結果やサービス変更の共有をまとめる |
「情報」は地味に見えて、実はかなりの仕事です。ケアマネへの連絡、家族LINEでの共有、受診結果の伝達、サービスを変えたときの説明——これを一人が全部抱えると、頭がずっと介護のことでいっぱいになります。遠方のきょうだいでも、「連絡係・記録係」なら十分に担えます。
遠方だから何もできない、ということはありません。「ありがとう、助かった」の一言の電話でさえ、近くで介護している人の気持ちをずいぶん楽にします。
介護費用は、兄弟(きょうだい)でどう分担する? まず「見える化」から
介護費用の分担は、話し合いのなかでいちばん感情がこじれやすいところです。でも、こじれる原因の多くは「いくら使っているか、誰も把握していない」ことにあります。
まず近くで介護しているきょうだいが、出費をざっくりでいいので記録しておきましょう。
- 通院のタクシー代・電車代
- 介護用品(おむつ・衛生用品)の購入費
- デイサービスやヘルパーの自己負担分
- 食料品・日用品の補充
家計簿アプリでも、メモアプリでも、紙のノートでも構いません。「見えない支出」が積み重なっているのに、遠方のきょうだいにはそれが伝わらないから「なんでそんなにかかるの?」という会話になってしまうのです。
記録があれば、「月だいたいこのくらいかかってる」と事実として共有できます。感情論ではなく数字の話にできると、ずっと話し合いがしやすくなります。
それから、もうひとつ大事なこと。介護が始まると、多くの方がまず自分のお財布から出しはじめます。でも本来は、親のお金(年金や貯金)でどこまで賄えるかを先に整理するのが順番です。そのうえで足りない分を、きょうだいでどう分担するか——という話にすると、ぐっと話し合いやすくなります。
親のお金の状況も含めて、定期的に共有する習慣を作るのが、費用分担をうまくいかせるいちばんの近道です。
なお、介護が始まったばかりで「まず何から動けばいい?」という段階の方は、親が倒れたとき、最初にやること5選もあわせて読んでみてください。お金の準備だけでなく、最初に確認しておきたい手続きをまとめています。
責めない話し合いの「言い方」を変えるだけで、ずいぶん違う
話し合いが感情的になりやすいのは、「なんでやってくれないの」という言い方になってしまうからです。これは相手を責める形になるので、相手も防衛的になります。
変えるヒントは、「わたしは〜で困っている」という伝え方にすることです。
- ❌「あなたは全然手伝ってくれない」
- ✅「わたし一人だと、病院の送迎が週2回きつくてさ。何か一緒にできることあるかな?」
攻撃ではなく、「困っていることの共有」です。相手も「そんなに大変だったのか」と初めて気づくことは、案外多いんです。
もう一つ、話し合いの場を設けるタイミングも大切です。「なにか問題が起きたとき」だけに集まると、その問題自体への感情がのってきてしまいます。できれば問題が起きていない落ち着いた時期に、定期的に近況を共有する場を作っておくのが理想的です。
帰省のついでに30分でも顔を合わせる、ビデオ通話で月1回話す、それだけでも「空気」はずいぶん変わります。
家族で分ける前に、“総量”を減らす
ここが、いちばんお伝えしたいところかもしれません。
きょうだい3人で「通院の付き添いをどう回すか」を取り合うより、介護保険のサービスで埋められる部分は、埋めてしまうほうが早くて確実です。
- 家事や買い物 → 訪問介護(ヘルパー)
- 日中の見守りや入浴 → デイサービス
- 通院の付き添い → 介護タクシーや、事業所によっては付き添いを頼めることも
- 数日まとめて休みたい → ショートステイ
家族で分ける対象を、「全部」から「サービスで埋めきれない残りの部分」に減らす。そのうえで残りを、きょうだいで持ち寄る。この順番にすると、そもそも取り合いになる量が小さくなります。
ここが、ケアマネジャーが力になれるところです。親御さんの状態に合ったサービスを組み立てて、家族が背負う量そのものを軽くする。「今の状態なら、こういう使い方もできますよ」という提案が出てきます。
だから、担当のケアマネジャーには、遠慮なくこう言ってみてください。
「今、家族の負担がこのくらいで、正直きついんです。サービスで減らせるところはありますか?」
家族だけでは話し合いが難しいときも、担当ケアマネや地域包括支援センター(地域にある高齢者の相談窓口)に相談してみてください。状況を整理したり、使える支援を一緒に考えたり、必要に応じて話し合いの進め方を助言してもらえることがあります。
あわせて、きょうだい全員が同じ情報を持てる場としては、サービスを見直すときに開かれる「担当者会議」があります。専門職から今の状態やサービスの説明を、その場で全員が一緒に聞ける。「聞いた・聞いてない」の食い違いが減るので、遠方のきょうだいにも、都合がつくときは参加してもらえるといいと思います。遠方でもLINE電話などオンラインでの参加もできます。
まとめ
「全部お願い」ではなく、小さなお願いから。
- 「病院の付き添い、月に1回だけお願いできる?」
- 「月に1回でいいから、お母さんに電話してもらえる?」
- 「おむつ代だけ、ネットで注文してもらえない?」
これくらいなら、言うほうも頼まれるほうも構えずにすみます。ひとつ引き受けてもらえたら、そこから少しずつ広げていけばいい。
家族からよく聞かれる質問
遠方に住む兄弟に、お金の負担をお願いしてもいいですか?
お願いしていいです。ただ、いきなり「いくら出して」と言うと角が立つので、順番があります。
まず親のお金(年金・貯金)で、月いくら賄えているかを出す。次に、足りない分を示す。そのうえで「この不足分、どうしようか」と相談する形にします。「あなたが出して」ではなく「親のお金で足りない分をどうするか」という共同の課題になるので、話がこじれにくくなります。
金額の決め方は、きっちり折半にこだわらなくて大丈夫です。手をかけている人は金額を軽くする、遠方の人は多めに出す——こういう調整をしている家族は多いです。金額より「決まっていること」のほうが、あとあと揉めません。
兄弟が「大変そうには見えない」と言って動いてくれません。
「大変そうに見えない」は、たいてい”見えていない”だけです。言葉で「大変」と言うより、書き出して見せるほうが早く伝わります。
たとえば、こんなふうに1週間分を書き出してみてください。
- 月:デイの送り出し(朝)/夕方に様子を見に行く
- 火:通院の付き添い(半日休み)
- 水〜金:夕食を届ける
- 土:買い物・洗濯・掃除
- 日:ケアマネと電話、薬の整理
これに月の出費を添えて、LINEで送るだけでいい。「週に何回、何時間」が数字で見えた瞬間に、「そんなにやってたのか」と態度が変わることは、本当によくあります。感情ではなく事実で伝える、が効きます。
話し合いを提案したら、兄弟に「今さら何?」と怒られました。
強く返ってくるときは、相手の側にも後ろめたさや、言えていない事情があることが多いです。そこで押し返すと、たいてい平行線になります。
いったん分担の話は置いて、「そっちも大変だよね、どんな感じ?」と事情を聞くところに戻るほうが、結果的に早いです。そのうえで、頼むのはひとつだけにしてください。「全部手伝って」ではなく「月1回、電話だけしてくれない?」。断られにくい大きさまで小さくするのがコツです。
それでも動かないなら、人を動かすことにエネルギーを使わないでください。担当のケアマネジャーに「家族の負担を、サービスで減らせないか」と相談するほうが確実です。相手を変えるより、背負う量を減らすほうが早い場面は、現実にあります。
兄弟に介護の話をすると、いつも「施設に入れたら?」と言われます。
「施設」と言われると突き放された気がしますが、多くの場合それは「あなたが大変そうだから」という心配の裏返しだったりします。
そのうえで、返し方を用意しておくと話が進みます。「じゃあ、施設の情報を集めるのをお願いできる?」——これが効きます。施設探しは、見学の日程調整、費用の比較、書類の準備と、かなりの手間です。遠方でも調べられる仕事なので、遠くにいる人にこそ頼めます。
そして押さえておきたいのは、入るかどうかを決めるのは、親本人と家族だということ。費用も基本は親のお金からです。「言うだけ」で終わらせず、具体的な役割にして渡してみてください。それでも動かないなら、その提案は本気ではなかった、ということが分かります。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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