人生会議(ACP)とは?何を話す?家族でのやさしい始め方
もし病気やケガで、親が自分の気持ちを伝えられなくなったら——。
そのとき「お母さんは、どうしたかったんだろう」と、家族が想像で決めることになります。 これが、ご家族にとって本当につらい時間なんです。
だから、元気なうちに少しだけ話しておく。それが「人生会議(ACP)」です。
聞きたいけど、縁起でもないって怒られそう。元気なのに早すぎる気もして…。 そう感じて、話し出せずにいる方はとても多いです。
でも安心してください。人生会議は「どう最期を迎えるか」だけを決める場ではありません。 「これから、どう生きたいか」を話す時間でもあります。
一度で全部を決める必要はありません。今日から少しずつ、それで十分です。
「人生会議(ACP)」って、そもそも何?
人生会議は、本人のためだけでなく、家族の心を守るための準備でもあります。
本人の気持ちが分かっていれば、家族は「これでよかった」と思える。分からなければ、「あの判断でよかったのか」と、ずっと自分を責めることになる。この差は、あとになるほど大きくなります。
そのうえで、あらためて。人生会議とは「Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)」の愛称で、 厚生労働省が広めている取り組みです。
一言でいうと、もしものときに自分がどうしたいかを、前もって家族や医療・介護の専門職と、くり返し話し合っておくこと。
そして、人生会議は「死に方を決める話」ではありません。 「何を大事にして生きたいか」「これからどんなふうに暮らしたいか」——そこから始まる話です。
「毎日、庭の花を見られたら十分」「痛いのだけは嫌」「家族に迷惑をかけたくない」。そんな何気ない言葉が、いざというときに家族を助けてくれます。医療のことは、その先にある一部分にすぎません。
大事なのは、一度きりの「会議」ではないこと。国の指針でも、気持ちは変わりうるものだから、話し合いはくり返し行うことが大切だとされています。「決める」というより「話し続ける」に近いものだと思ってください。
そしてもうひとつ。話し合うときは、本人が自分の意思を伝えられなくなったときに、代わりに気持ちを推し量ってくれる人を決めておくと、いざというときの支えになります。これも国の指針で勧められていることです。
ここで多くの家族が迷うのが、「長男? 配偶者? 子ども全員?」ということ。でも、法律で順番が決まっているわけではありません。本人が「この人に伝えてほしい」と思う人で構いません。いちばんよく話を聞いてくれる人、気持ちを分かってくれる人——それでいいんです。
なぜ「元気なうちに」なのかというと、病気が進んだり、認知症が重くなったりすると、本人が自分の言葉で希望を伝えることが難しくなるから。そうなってから「どうしたかったんだろう」と家族が悩むのは、本当につらいことです。
本人の意思が分かっていれば、医師や看護師も、その気持ちに寄り添った判断がしやすくなります。
どうやって切り出す?重くならない始め方
「さあ、話し合いましょう」と場を設けると、途端に重くなりがちです。 わたしが家族の方におすすめしているのは、日常の話題に乗せてさりげなく聞く方法です。
たとえば、こんなきっかけが使えます。
- テレビや新聞で看取りや終活の話題が出たとき
- 知り合いや親戚の訃報があったとき
- 通院や入院がひと段落したタイミング
- 食事中など、ほっとリラックスしているとき
「〇〇さんが亡くなったって聞いてね。お父さんは、これからどんなふうに過ごしたい?」
このくらいの温度感で十分です。 深刻な顔で「ちゃんと決めておいて」と迫るより、よほど話しやすい雰囲気になります。
反対に、避けたほうがいい切り出し方もあります。
- お正月や法事で、親族みんなが集まっている前で切り出す——本人が「追い詰められた」と感じやすく、その場の空気で本音が言えません
- 病院に向かう車の中や、検査結果を聞いた直後——不安でいっぱいのときに聞かれると、話が重くなりすぎます
- 「もしものときのために、決めておいてよ」と結論を急ぐ——本人は「早く決めろと迫られている」と感じてしまいます
大勢の前より一対一で、緊張しているときより穏やかなときに。それだけで、返ってくる言葉がずいぶん変わります。
話しておくと安心な「3つのこと」
じゃあ、何について話せばいいの?という方のために、 まず押さえておきたいことを3つ挙げます。
① 大事にしていること・してほしいこと
まずは、ここから。いちばん話しやすくて、いちばん大切な部分です。
「痛みをとることを一番に考えてほしい」「家族にそばにいてほしい」 「意識がなくても好きな音楽をかけてほしい」「最後まで自分のことは自分でしたい」——
本人がどんなことを大切にしているか。この”気持ち”を共有しておくことが、人生会議の本質です。ここが分かっていれば、あとの判断は自然とついてくることが多いんです。
② 過ごしたい場所
「住み慣れた自宅がいい」「病院のほうが安心」「施設で穏やかに」—— それぞれに理由があって、どれも正解です。
本人の希望を聞いておくことで、いざというときに家族が迷わずに動けます。 悩んで、迷って、みんなで話しあって決めたことだから… 【看取りのはなし】 という記事でも書きましたが、 「本人がそう言っていた」という言葉が、家族の迷いを軽くしてくれることがあります。
③ 医療のこと(延命治療など)
そして最後に、医療のこと。「心臓が止まりそうになったとき、蘇生処置を望むか」「胃ろうや人工呼吸器はどうするか」といった話です。
ここは、いちばん重たく感じるところだと思います。でも、今すぐ白黒を決める必要はありません。 「まだ分からない」「そのときになってみないと」という答えも、立派な答えです。 気持ちは変わっていい。その都度、話し合えばいいんです。
①と②が分かっていれば、いざというとき、医療の判断も「本人ならこう望んだはず」と考える手がかりになります。順番として、医療の話は最後でいい——そう覚えておいてください。
エンディングノートや、専門職の力も借りて
話し合ったことは、エンディングノートに書き留めておくと安心です。
といっても、全部を埋める必要はまったくありません。「痛いのは嫌」「できれば家がいい」——一行だけでも、立派な記録です。空欄だらけでも構いません。真っ白なページを前に「ちゃんと書かなきゃ」と身構えて、結局一文字も書けないまま……のほうが、もったいないですから。
エンディングノートは遺言書と違い、法的な効力はありませんが、 「本人がこう思っていた」という記録として、家族や医療・介護スタッフに伝える道具になります。 書店や市区町村の窓口でもらえることも多いですし、インターネットで無料ダウンロードできるものもあります。
書いたら、どこに置いてあるかを家族に伝えておくことも忘れずに。いざというときに見つからなければ、せっかくの記録が届きません。あわせて日付を書いておくと、「いつの時点の気持ちか」がわかって、家族も判断しやすくなります。
また、一人でうまく切り出せないと感じたときは、担当のケアマネジャーや主治医、看護師に相談するのも方法のひとつです。
「人生会議の話をしたいんですが、どうすればいいでしょう」と聞いてもらえれば、 いっしょに場を作るお手伝いができます。家族だけで全部やろうとしなくていいんです。
まとめ:今日から「小さな一言」でいい
人生会議は、重い覚悟がいる大きな決断の場ではありません。 「そういえば、どう思う?」という、日常のひとことから始まります。
- 元気なうちに話しておくことで、本人も家族も後悔が減る
- 一度で決めなくていい。気持ちは変わっていいし、何度でも話し合っていい
- 本人の意思が中心。周りの「こうすべき」に合わせる必要はない
- 意思を代わりに伝えてくれる人を決めておくと、いざというとき家族が迷いにくい
- うまく話せないときは、エンディングノートや専門職の力を借りる
「縁起でもない」と思っていた話が、実は一番大切な家族の会話だったりします。
わたしもケアマネとして、ご本人の希望を前から聞けていたご家族と、「一度も話したことがなかった」というご家族の、両方を見てきました。どちらが正しい・間違っている、ではありません。ただ、少しでも言葉を交わせていたご家族のほうが、「本人が望んだことだから」と、自分の判断を支えにできていた——そう感じる場面は、少なくありませんでした。
だから、今日の夕飯のときにでも。
「テレビで人生会議っていうのを見たんだけど、お父さんならどう思う?」
その一言だけで、十分です。ちゃんと話し合えなくてもいい。答えが返ってこなくてもいい。「聞いてみた」という事実が、あとで効いてきます。
今日のあなたに合ったペースで、少しずつ。それで十分です。
家族からよく聞かれる質問
本人が「考えたくない」と言って、まったく話してくれません。
無理に話し合いを進めようとするほど、かたくなになってしまうことがあります。そんなときは一度引いて、時間をおくのが一番です。主治医や看護師から自然に話が出るよう、受診の場面でさりげなく相談するのも方法のひとつです。
きょうだいにも、一緒に聞いてもらったほうがいいですか?
できれば、そのほうが安心です。人生会議は本人が主役の話し合いですが、本人の言葉を聞いている人が一人だけだと、いざというときに「本当にそう言っていたの?」と、きょうだいの間で受け止めがそろわないことがあります。
本人が元気なうちに、きょうだいも同じ場でその言葉を聞いておく。それだけで、あとで意見が割れにくくなります。集まるのが難しければ、聞いた内容を家族で共有しておくだけでも違います。
大事なのは、家族が先に「こうしよう」と決めてしまわないこと。あくまで本人の気持ちを聞く場です。
一度決めた希望を、後から変えてもいいですか?
もちろん、変えていいです。気持ちは変わるものですし、体の状態や生活の変化によって「やっぱり違う」と感じることは自然なことです。人生会議は「一度決めたら終わり」ではなく、何度でも話し合える、くり返しのプロセスです。
人生会議の内容を書面に残さないといけませんか?
書面にしなければ無効、ということはありません。ただ、口頭だけだと「そんな話をした記憶がない」と後でもめることもあるため、エンディングノートや覚書のような形で残しておくと、家族も専門職も動きやすくなります。公正証書のような法的な書類でなくても大丈夫です。
認知症が進んでいて、本人の意思確認が難しい場合はどうすればいいですか?
認知症があっても、本人の言葉や表情、日常の様子から「その人らしさ」を読み取ることが大切にされています。以前に話していた言葉や、書き留めておいたものが手がかりになることもあります。
国の指針でも、本人の意思が確認できないときは、家族などが「本人だったらどう考えるだろう」と推し量り(推定し)、それを尊重するとされています。ここで大切なのは、「家族としてどうしてほしいか」ではなく「本人ならどう望んだか」を考えること。難しい問いですが、この向き合い方が、あとで家族の心を守ってくれます。
それでも分からないときは、家族と医療・ケアチームで話し合い、本人にとって最善の方針をとることになります。一人で背負って決める必要はありません。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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