在宅介護

人生会議(ACP)とは?何を話す?家族でのやさしい始め方

人生会議(ACP)とは?何を話す?家族でのやさしい始め方

もし病気やケガで、親が自分の気持ちを伝えられなくなったら——。

そのとき「お母さんは、どうしたかったんだろう」と、家族が想像で決めることになります。 これが、ご家族にとって本当につらい時間なんです。

だから、元気なうちに少しだけ話しておく。それが「人生会議(ACP)」です。

聞きたいけど、縁起でもないって怒られそう。元気なのに早すぎる気もして…。 そう感じて、話し出せずにいる方はとても多いです。

でも安心してください。人生会議は「どう最期を迎えるか」だけを決める場ではありません「これから、どう生きたいか」を話す時間でもあります。

一度で全部を決める必要はありません。今日から少しずつ、それで十分です。


こまり
こまり
ねえ、とも。「人生会議」って、なんか大ごとな感じがするけど…元気なうちに、そんな話をしていいの?
とも
とも
元気なうちだからこそ、なんです。体が動いて、頭もはっきりしているうちが、一番「自分の気持ち」を話せるタイミングなので。重く構えなくても、日常のおしゃべりから始めていいんですよ。
こまり
こまり
日常のおしゃべりから?どんな話から入るの?
とも
とも
例えば「テレビで看取りのドキュメンタリーを見た」とか「近所の〇〇さんが亡くなった」とか。そういう話題が出たときに、さりげなく「お父さんはどう思う?」って聞いてみる。そこから始められます。

「人生会議(ACP)」って、そもそも何?

自宅のリビングで穏やかに会話する親子

人生会議は、本人のためだけでなく、家族の心を守るための準備でもあります。

本人の気持ちが分かっていれば、家族は「これでよかった」と思える。分からなければ、「あの判断でよかったのか」と、ずっと自分を責めることになる。この差は、あとになるほど大きくなります。

そのうえで、あらためて。人生会議とは「Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)」の愛称で、 厚生労働省が広めている取り組みです。

一言でいうと、もしものときに自分がどうしたいかを、前もって家族や医療・介護の専門職と、くり返し話し合っておくこと

そして、人生会議は「死に方を決める話」ではありません。 「何を大事にして生きたいか」「これからどんなふうに暮らしたいか」——そこから始まる話です。

「毎日、庭の花を見られたら十分」「痛いのだけは嫌」「家族に迷惑をかけたくない」。そんな何気ない言葉が、いざというときに家族を助けてくれます。医療のことは、その先にある一部分にすぎません。

大事なのは、一度きりの「会議」ではないこと。国の指針でも、気持ちは変わりうるものだから、話し合いはくり返し行うことが大切だとされています。「決める」というより「話し続ける」に近いものだと思ってください。

そしてもうひとつ。話し合うときは、本人が自分の意思を伝えられなくなったときに、代わりに気持ちを推し量ってくれる人を決めておくと、いざというときの支えになります。これも国の指針で勧められていることです。

ここで多くの家族が迷うのが、「長男? 配偶者? 子ども全員?」ということ。でも、法律で順番が決まっているわけではありません本人が「この人に伝えてほしい」と思う人で構いません。いちばんよく話を聞いてくれる人、気持ちを分かってくれる人——それでいいんです。

なぜ「元気なうちに」なのかというと、病気が進んだり、認知症が重くなったりすると、本人が自分の言葉で希望を伝えることが難しくなるから。そうなってから「どうしたかったんだろう」と家族が悩むのは、本当につらいことです。

本人の意思が分かっていれば、医師や看護師も、その気持ちに寄り添った判断がしやすくなります。


どうやって切り出す?重くならない始め方

「さあ、話し合いましょう」と場を設けると、途端に重くなりがちです。 わたしが家族の方におすすめしているのは、日常の話題に乗せてさりげなく聞く方法です。

たとえば、こんなきっかけが使えます。

  • テレビや新聞で看取りや終活の話題が出たとき
  • 知り合いや親戚の訃報があったとき
  • 通院や入院がひと段落したタイミング
  • 食事中など、ほっとリラックスしているとき

「〇〇さんが亡くなったって聞いてね。お父さんは、これからどんなふうに過ごしたい?」

このくらいの温度感で十分です。 深刻な顔で「ちゃんと決めておいて」と迫るより、よほど話しやすい雰囲気になります。

反対に、避けたほうがいい切り出し方もあります。

  • お正月や法事で、親族みんなが集まっている前で切り出す——本人が「追い詰められた」と感じやすく、その場の空気で本音が言えません
  • 病院に向かう車の中や、検査結果を聞いた直後——不安でいっぱいのときに聞かれると、話が重くなりすぎます
  • 「もしものときのために、決めておいてよ」と結論を急ぐ——本人は「早く決めろと迫られている」と感じてしまいます

大勢の前より一対一で、緊張しているときより穏やかなときに。それだけで、返ってくる言葉がずいぶん変わります。

こまり
こまり
でも、「縁起でもない」って怒られたら、どうしよう…
とも
とも
それは、正直あるんですよね。最初は「そんな話やめて」と嫌がる方もいます。そのときは無理に続けなくていい。「そうだよね、ごめんね」って引いて、また時間をおいてから話してみる。一度で全部を話し合おうとしなくていいんです。

話しておくと安心な「3つのこと」

じゃあ、何について話せばいいの?という方のために、 まず押さえておきたいことを3つ挙げます。

① 大事にしていること・してほしいこと

まずは、ここから。いちばん話しやすくて、いちばん大切な部分です。

「痛みをとることを一番に考えてほしい」「家族にそばにいてほしい」 「意識がなくても好きな音楽をかけてほしい」「最後まで自分のことは自分でしたい」——

本人がどんなことを大切にしているか。この”気持ち”を共有しておくことが、人生会議の本質です。ここが分かっていれば、あとの判断は自然とついてくることが多いんです。

② 過ごしたい場所

「住み慣れた自宅がいい」「病院のほうが安心」「施設で穏やかに」—— それぞれに理由があって、どれも正解です。

本人の希望を聞いておくことで、いざというときに家族が迷わずに動けます。 悩んで、迷って、みんなで話しあって決めたことだから… 【看取りのはなし】 という記事でも書きましたが、 「本人がそう言っていた」という言葉が、家族の迷いを軽くしてくれることがあります。

③ 医療のこと(延命治療など)

そして最後に、医療のこと。「心臓が止まりそうになったとき、蘇生処置を望むか」「胃ろうや人工呼吸器はどうするか」といった話です。

ここは、いちばん重たく感じるところだと思います。でも、今すぐ白黒を決める必要はありません。 「まだ分からない」「そのときになってみないと」という答えも、立派な答えです。 気持ちは変わっていい。その都度、話し合えばいいんです。

①と②が分かっていれば、いざというとき、医療の判断も「本人ならこう望んだはず」と考える手がかりになります。順番として、医療の話は最後でいい——そう覚えておいてください。


エンディングノートや、専門職の力も借りて

エンディングノートに静かに書き記す女性

話し合ったことは、エンディングノートに書き留めておくと安心です。

といっても、全部を埋める必要はまったくありません。「痛いのは嫌」「できれば家がいい」——一行だけでも、立派な記録です。空欄だらけでも構いません。真っ白なページを前に「ちゃんと書かなきゃ」と身構えて、結局一文字も書けないまま……のほうが、もったいないですから。

エンディングノートは遺言書と違い、法的な効力はありませんが、 「本人がこう思っていた」という記録として、家族や医療・介護スタッフに伝える道具になります。 書店や市区町村の窓口でもらえることも多いですし、インターネットで無料ダウンロードできるものもあります。

書いたら、どこに置いてあるかを家族に伝えておくことも忘れずに。いざというときに見つからなければ、せっかくの記録が届きません。あわせて日付を書いておくと、「いつの時点の気持ちか」がわかって、家族も判断しやすくなります。

また、一人でうまく切り出せないと感じたときは、担当のケアマネジャーや主治医、看護師に相談するのも方法のひとつです。

「人生会議の話をしたいんですが、どうすればいいでしょう」と聞いてもらえれば、 いっしょに場を作るお手伝いができます。家族だけで全部やろうとしなくていいんです。

こまり
こまり
つまり…一度でぜんぶ決めなくていいし、気持ちが変わってもいいし、専門家に頼んでもいい。「話そうとすること」が大事、ってこと?
とも
とも
そのとおりです。「決めておかなければ」と焦らなくていい。話し合おうとした、その積み重ねが大切です。本人の意思が最優先。家族の都合や、周囲の「こうすべき」に流されないように、ゆっくり丁寧に話し合っていきましょう。

まとめ:今日から「小さな一言」でいい

人生会議は、重い覚悟がいる大きな決断の場ではありません。 「そういえば、どう思う?」という、日常のひとことから始まります。

  • 元気なうちに話しておくことで、本人も家族も後悔が減る
  • 一度で決めなくていい。気持ちは変わっていいし、何度でも話し合っていい
  • 本人の意思が中心。周りの「こうすべき」に合わせる必要はない
  • 意思を代わりに伝えてくれる人を決めておくと、いざというとき家族が迷いにくい
  • うまく話せないときは、エンディングノートや専門職の力を借りる

「縁起でもない」と思っていた話が、実は一番大切な家族の会話だったりします。

わたしもケアマネとして、ご本人の希望を前から聞けていたご家族と、「一度も話したことがなかった」というご家族の、両方を見てきました。どちらが正しい・間違っている、ではありません。ただ、少しでも言葉を交わせていたご家族のほうが、「本人が望んだことだから」と、自分の判断を支えにできていた——そう感じる場面は、少なくありませんでした。

だから、今日の夕飯のときにでも。

「テレビで人生会議っていうのを見たんだけど、お父さんならどう思う?」

その一言だけで、十分です。ちゃんと話し合えなくてもいい。答えが返ってこなくてもいい。「聞いてみた」という事実が、あとで効いてきます。

今日のあなたに合ったペースで、少しずつ。それで十分です。


家族からよく聞かれる質問

とも
とも
最後に、人生会議についてご家族からよく聞かれることをいくつか紹介しますね。

本人が「考えたくない」と言って、まったく話してくれません。

無理に話し合いを進めようとするほど、かたくなになってしまうことがあります。そんなときは一度引いて、時間をおくのが一番です。主治医や看護師から自然に話が出るよう、受診の場面でさりげなく相談するのも方法のひとつです。

きょうだいにも、一緒に聞いてもらったほうがいいですか?

できれば、そのほうが安心です。人生会議は本人が主役の話し合いですが、本人の言葉を聞いている人が一人だけだと、いざというときに「本当にそう言っていたの?」と、きょうだいの間で受け止めがそろわないことがあります。

本人が元気なうちに、きょうだいも同じ場でその言葉を聞いておく。それだけで、あとで意見が割れにくくなります。集まるのが難しければ、聞いた内容を家族で共有しておくだけでも違います。

大事なのは、家族が先に「こうしよう」と決めてしまわないこと。あくまで本人の気持ちを聞く場です。

一度決めた希望を、後から変えてもいいですか?

もちろん、変えていいです。気持ちは変わるものですし、体の状態や生活の変化によって「やっぱり違う」と感じることは自然なことです。人生会議は「一度決めたら終わり」ではなく、何度でも話し合える、くり返しのプロセスです。

人生会議の内容を書面に残さないといけませんか?

書面にしなければ無効、ということはありません。ただ、口頭だけだと「そんな話をした記憶がない」と後でもめることもあるため、エンディングノートや覚書のような形で残しておくと、家族も専門職も動きやすくなります。公正証書のような法的な書類でなくても大丈夫です。

認知症が進んでいて、本人の意思確認が難しい場合はどうすればいいですか?

認知症があっても、本人の言葉や表情、日常の様子から「その人らしさ」を読み取ることが大切にされています。以前に話していた言葉や、書き留めておいたものが手がかりになることもあります。

国の指針でも、本人の意思が確認できないときは、家族などが「本人だったらどう考えるだろう」と推し量り(推定し)、それを尊重するとされています。ここで大切なのは、「家族としてどうしてほしいか」ではなく「本人ならどう望んだか」を考えること。難しい問いですが、この向き合い方が、あとで家族の心を守ってくれます。

それでも分からないときは、家族と医療・ケアチームで話し合い、本人にとって最善の方針をとることになります。一人で背負って決める必要はありません。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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