認知症かもしれない親が病院を嫌がる…受診の声かけと物忘れ外来のこと
「病院に連れて行きたいけど、本人がぜったい行かないって言うんです」
こういうご相談、本当によく聞きます。 最近、親の物忘れが増えてきた。でも当の本人は「わたしはどこも悪くない」と自信満々で、受診をかたくなに断ってしまう。
どう声をかけたらいいか。どこの病院に行けばいいか。 今日はそこをいっしょに考えていきます。
なぜ本人は「病院に行かない」と言うのか
まず大事なことをひとつお伝えしたいのですが、「病院に行きたくない」という気持ち、認知症の本人にとっては理由のある言動なんです。
「自分がおかしい」と認めたくない。
検査が怖い。
「認知症と診断されたら終わり」という恐怖感がある。
そもそも、物忘れの自覚がほとんどない。
こういった背景があって、頑として動かないことが多いんですね。
ここでやってしまいがちなNG行動をひとつ挙げると、
「認知症かもしれないから病院に行こう」と正直に伝えてしまうことです。
家族からすれば、心配だからこそ言っている言葉。そのお気持ちは本当によく分かります。
でも本人からすると、「あなたはおかしい」と宣言されたように聞こえてしまうことがあるんです。
- 自尊心が傷つく
- 病気だと決めつけられたと感じる
- 「なぜ自分だけ責められているのか」と警戒心が強くなる
こうなると、そこから先の話がなかなか進まなくなります。
「なんで素直に病院に行ってくれないの」と家族が疲弊してしまうのも、当然だと思います。
責めているわけじゃない。心配しているだけなのに、伝わらない——そのしんどさ、決して珍しくないです。
声かけの工夫——実際に使える言葉の例
では、どんな言い方が受け入れてもらいやすいでしょうか。
いくつか、現場でよく使われる方法を紹介します。
「年に一度の健康チェック」として誘う
「認知症の検査」ではなく、「全体的な健康チェック」というイメージで伝えるのがポイントです。
たとえば、こんな言い方があります。
- 「健康診断のついでに、ちょっと診てもらおうか」
- 「最近疲れやすそうだから、先生に相談してみようよ」
- 「わたしも健康チェック受けるから、一緒に付き合ってよ」
最後の言い方のように、家族自身も一緒に行くというスタンスにすると、「自分だけ連れて行かれる」という感覚がやわらぐことがあります。
また、お子さん(つまり介護されているご家族)から言うよりも、ちょっと距離のある方に頼む方法もあります。
仲のいい人に誘ってもらう
友人・兄弟・孫など、少し距離のある人が誘うと素直に動きやすいことがあります。
「○○ちゃんと一緒に行こうか」と孫に声をかけてもらったら、すんなり来てくれた——そういうケースもあります。
「わたしのために来てほしい」と伝える
受診を急いだほうがよい場合に(これは後で触れますね)、正面から伝えることが有効なこともあります。
「お父さんにはいつまでも元気でいてほしい。わたしのために、一緒に行ってほしいの」——こういう言い方は、「あなたのために心配している」という気持ちが伝わりやすいです。
「検査」「診断」という言葉より、家族の願いを前に出した声かけです。
こんなサインがあるときは、早めに動いてほしい
様子を見ながら、タイミングを探している方も多いと思います。
ただ、以下のようなことが起きているときは、少し急いで動いてほしいと思っています。
- 火の消し忘れが続いている
- お金の管理が難しくなっている(請求書が溜まる、同じものを何度も買う)
- 運転中の事故やヒヤリハットが増えた
- 薬の飲み忘れが多くなった
- 道に迷うようになった(近所でも)
これらは、日常生活の安全にかかわってくることがあります。
「様子を見る」だけでは、本人や周囲の方が危険にさらされることもあります。
「まだ大丈夫かな」と思っていても、こういったサインが出てきたときは、ひとりで判断せず専門家に相談してほしいです。
何科に行けばいいの?——物忘れ外来とはどんな場所か
「そもそも、どこの病院に行けばいいの?」と悩む方も多いと思います。
まずはかかりつけ医に相談
いきなり大きな病院に行かなくてもOKです。
まずはふだん通っているかかりつけ医に「最近物忘れが気になっている」と話してみてください。
ここで簡単な認知機能のチェックをしてもらえますし、必要なら専門の病院や外来へ紹介状を書いてもらえます。
かかりつけ医がいない場合は、地域包括支援センター(高齢者の暮らしを無料で相談できる、地域の相談窓口)に相談すると、近くの相談先を教えてもらえます。
家族だけで先に相談する方法も
実は、本人を連れて行けなくても、家族だけで先に相談するケースは多くあります。
「本人が嫌がっていて連れて来られないのですが…」と、家族だけでかかりつけ医や地域包括支援センターを訪ねることは、まったく問題ありません。
本人を連れて行けないからといって、相談できないわけではないんです。
先生や相談員に「どんなふうに声をかけたらいいか」「次のステップをどうすればいいか」を一緒に考えてもらえます。
また、かかりつけ医に家族だけで事前相談しておくと、後日、本人を連れて行ったときに、診察の中で自然にミニテスト(記憶や判断のチェック)をやってもらいやすくなります。
物忘れ外来とはどんな場所?
「物忘れ外来」とは、認知機能の低下や認知症の診断・治療を専門的に行う外来のことです。
病院によって「もの忘れ外来」「認知症外来」「メモリークリニック」などの名前があります。
内科・神経内科・精神科・老年科などのなかに設置されていることが多いです。
ここでは、問診・認知機能テスト・MRIや血液検査などを組み合わせて診断が行われます。
「認知症疾患医療センター」という選択肢も
都道府県が指定している認知症疾患医療センター(大きめの病院に設置されていることが多い)では、より専門的な診断や、支援体制の相談が受けられます。
「どこに行けばいいか分からない」という方は、都道府県のウェブサイトや地域包括支援センターで確認できます。
受診できた後のこと——知っておいてほしいこと
本人を受診につなげたあとのことも、少し触れておきます。
診察室では、本人の前で「物忘れが…」と話すのが難しい場面もあります。
そういうときのために、受診前に先生へ伝えたいことをメモにまとめておくと便利です。
いつ頃から・どんな場面で・どのくらいの頻度でおかしいと感じたか、を書いておくとスムーズです。
「先生に先に知っておいてほしい」という場合は、診察前に電話やメモ書きで受付に伝えてもらえると対応してもらいやすくなります。
「本人には認知症の検査とは言っていません」と一言伝えておくのも大切です。
そして、受診してよかったことのひとつに、先を見通す準備ができることがあります。
- 薬で症状の進行を緩やかにできる場合がある
- 介護保険サービスの利用につながる入口になる
- 家族が「これからどうするか」を一緒に考え始められる
「何かが分かってしまう怖さ」より、「今の状態を正しく知って、必要な支援につながれること」の方が、結果として本人にも家族にもプラスになることが多いと思っています。
まとめ
「病院に行かない」という壁は、声かけの工夫と受診先の知識で、少しずつ乗り越えられることがあります。
今日の記事が、動き出すための小さなヒントになれば嬉しいです。
最終的なご判断や個別の状況については、担当のケアマネジャーや、かかりつけ医・地域包括支援センターの専門家にぜひご相談ください。
このブログでは、在宅介護のちょっとした「こまりごと」を、ともとこまりがやさしく解きほぐしていきます。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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