在宅介護

親に運転をやめてほしい。認知症と免許返納、どう切り出す

親に運転をやめてほしい。認知症と免許返納、どう切り出す

「事故を起こす前に、運転をやめてほしい。でも言い出すと不機嫌になって…」

そんな板挟みに悩んでいる家族の方、本当に多いです。 気持ちはじゅうぶん分かります。なのに、なぜかもめてしまう。

それは、「運転をやめさせる」という話の立て方に、少し問題があるのかもしれません。 今日は、責めずに・もめにくく進める順番の話をします。


とも
とも
こんにちは。今日は「親に運転をやめてほしいけれど、どう切り出せばいいか分からない」という、家族の方からよく聞く悩みについて話していきます。
こまり
こまり
危ないんだから、すぐ取り上げちゃえばいいんじゃないの?
とも
とも
それが、一番こじれてしまうんです。本人にとって運転って、「自分でまだできること」の最後のほうに残った大切なものだったりするんですよ。
こまり
こまり
えっ、そんなに大事なこと?
とも
とも
大事なんです。だからこそ、「取り上げる」じゃなくて「一緒に次の手を用意する」話にしていく。その順番が、とても大切になります。

「返したくない」の裏にある、本人の気持ち

車内で穏やかに話す高齢の父と娘

家族から見ると「なんでこんなに頑固なんだろう」と思えるかもしれません。でも、本人の側に立ってみると、返したくないのには、ちゃんとした理由があります。

高齢の方にとって、車は単なる移動手段ではありません。「自分で病院に行ける」「買い物に行ける」「孫に会いに行ける」——そのすべてが、運転できることとセットになっています。特に公共交通機関が少ない地域では、車がなければ生活が一変します。

そして、それ以上に大きいのが「まだ自分でできる」という感覚です。長年ハンドルを握ってきた人にとって、運転は「自立している自分」そのもの。それを手放すことは、「もう歳だ、人に頼るしかない」と認めることのように感じられます。

車を手放す=家族に送り迎えを頼む=迷惑をかける、という負い目もあります。「子どもの世話にはなりたくない」という思いが、かえって「まだ大丈夫だ」という言葉になって出てくることもあります。

さらに、車がなくなって行動範囲が狭まることは、人と会えなくなる・社会から切り離されることへの不安にもつながります。やめた後の暮らしが見えないほど、その不安は「絶対に返さない」という抵抗になって表れます。

こまり
こまり
返したくないって、ただのワガママじゃなくて…こわいんだね。
とも
とも
そうなんです。だから「頑固だ」と責めても、そのこわさは消えません。むしろ「そのこわさ、分かるよ」と受け止めるところから始めたほうが、ずっと話が進みやすいんですよ。

認知症の親に伝え方を工夫することの大切さは、認知症の親に言ってはいけない言葉と、やさしい言い換えでも詳しく書きました。「どう言うか」が、関係をこじらせるかどうかの分かれ目になります。


こんな様子が増えていませんか——運転の危険サイン

「認知症」と診断が出ていなくても、「最近ちょっと運転が心配だな」という段階から、家族は気づくことができます。たとえば、こんな変化です。

  • 車体に、擦り傷やぶつけた跡が増えてきた
  • 信号や標識を見落とすことがある
  • ブレーキとアクセルを踏み間違えそうになった
  • 車庫入れや駐車に、前より手間取るようになった
  • よく知っているはずの道で、迷うことがある

こうした様子が続くようなら、「年齢のせい」と決めつけず、一度かかりつけ医に相談してみてください。認知症かどうかにかかわらず、早めに気づくことが、本人と、まわりの人を守ることにつながります。


認知症と運転、今のルールをざっくり整理

こまり
こまり
そもそも、認知症になったら運転できなくなるの? 法律でどうなってるの?
とも
とも
そこも整理しておきましょう。ルールを知っておくと、「家族が動けるタイミング」が見えてきますよ。

道路交通法では、一定の病気(認知症を含む)による運転能力への影響がある場合、免許の取消しや停止の対象になることがあると定められています。

また、75歳以上のドライバーは、免許更新時などに「認知機能検査」と「高齢者講習」の受講が義務づけられています(検査の結果によって、医師の診断書提出を求められる場合があります)。

ただし、「認知症の診断が出た瞬間に自動的に免許がなくなる」わけではありません。あくまで、医師による診断や検査の結果を経て、行政手続きが進む仕組みになっています。

ここで家族に覚えておいてほしいのは、「罰則で脅す」より「早めに一緒に動く」ほうが、本人も傷つかず進みやすいということです。

※ 具体的な要件や手続きは自治体・警察(運転免許センター)によって異なります。最新情報は警察庁や居住地の免許センターの公式情報でご確認ください。


もめにくい「順番」——ここが一番大事

息子と並んで歩く高齢の母、穏やかな日常

では、どうすれば角が立ちにくいか。 わたしが家族の方に伝えている「順番」があります。

(1) 頭ごなしに言わない

「もう運転はダメ」という言い方ではなく、まず気持ちを受け取ることから始めます。

「車で自由に動けることが大事なんだよね」「急に言って、驚かせたくなかったんだけど…」という言葉を先に置くだけで、会話の温度が変わります。

正論で迫っても、プライドが先に反応して話し合いにならないことが多いです。

(2) 「家族から」ではなく「医師から」伝えてもらう

これが、一番効果的と言われている方法です。

かかりつけ医や物忘れ外来の医師に、「先生から運転について話してもらえますか」とお願いする。家族の口から言われると「子どもに言われたくない」という反発が出やすいのですが、医師に言われると「仕方ない」と受け取りやすいことがあります。

「親が病院を嫌がる場合の受診の進め方」については、認知症かもしれない親が病院を嫌がる…受診の声かけと物忘れ外来のことも参考にしてみてください。

(3) 「足」を先に用意してから話す

これが最も大切なことかもしれません。

「車をやめたら、どうやって生活するの」——本人が一番こわいのは、じつはここです。だからこそ、困りごとごとに「代わりの手」を用意してから話を切り出すと、「取り上げられる」ではなく「一緒に暮らしを整える」話に変わります。

車がなくなって困りやすいことと、その代わりになる手を、表にまとめてみます。

車がないと困ること代わりになる手
買い物に行けないネットスーパー・生協の宅配/移動販売(自宅前まで来てくれる「とくし丸」など)/ヘルパーの買い物代行・付き添い
通院ができない介護タクシー/通院等乗降介助(乗り降りの介助)/病院の送迎/家族の送り迎え
気晴らし・人に会えない送迎つきのデイサービス/コミュニティバス・デマンド交通(予約制の乗り合い)/タクシー割引(このあと出てくる運転経歴証明書で使える地域も)
役所・銀行の用事家族の付き添い・代行/訪問で対応してくれるサービス

「車がなくなっても、病院にはこれで行けるし、買い物もこの方法がある。だから大丈夫」——そう言える状態を先に作っておくと、本人も安心して手放しやすくなります。

どんな手が使えるかは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、その地域に合った組み合わせを一緒に考えてもらえます。


自主返納すると、何が変わる?

こまり
こまり
返納したら、身分証がなくなって不便にならないの?
とも
とも
そこ、実はいいニュースがあります。「運転経歴証明書」という証明書が発行されるんです。

運転免許証を自主的に返納すると、「運転経歴証明書」を申請できます。これは、運転免許と同様に身分証明書として使えるもので、写真付きのカードです。申請できるのは返納した日から5年以内なので、「いつか取ればいい」と先延ばしにせず、返納と一緒に手続きしておくと安心です。

さらに、自治体や交通機関によっては、運転経歴証明書を提示することでバス・タクシーの割引や、商店・施設での優遇サービスが受けられる制度を設けているところがあります(内容は地域によって異なります)。

「返納したら不便になる一方」ではなく、地域のサービスを活用する入り口にもなるということを、ぜひ本人に伝えてあげてください。

具体的な手続きは、居住地の警察署・運転免許センターに確認することをおすすめします。


それでも納得しない時は、一人で抱えない

話し合いがうまくいかない、親がどうしても受け入れない——そうなることも、もちろんあります。

そんな時は、一人で解決しようとしないでください。

  • かかりつけ医・主治医:運転への影響について、医学的な視点で本人に伝えてもらえる
  • 地域包括支援センター:介護や生活全般の相談窓口。移動手段の調整についても一緒に考えてもらえる
  • 担当ケアマネジャー:すでに介護保険サービスを使っている場合は、ケアマネに相談することで、支援の組み立て方を一緒に見直せる

「どこに相談したらいいか分からない」という場合は、まず地域包括支援センターへ。電話一本で相談できます。


「まだ大丈夫」が、一番心配なこともある

本人は「まだ大丈夫」と言います。その言葉を、頭から否定する必要はありません。

でも、もしその「まだ大丈夫」が続いた先で、事故が起きてしまったら——相手を傷つけてしまうかもしれませんし、本人も、これまで積み上げてきた自信ごと、深く傷ついてしまいます。家族も「あのとき、止めていれば」と自分を責めることになります。

免許を返すのは、「できないこと」が増えたからではありません。大切な人を、事故から守るためです。そう考えると、返納は「あきらめ」ではなく、「守るための選択」に変わります。


まとめ

とも
とも
今日の話を整理すると、「取り上げる」ではなく「安心して移動できる暮らしを一緒に作る」という視点で動いてみてください。順番は——足を先に用意して、医師に伝えてもらう。その二つが、角が立ちにくい進め方です。
こまり
こまり
つまり…「やめろ」じゃなくて「一緒に次を考えよう」って話にする、ってことだね。
とも
とも
そうです。親を敵にしない、が一番大事なことです。

今日できる第一歩は、かかりつけ医に「運転のことを診察時に話してもらえますか」と相談してみること、または地域のタクシー・送迎サービスを調べておくことから始められます。

運転をやめることは、「できなくなること」ではありません。安全に、安心して暮らし続けるための、新しい一歩です。親のプライドを守りながら、一緒に次の暮らしを考える——その姿勢こそが、親子の関係を守る一番の近道になると、わたしは思っています。


家族からよく聞かれる質問

とも
とも
最後に、この話をするとき、ご家族からよく聞かれる質問をいくつか紹介しますね。

認知症と診断されたら、必ず免許を返さないといけませんか?

いいえ、診断が出た瞬間に自動的に免許がなくなるわけではありません。医師の診断や認知機能検査の結果をもとに、行政の手続きを経て判断されます。ですので「診断=即返納」と身構えるより、早めに主治医と相談しながら、本人が納得できる形を一緒に探していくことのほうが大切です。

家族だけで、勝手に免許を取り上げてもいいですか?

おすすめしません。カギを隠す・免許証を取り上げるといった強い手段は、本人のプライドを深く傷つけ、かえって関係がこじれてしまうことが多いです。この記事でお伝えした「医師から伝えてもらう」「足を先に用意する」といった順番のほうが、遠回りに見えて、結局はもめにくい道になります。

運転経歴証明書は、いつまでに申請すればいいですか?

自主返納した日から5年以内なら申請できます。身分証明書として使えて、地域によってはバス・タクシーの割引などにもつながるので、「いつか」と先延ばしにせず、返納と一緒に手続きしておくと安心です。

ケアマネジャーに、運転や移動のことを相談してもいいですか?

もちろんです。すでに介護保険サービスを使っている方なら、担当のケアマネジャーに相談してみてください。「車をやめたあと、どうやって暮らしていくか」を一緒に考えるのも、ケアマネの大切な役割です。まだ介護保険を使っていない場合は、地域包括支援センターが相談の入り口になります。


最終的な判断や手続きについては、主治医・警察(運転免許センター)・担当ケアマネジャーにご相談ください。この記事はあくまで情報提供を目的としており、個別の状況に合わせた判断は専門家にお任せください。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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