「これって認知症?」と思ったら。MCI(軽度認知障害)で今できること
「最近、親のもの忘れが増えてきた。でも、日常生活はなんとか送れてる。これって認知症なの? まだ違うの?」
その宙ぶらりんな不安、ひとりで抱えている方、多いと思います。
実はこの「どっちでもない」状態には、ちゃんと名前があります。 MCI(軽度認知障害) というのですが、名前がついているということは、そこに「できることがある」ということでもあります。
今日は、MCIとは何か、そして気づいたときに家族が前向きにとれる行動を、やさしく整理していきます。
MCIってなに?「認知症の一歩手前」をほぐしてみる
MCIの主な特徴をざっと整理すると、こんな感じです。
- もの忘れが増えた(本人も「あれ?」と気づいている)
- でも、料理・買い物・お金の管理など、日常的なことはできている
- 家族や周囲からは「なんか最近、前より少し変かな?」と感じる程度
認知症と決定的に違うのは、「生活に大きな支障が出ていない」という点です。 認知症の場合、日常生活の中で繰り返し困りごとが起きてきます。でもMCIの段階では、そこまではいっていない。
もうひとつ、MCIでは本人自身が「あれ、最近忘れっぽいな」と気づいていることが多いのも、ひとつの特徴です。(認知症が進んでいくと、そのもの忘れの自覚が、だんだん薄れていくことがあります。)
実際、わたしのところにも「最近、母が同じ話を何度もするんです」とご相談に来られる娘さんがいます。でも、いざ暮らしぶりを伺うと、買い物も料理もちゃんとできていて、「今は、認知症というより、その少し手前の段階かもしれませんね」とお話しすることも、少なくありません。
国内の調査では、65歳以上のおよそ15%前後(6〜7人に1人くらい)にMCIが見られるとされています。決して珍しい状態ではありません。「うちの親だけ…」と感じる必要はなく、多くの人が「あのあいだの時期」を通っていきます。
「必ず認知症になる」わけではない
国内外の研究によると、MCIと診断された方が1年後に認知症に移行する割合は、年間10〜15%程度と言われています。逆に言うと、年単位で見ても多くの方はすぐに認知症になるわけではなく、認知機能が改善したり、安定したりするケースも多いことが分かっています。
「MCIだから終わり」ではなく、「今できることをしていく時間がある」という見方ができます。
わたしが家族の方に伝えたいのは、この「余地がある」という部分です。 不安をゼロにしようというわけではないけれど、過度に怖がらなくていい、ということをまず知っておいてほしいのです。
今からできること。家族もいっしょに
体を動かす習慣をつくる
現時点でもっともエビデンス(根拠)が積み重なっているのが、有酸素運動(ウォーキングなど)です。 週3回・1回30分程度の早歩きが、認知機能の維持や改善に関係するという研究が複数あります。
「毎日きっちり」でなくて大丈夫です。 家族といっしょにスーパーまで歩く、近所への買い物を歩いていく——そんな「いつもの生活の中に歩く時間を作る」だけでも、十分立派な一歩です。続けることに、意味があります。
人と話す時間を意識的に作る
社会的なつながり(人と会話すること)も、認知機能の維持に関わるとされています。
実際、現場では「配偶者を亡くされたあと」や「長年の仕事を辞められたあと」から、もの忘れが目立ってきた、という話をよく聞きます。本人のせいではありません。人と話す機会や、出かける用事、毎日の「役割」が、一度にすっと減ってしまうことが背景にあると言われています。
だからこそ、つながりや「やること」を保つのは、思っている以上に大切なんです。
「何か特別なことをしなければ」と思わなくて大丈夫。 家族との食事で話す、近所の方と立ち話をする、電話で誰かと話す。そういった「日常の中の会話」を意識的に続けることが、脳へのよい刺激になります。
認知症カフェ(地域の集いの場)に足を運んでみるのも、一つの方法です。まだMCIの段階から、気軽に顔を出せる場所として活用できます。 → 認知症カフェってどんな場所?家族が行くメリットと探し方
生活習慣を整える
睡眠・食事・血圧・血糖値などの管理が、脳の健康を支えると言われています。 「認知症だから」ではなく、体全体を整えるというイメージで取り組めると、プレッシャーが少なくなります。
高血圧・糖尿病・睡眠不足などは、認知機能に影響することがあるとされています。たとえば、血圧の薬をきちんと飲み続けることも、めぐりめぐって脳を守ることにつながります。かかりつけ医でこうした管理をしていくことも、MCIの段階では大切な一歩です。
本人は、自分からは言いにくい。だから家族の”気づき”が大切
だから、そばにいる家族が「あれ?」と気づいてあげることが、とても大切になります。 ただ、本人がごまかすぶん、いっしょに暮らしていても案外気づきにくいもの。そこで、さりげなく確かめられる方法を、ひとつ紹介します。
そうして「やっぱり気になるな」と感じたら、できるだけ早めに受診につなげてあげてください。 このとき大切なのが、本人の自尊心を傷つけない、声のかけ方です。
「しっかりしてよ」と責めたり、不安をあおったりするのは逆効果。 そうではなく、「これも”病気”のひとつなんだよ。早めに気づいて手を打てば、進みをゆるやかにできたり、元に戻っていく人もいるんだって」——そんなふうに、前向きな”事実”として伝えてあげると、本人も受け止めやすくなります。
「あなたがダメなわけじゃない。体の不調と同じだから、一緒にお医者さんに診てもらおう」。 そんなスタンスが、本人の重くなった腰を、そっと押してくれます。
「受診したほうがいいかな」と思ったら
こんなことが気になり始めたら、「物忘れ外来」や「認知症専門外来」への受診を検討してみてください。
- 同じことを何度も聞く・言う回数が増えた
- 日付や曜日の感覚がつかみにくくなってきた
- 以前は普通にできていたことに時間がかかるようになった
- 本人が「最近もの忘れが増えた」と気にしている
ただ、親が「病院には行きたくない」と言うこともよくあります。 受診を促すときの声かけについては、こちらの記事も参考にしてみてください。 → 認知症かもしれない親が病院を嫌がる…受診の声かけと物忘れ外来のこと
まとめ:今できることが、ちゃんとある
「うちの親、もしかして…」と気になったとき、一人で抱え込まないでください。 受診の判断や今後のサポートについては、主治医や担当のケアマネジャー(介護支援専門員)にご相談ください。専門家といっしょに考えることで、方向が見えやすくなります。
また、MCIや認知症と診断されても、失われないものはたくさんあります。 → 認知症になっても失われないもの8選 家族に知ってほしいこと
「宙ぶらりん」な不安を感じているときこそ、ひとりで答えを出そうとしなくていいんです。 このブログも、ふと立ち寄れる場所でありたいと思っています。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
この人について →