「認知症です」と告げられた、あの日から
「認知症です」と言われた帰り道、どんな気持ちだったか。
頭が真っ白になったまま病院を出た方、涙が止まらなかった方、「そんなはずない」とどこかで否定したかった方。 そんなふうに感じた方が、きっとここを読んでいるのだと思います。
今日は、診断直後の気持ちのこと、そして「これからどうなるの」という不安の前に、 まず知っておいてほしいことを、ゆっくり話させてください。
診断直後のショックは、自然な気持ちです
「認知症です」という言葉を聞いた瞬間、頭の中が止まってしまうような感覚を経験する方はとても多いです。
これは弱いからでも、覚悟が足りないからでもありません。 それだけ、大きな出来事だったということです。
診断直後に感じることとして、よく聞く気持ちを少し並べてみます。
- 「信じられない、何かの間違いでは」という否認の気持ち
- 「これからどうなるんだろう」という漠然とした不安
- 「もっと早く気づいてあげればよかった」という後悔
- ただただ、かなしい
どれも、おかしくありません。全部、自然な気持ちです。 むしろ「すぐに受け入れられた」という人のほうが、少ないくらいです。
そして、その気持ちの矛先が、自分や本人に向いてしまうことがあります。
「あのとき免許を取り上げたのが、いけなかったんじゃないか」 「気づいてやれなかった自分が悪いんじゃないか」 「どうして、うちの親ばっかり」
そう口にされる方に、何度もお会いしてきました。 本人につらく当たってしまって、あとで自分を責める。その繰り返しになってしまう方もいます。
誰のせいでもありません。取り上げた免許のせいでも、気づくのが遅かったせいでもない。 ただ、そう思ってしまうくらい、受け止めきれない出来事だったということです。
否定せず、今はそのまま感じていていい。 それが、この記事でいちばん最初にお伝えしたいことです。
今日、何かを決めなくていいです
診断を受けたその日から、「施設はどうする」「介護保険は」「仕事はどうしよう」と、次々と頭の中に言葉が浮かんでくることがあります。
でも、今日すぐに全部決める必要はありません。
「認知症」とひとことで言っても、その原因になる病気はいくつもあって、変化の仕方も、そのペースも人それぞれです。 そして、診断がついたからといって、その日を境に暮らしが急に変わるわけではありません。 今日の夜に結論を出さなければならないことは、ほとんどないんです。
ただ、ひとつだけ。「決めること」は急がなくていいけれど、「相談すること」は早いほうがいいと、担当していて思います。
まだ軽いうちは、なんとかなってしまうので、そのままにされるご家族が多いです。 とくにご本人が若い場合は、本人自身が受け止めるまでに時間がかかることが多くて、そのぶん動き出しが遅くなりがちです。 プライドもありますし、本人の気持ちや意向もあります。無理に動かすものではありません。
それでも、早いうちから使えるものを使っておけば、今の暮らしを保ちやすい。 進んでから相談に来られて、できることが少なくなっていた。そういう場面が、どうしてもあります。
だから、今日決めなくていい。でも「聞くだけ」なら、早くていいんです。
そして、すぐにサービスにつながらなくても、かまいません。相談できる相手がいる、それだけで不安はずいぶん軽くなります。 何かを使うかどうかが決まっていなくても、「困ったらここに聞けばいい」という先がある。それだけで楽になるご家族が、とても多いです。
介護のことは、専門家と一緒に少しずつ整理していけます。 ひとりで全部抱えようとしなくていい。それが、次にお伝えしたいことです。
まず、頼れる先を知っておく
「どこに相談すればいいか分からない」という声をよく聞きます。 難しく考えなくて大丈夫です。まず知っておいてほしい場所を、3つだけ挙げます。
①地域包括支援センター
高齢者の暮らしのことを無料で相談できる、地域の総合相談窓口です。 介護保険のことはもちろん、「どこに相談すればいいか分からない」という段階から受け付けています。 電話一本で、まず話を聞いてもらえます。
お住まいの市区町村の窓口か、ホームページで「地域包括支援センター」と検索すると見つかります。
②ケアマネジャー(介護支援専門員)
介護保険の認定を受けたあと、サービスを使うときに、一緒に計画(ケアプラン)を立てたり、サービスをつなぐ役割をする専門職です。 診断直後は「まだ介護保険を使うほどじゃないかも」と思う方も多いですが、相談だけでも大丈夫です。 まだ担当のケアマネジャーがいない段階では、地域包括支援センターが窓口になって、必要なところへつないでくれます。
③認知症カフェ・家族会
同じ立場にいる家族と話せる場所です。 制度の話ではなく、「気持ちの話」ができる場所として、利用する方が多いです。
この記事で詳しく紹介していますので、よかったら読んでみてください。 「うちの親もそうだった」という声を聞くだけで、少し楽になることがあります。
“失われないもの”が、ある
最後に、もうひとつだけ。
認知症と診断されると、「これからどんどん失われていく」というイメージを持つ方が多いと思います。 確かに、変わっていくことはあります。
でも、失われないものも、たくさんあります。
好きな音楽を聴いたときの、あの表情。 長年の習慣からくる、手の動き。 自分の名前を呼ばれたときの、ちいさな反応。 笑顔。
診断がついた次の日から、その人が別人になるわけではありません。 一緒にごはんを食べて、好きなテレビを見て、いつもの話をする。そういう時間は、今日のあとも続いていきます。
出来事そのものを忘れてしまっても、そのときに感じた安心や楽しさは、残ることがあると言われています。 「何をしたか」は思い出せなくても、「今日は楽しかった」という感じだけが残る。そういうことがあります。
診断を受けた今、その人が「どんな人だったか」は、何も変わっていないんです。
まとめ
診断を受けた直後は、不安で当然です。かなしくて当然です。 「受け入れなきゃ」と急がなくていいし、「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い込まなくていいです。
今日できることは、ひとつだけで十分です。 それが「地域包括に電話する」でも、「認知症カフェを検索する」でも、「ひとまず今日は休む」でも。
ご家族の判断や今後の方針については、主治医や地域包括支援センター、担当のケアマネジャーがいればその方など、専門家に、ぜひ相談しながら進めてください。あなたひとりで全部抱えなくていい仕組みが、ちゃんとあります。
よくある質問
診断のことを、本人にはどう伝えたらいいの?
認知症があっても、本人はその診療のまんなかにいる当事者です。だから「伝える・伝えない」をご家族だけで決める話ではなく、どう伝えるかを、本人の理解する力や受け止め方に配慮しながら考えていくことになります。ひとりで抱え込まず、主治医に「本人にはどのように説明したらよいですか」と相談してみてください。ふだんの様子をいちばんよく知っているのはご家族なので、その話は相談のときにとても役立ちます。
診察のとき、本人が先生の前ではしっかりしてしまいます。どうしたらいいですか?
とても多いです。本人は先生の前ではきちんとされる方が多くて、それを見た主治医が「大丈夫そうですね」と判断される。でも家では実は大変、というケースはよくあります。
そこでおすすめしているのが、お薬を飲んでからの様子や、気になった症状を、日ごろから短くメモしておくことです。日付と、その日あったことを一行ずつでかまいません。それを受診のときに渡す、あるいは読み上げる。
お薬の効き方を見ていくときに、家での様子はとても大きな手がかりになります。それをいちばん近くで見ているのが、ご家族です。
診断されたあと、すぐに介護保険を申請しないといけませんか?
診断されたからといって、必ずその日に申請しなければならないわけではありません。ただ、生活で困っていることがある場合や、ご家族の負担が大きくなっている場合は、早めに地域包括支援センターに相談しておくと安心です。申請してから認定が出るまでには時間がかかります。「まだ早いかな」と思う段階でも、今の状態で何が使えるかを一緒に確認してもらえます。
家族の気持ちが追いつかないまま、介護を進めていいの?
はい、追いつかないまま進んでいって大丈夫です。受け入れてから動く、という順番でなくてもいい。動きながら、少しずつ気持ちが追いついてくることの方が多いです。完全に納得してから、なんて、誰でもそんなにうまくはいきません。
「認知症」と診断されたら、もう何もできなくなるの?
そんなことはありません。診断を受けても、多くの方は日常のさまざまなことを続けています。できることは人によって大きく違いますし、今この時点でできることが、大切です。「失われていくもの」だけでなく、「残っているもの・これからも続くもの」に目を向けていきましょう。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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