「いない人が見える」と言う親へ ─ レビー小体型認知症と幻視のこと
「夜中に『そこに子どもが座っている』と真顔で言い出して…否定すると怒るし、合わせたら合わせたで、なんだか変な気がして」
そんなふうに戸惑っているご家族は、少なくありません。
これは嘘でもわがままでもないんです。その方には、本当に見えているのです。こうした症状は「幻視(げんし)」と呼ばれます。今日は「レビー小体型認知症」という、少し知られにくいタイプの認知症と、この幻視への向き合い方をいっしょに整理していきます。
認知症にはいくつかタイプがある
「認知症」というと、ひとつの病気の名前だと思われがちですが、じつは少し違います。認知症は、さまざまな原因(病気)によって記憶や判断などの認知機能が落ちた「状態」を指す言葉なんです。
そして、原因になる病気によって、症状のあらわれ方が変わってきます。代表的なものを簡単に挙げると、こんなイメージです。
- アルツハイマー型認知症:原因としてもっとも多い。記憶にまつわる困りごとから始まることが多い
- 血管性認知症:脳梗塞などが原因。症状が段階的に進むことが多い
- 前頭側頭型認知症:言葉や行動の変化が目立つことがある
- レビー小体型認知症:幻視や体の動きの変化が出やすい
原因が違えば、ケアで「効くこと」も「気をつけること」も変わってきます。今日は、このうちの「レビー小体型認知症」に焦点を当てます。
レビー小体型認知症ってどんな病気?
レビー小体型認知症(英語の頭文字をとってDLBと呼ばれることもあります)は、脳の神経細胞の中に「レビー小体」という、たんぱく質が固まったものができることで起こると考えられています。
難しい話は一旦置いておいて、ご家族が気づきやすいポイントを4つ挙げますね。
① 幻視(いないはずのものが見える)
レビー小体型認知症で、もっともよく知られた特徴です。「子どもが座っている」「虫がたくさんいる」「見知らぬ人が部屋にいる」など、いないはずの人や動物・虫が見えると言います。ぼんやりした影ではなく、服の柄や顔つきまで分かるくらい具体的なことも多いんです。
夕方や夜、薄暗い環境で目立ちやすいと言われます。ただ、明るい日中に見えることも普通にありますので、「昼間だからレビー小体型ではない」とは考えないでくださいね。
見えるきっかけになりやすいのは、暗がりや影です。家具やカーテンの影、柱、洋服が掛かったハンガーなどが、人の姿に見えてしまうこともあります。
② 調子の波が大きい
「今日はしっかりしている」「昨日はぼーっとしていた」という波が大きいのも、レビー小体型の特徴です。数時間で変わることもあれば、数日から数週間の単位で変わることもあります。
「この前はちゃんと話せたのに」「昨日は別人みたいだった」。ご家族からこういう言葉が出てくるときは、受診のときにぜひそのまま伝えてほしいポイントです。
③ 寝ているときに、大声を出す・体が動く
意外に思われるかもしれませんが、眠っているあいだの様子も、大切なサインのひとつです。
夢を見ている最中に、その夢のとおりに体が動いてしまう。「誰かと言い争うような大声を出す」「手足を振り回す」「ベッドから落ちる」といったことが起こります。レム睡眠行動異常症(夢の内容に合わせて体が動いてしまう症状)と呼ばれています。
これは、物忘れなどの症状よりも何年も前から出ていることがあるのが特徴です。「昔から寝言がひどくてね」と笑い話にしていたことが、あとから振り返ると最初のサインだった、ということも珍しくありません。
隣で眠っているご家族にしか分からない情報なので、受診のときは、ぜひ伝えてあげてください。
④ 転びやすい・動作がゆっくりになる
レビー小体型認知症では、パーキンソン病と似た体の動きの症状が現れることがあります。足がすくんだり、小刻みに歩いたり、体が固くなったり、動作がゆっくりになったり、といったものです。
これは「歳のせい」と見過ごされがちですが、転倒のリスクに直結するので、早めに気づいてほしいポイントです。
幻視が出たとき、家族はどう接すればいい?
これが、今日いちばん伝えたいことです。
頭ごなしに否定しない
「そんな人いないよ」「気のせいでしょ」と言いたくなる気持ち、よく分かります。でも、その方には本当にリアルに見えているので、否定されると混乱したり、怒ったり、傷ついたりします。
これは「嘘に合わせる」のとは少し違います。「そう見えているんだね」と、その人の体験を受け止めることが大切です。
ただし、「家が燃えている」「誰かに襲われる」といった、危険や身の安全に関わる内容のときは別です。まずは実際に危ないことが起きていないかを確かめるのが先。火の元や戸締まりを一緒に見て回ると、それだけで安心されることもあります。
安心できる言葉で応じる
「大丈夫だよ、わたしがそばにいるよ」「さあ、お茶でも飲もうか」と場所や気持ちを動かしてあげると、幻視から離れやすいことがあります。
また、部屋が暗いと幻視が出やすいので、照明を明るくするのも効果的なことがあります。カーテン越しの光や影が「人に見える」きっかけになることもあるので、環境を整えることも助けになります。
いっしょに近づいて、触ってみる
これは意外と知られていないのですが、幻視は見えていると言う場所まで一緒に行って、そこに触れてみると消えることがあります。
「ほら、なにもないでしょう」と確かめさせるのではありません。「どれどれ、見せて」といっしょに近づいて、そっと手で触れてみる。それだけで「あれ、いなくなった」と、ご本人が落ち着かれることがあります。うまくいかない日もありますが、否定せずにできる方法のひとつとして、頭に置いておいてください。
記録しておく
「いつ・どんな幻視が出た」「そのときの体の様子は」を、日記やメモに簡単に書いておくと、後で医師に相談するときにとても役立ちます。
「なんとなく変だった」より「夕方6時ごろ、廊下に子どもが見えると言って30分ほど落ち着かなかった」と伝えられると、診察の精度がぐっと上がります。
そのときの体の調子もいっしょに書いておけると、なお心強いです。食事のあとだった、熱があった、何日か便が出ていなかった、いつもより水分が少なかった──こうしたことが幻視や混乱の引き金になっていることもあり、医師が原因を見つける手がかりになります。
医師は、診察室での短い時間と、ご家族から聞く話をもとに、症状を見ながら治療の方針を決めています。とくにレビー小体型は薬の調整がむずかしいタイプなので、「いつ・どんなときに・どのくらい」が分かる記録は、医師にとって本当にありがたいものなんです。ご家族の書いた数行が、薬の量や種類を決める手がかりになります。
ただ、この記録は「親を観察するため」のものではありません。困ったときに、専門家といっしょに考えるための手がかりです。毎日きっちり書かなくても、気になった日にひとことメモがあれば十分ですよ。
「うちの親、他の人と違う?」と思ったら
認知症の診断は、医師にしかできません。「うちの親はレビー小体型かも」というのは、あくまでご家族の気づきです。その気づき自体はとても大切で、それを持って受診・相談することが次の一歩です。
物忘れ外来や脳神経内科、精神科、お住まいの地域の認知症疾患医療センター、かかりつけ医への相談が入り口になります。「幻視がある」「調子の波が大きい」「寝ているときに大声を出す」「転びやすくなった」という情報は、ぜひ具体的に伝えてみてください。
受診を勧めるときの声かけについては、認知症かもしれない親が病院を嫌がる…受診の声かけと物忘れ外来のことにまとめていますので、よかったら合わせてご覧ください。
薬についても、知っておいてほしいことがあります。レビー小体型認知症は、薬に敏感に反応しやすいタイプです。とくに、幻覚や興奮をおさえるために使われる抗精神病薬は、少ない量でも体が固くなったり、動きにくくなったり、ぼーっとしてしまうことがあり、慎重に選ぶ必要があります。抗うつ薬や睡眠薬、市販のかぜ薬などで思わぬ反応が出ることもあります。
一方で、認知症の症状をやわらげる目的で使われる薬のひとつに、ドネペジル(商品名アリセプトなど)があります。アルツハイマー型でよく使われる薬ですが、じつは日本ではレビー小体型認知症にも保険が使えるお薬として認められていて、幻視がやわらぐことも期待されています。「アルツハイマー型の薬だからうちの親には合わないのでは」と心配される方がいますが、そうとは限らないんです。
どの薬をどう使うかは、医師が全体を見て決めること。今飲んでいる薬を、ご家族の判断で減らしたりやめたりしないでください。気になることがあれば、そのまま主治医に伝えるのがいちばんの近道です。
まとめ
「嘘じゃなかったんだ」「責めなくてよかったんだ」。そう思えた瞬間から、ご本人との向き合い方は、少しずつ変わっていきます。
今日お伝えしたことを、もう一度まとめます。
- レビー小体型認知症には「幻視」「調子の波」「寝ているときの大声や動き」「転びやすさ」という特徴がある
- 幻視は、その方には本当にリアルに見えているもの。「嘘・わがまま」ではない
- 頭ごなしに否定せず、安心させる言葉と環境の工夫で向き合う
- 「うちの親は違う気がする」と思ったら、記録して医師に相談
- 薬に敏感に反応しやすいタイプ。家族の判断でやめたり減らしたりせず、必ず医師に相談する
最終的な診断・治療の判断は、必ず医師・担当のケアマネジャーや専門家にご相談ください。この記事はあくまで「こんな視点がある」という情報提供です。
よくある質問
幻視に「合わせる」のはよくないですか? 嘘をついているみたいで…
「合わせる」というより「その人の体験を否定しない」と考えてみてください。「いないよ」と言い切ることが正解ではなく、「そう見えているんだね」「大丈夫、わたしがいるよ」と安心を届けることが大切です。信頼関係を守ることのほうが、長い目で見て大切です。
本人が、見えている人と話しています。止めたほうがいいですか?
無理に止めなくて大丈夫です。まずは落ち着いて様子を見守ってみてください。「どんな人がいるの?」と穏やかに聞いてみると、それだけで安心されることもあります。ただ、興奮が強いとき、こわがって落ち着かないとき、外に出て行こうとするなど安全に関わるときは別です。そばで寄り添いながら、早めに主治医に相談してください。
レビー小体型かどうか、家族が判断できますか?
できません。診断は医師にしかできないことです。ご家族にできるのは「気になる様子を記録して、受診のときに伝える」こと。「幻視がある」「調子の波が大きい」「寝ているときに大声を出す」「転びやすい」という情報を具体的に持参することが、診断の助けになります。
認知症の薬をもう飲んでいますが、それでも幻視が出ています
薬の効き方は、認知症のタイプや、その方の体質によって変わります。まずは「最近こういう幻視が増えた」と、そのまま主治医に伝えてください。レビー小体型は薬に敏感に反応しやすいので、量の調整や種類の見直しが必要なこともあります。ただし、ご家族の判断で薬をやめたり減らしたりするのは避けてください。急にやめることで、かえって状態が不安定になることがあります。
夜中に大声を出したり、暴れたりします。幻視とは違うのでしょうか?
眠っているあいだに夢のとおりに体が動いてしまう「レム睡眠行動異常症」かもしれません。目が覚めているときに見える幻視とは、別の症状です。ご本人は眠っているので覚えていないことも多いのですが、ベッドから落ちる、隣で寝ている方に手が当たるなど、ケガにつながることがあります。まわりに硬いものを置かない、ベッドの高さを見直すといった工夫をしつつ、主治医に相談してください。薬で落ち着くこともあります。
夜中に幻視が出て、家族も眠れません。どうしたらいいですか?
夜間の幻視は、介護する家族にとって本当につらいことです。まず主治医に相談するのが先決ですが、環境面では部屋を明るめにする、影をつくるものを片付けるといった工夫が助けになることがあります。家族の睡眠が削られていることは、担当のケアマネジャーにも伝えてください。休める仕組みを一緒に考えてもらえます。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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