ほっとひと息

喜連川・早乙女温泉。濃すぎて設備を壊す、本物のお湯の話

喜連川・早乙女温泉。濃すぎて設備を壊す、本物のお湯の話

「山奥じゃないのに、こんなに濃いお湯があるのか」

車を降りた瞬間から、硫黄の香りが鼻をついた。 那須でも草津でもない。栃木・喜連川の、ちょっと外れにある小さな温泉施設。 なのに、お湯の存在感だけは、わたしが今まで入ってきたどの温泉にも負けていなかった。

今日は、そのお湯の話をさせてください。


とも
とも
こんにちは。今日は介護の話はちょっとお休みして、わたしが最近また行きたくなっている温泉のことを書きます。栃木県さくら市にある「早乙女温泉」です。
こまり
こまり
さくら市……どのへん? 山の中?
とも
とも
それがね、山奥じゃないんです。那須塩原とか日光とか、そういう「秘湯感」のある場所ではなくて、どちらかというと田んぼと畑が広がる里のそば。なのに、お湯の濃さは本格的な山の湯に引けを取らない——それが最初の衝撃でした。

脱衣所に入った瞬間、お湯の気配がする

白濁した硫黄泉が静かに満ちる小さな浴槽

早乙女温泉は、喜連川温泉郷のなかでも少し外れに位置する、こぢんまりとした日帰り入浴施設です。 外観はこれといって目立つものはない。でも、脱衣所に足を踏み入れた瞬間、硫黄の香りが空気ごとまとわりついてくる

浴室に入れば、さらに濃くなる。

湯船の色は、緑がかった白濁。 光の加減によっては薄い翡翠色にも見えて、じっと眺めていると底が見えない。 泉質は含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、pH7.4ほど。源泉は70℃を超える高温泉で、成分がぎゅっと詰まった(高張性の)濃いお湯です。 おもしろいのは、あまりに成分が濃いので、加水をしていること。それでも湯を循環させない「加水かけ流し」で、加温はしていません。薄めてなお、これだけの存在感——それが、本来のこの温泉でした。

入ってみると、ぬるっとした感触が肌にまとわりつく。 「あ、これは濃い」——声に出さなくても、体が先に気づく。 長湯しすぎると、のぼせるというより、成分に圧倒される感じ。

これは温泉というより、お湯に”入れてもらっている”感覚だ、と思いました。


喜連川温泉のなかで、ここだけ際立つお湯

早乙女温泉があるのは、さくら市の喜連川温泉郷の一角。中心部からは2kmほど離れた、こぢんまりした日帰り施設です。開業は1993年。目の前の細い道が、じつは旧奥州街道だと知って、ちょっと得した気分になりました。

喜連川温泉じたいは「美肌の湯」として知られる、やさしい肌ざわりの食塩泉です。でも早乙女温泉は、同じ温泉郷なのに硫黄も塩けもぐっと濃い。さきほどの分析書のとおり、含硫黄のナトリウム・カルシウム塩化物泉で、成分もかなりの高濃度です。だから同じ温泉地でも、ここのお湯は”別格”。遠くから通う温泉好きも多いと聞きます。入ってみて、その理由がよくわかりました。


濃すぎて、設備を傷める。それが勲章みたいなお湯

ここで少し、このお湯の”すごさと業の深さ”の話を。

早乙女温泉のお湯は、成分が本当に濃い。 あまりに濃いがゆえに、日常的に配管を傷めてしまうほどだそうです。 施設の方から聞いた話では、普通の温泉施設が数年かけて経験するような腐食が、ここでははるかに早いペースで進む、と。

「お湯が強すぎて、ものが壊れる」。 なんというか、それを聞いたとき、不謹慎かもしれないけれど、笑ってしまいそうになりました。

本物すぎて、器が持たない。 そのくらい濃い、ということです。


ポンプが壊れ、温泉が止まった。そして地元が動いた

配管へのダメージは積み重なるもので、数年前、源泉ポンプの故障により、早乙女温泉は営業休止に追い込まれました

修繕には多額の費用がかかる。小さな施設が、すぐに自力で動かせる規模ではない。 このまま閉まってしまうのか——そんななか、施設みずからが、ホームページで存続への支援(クラウドファンディング)を呼びかけました

「このお湯を残したい」。 その声に応えて支援が集まり、温泉は再び動き始めた。

わたしがこの話を知ったとき、温泉のお湯よりも先に、その事実に胸を打たれました。 だれかひとりが背負えるものじゃない。でも、みんなで支えたら、甦ることがある。

こまり
こまり
クラファンで温泉が復活したんだ。なんかいい話だね……。
とも
とも
そうなんです。ひとりで抱えるには重すぎるものが、支え合うことで動き出した——介護の現場で働いていると、このことの意味が、温泉の話だけじゃないと思えてきます。

今は「ぬる湯で仮オープン」中

早乙女温泉は現在、「ぬる湯で仮オープン」という条件付きの仮営業をしています。 本来は高温の濃いお湯ですが、今は井戸から出る湯が45℃ほど。それが浴槽では38℃前後のぬる湯になっています。

じつは正直に言うと、わたしがあの濃いお湯に入ったのは、ぬる湯になる前のこと。仮オープンのぬる湯には、まだ行けていません。

でも、想像してしまうんです。あれほど濃いお湯に、ぬるめの温度で、長く長く浸かれるとしたら——きっと今の自分には、ちょうどいいだろうな、と。

「本調子ではないけれど、お湯は生きている」。その温度に、近いうちにまた会いに行きたいと思っています。


温泉の好みが、以前よりずいぶん「濃くて個性的なもの」に寄ってきたなと感じます。 温泉好きになったきっかけは、万座温泉だったという記事にも書いたのですが、強い硫黄の香りがする湯に初めて出会ったとき、温泉に対する見方が変わりました。 早乙女温泉は、その延長線上にある「また会いに行きたいお湯」のひとつです。


壊れる前に、休んでいい

湯上がりにひとり静かに息をつく女性

最後に少しだけ、介護でがんばっている方に伝えさせてください。

濃すぎるお湯は、設備を傷める。 それでも出続けようとして、ポンプが壊れた。 壊れてから、やっと周りが動いた。

この話を聞いたとき、「自分も同じじゃないか」と思いました。

毎日張り詰めて、疲れを後回しにして、気づいたら限界——。 介護をしている方のそばで仕事をしていると、そういう姿をたくさん見てきました。

壊れてしまってから、また動き出すことはできる。 でも、できれば壊れる前に、少し休んでほしい。

ひとりで抱えなくていい。支え合っていい。 そう思わせてくれた温泉がある、ということを書き留めておきたかった。

※ 早乙女温泉は現在、「条件付きの仮営業(ぬる湯で仮オープン)」です。営業は週3日ほど・洗い場が使えない・当日の臨時休業もある、など条件があり、内容も変わることがあります。お出かけ前に必ず公式サイトで最新の案内をご確認ください。温泉の効能には個人差があり、医療的な効果を保証するものではありません。


とも
とも
ぬる湯に長く浸かった後って、じんわり疲れが出てきて、気づいたら眠くなるんですよね。それが好きで。
こまり
こまり
……わたしも眠くなってきた。今日はもうねる。
とも
とも
どさくさに紛れてすごい切り上げ方。でも、それくらいでいいんです。今日も読んでくださってありがとうございました。

わたしはふだん、介護の相談にのっている者です。 でも、こうして温泉のことを書いているとき、少しだけ荷物を下ろしている気がします。 くたびれたら、またここに寄ってください。こまりも、たいてい寝ています。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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