「特変なし」から卒業。介護記録が伝わるようになる一番簡単なコツ
勤務の終わりに、記録の前で手が止まる。
「結局いつも『特変なし』で終わってしまう」 「何を書けば”書いた”ことになるのか、誰も教えてくれなかった」
そう感じている方は、きっと少なくないと思います。 記録は業務の中でも「なんとなくできてる気がするけど、実は自信がない」という声がいちばん多い分野かもしれません。
今日は「見たこと(事実)」と「思ったこと(解釈)」を分けるという、たったひとつの意識で、記録の書き方がどう変わるかを一緒に見ていきましょう。
記録は”申し送り”、読む人は次の勤務者だけじゃない
介護記録を読むのは、次の勤務に入るスタッフだけではありません。
- 次の勤務者:「前の時間帯に何があったか」を把握して動く
- ケアマネジャー:モニタリングや担当者会議の材料にする
- 看護師・リハスタッフ:「最近どうか」の情報源になる
- ご本人・ご家族:開示を求められれば、読まれることがある(本人からの請求のほか、ご家族が代理で求めることもあります)
- 行政の運営指導(以前は「実地指導」と呼ばれていたもの):記録が「ケアの証明」になる。計画どおりのケアが実際に行われていたかは、記録でしか示せません
つまり記録は、「知っている人が読むものじゃない」んです。 その場を見ていない人が読んでも、状況がわかるように書く。これが記録を書くときの大前提です。
そしてもうひとつ。記録は、自分たちを守るものでもあります。事故やトラブルが起きたとき、「そのときどうしていたか」を証明できるのは記録だけです。
たとえば転倒があったとき。前日までの記録に「歩行時のふらつきなし」「見守りのもと自力でトイレへ」と残っていれば、その時点でどういう状態だったのか、どんな見守りをしていたのかを、あとから示すことができます。逆に「特変なし」しかなければ、何も説明できません。
丁寧にケアしていても、書かれていなければ「やっていなかった」ことになってしまう——ここは、覚えておいて損はありません。
だからこそ、はっきり言います。「特変なし」は、安心を伝える言葉になっていません。
読む人は、その4文字を見て「何を見て”特変なし”と判断したんだろう?」と思っています。食事は? 歩き方は? 顔色は? ——何ひとつ分からないまま、次の勤務が始まってしまう。
書いた側は「何もなかった」つもりでも、読む側には「何も観察していない」と映ってしまう。この差が、記録でいちばんもったいないところです。
「見たこと」と「思ったこと」を分けるだけでいい
記録が漠然とする理由は、ほとんどの場合これです。 「事実(見たこと)」と「解釈(思ったこと)」が混ざっている。
よく使われる言葉を例にしてみます。
| よく書かれる言葉 | 問題点 |
|---|---|
| 不穏あり | 何をしていたか、何を言ったか、わからない |
| 拒否あり | 何を断ったか、その後どうなったか、わからない |
| 食欲なし | どのくらい食べたか、何と言ったか、わからない |
| 傾眠傾向 | いつから、どの程度か、わからない |
「不穏」「拒否」「傾眠」は、書いた人の解釈です。 その言葉を見ただけでは、次の人は何も動けません。
「見たこと」をそのまま書く——本人がした行動、本人が話した言葉、時間、場所。 それだけで記録の質は大きく変わります。
一枚の絵にすると、こういうことです。
❌ 解釈だけ 「19時ごろ不穏あり。声かけで落ち着く。」
↓
⭕️ 見たことを書く 「19時ごろ、玄関前を5回ほど往復。『家に帰らないと』と3回話される。声かけ後、居間のソファに着席。」
上と下、書くのにかかる時間は30秒も違いません。でも、読んだ人が動けるかどうかは、まったく違います。
ビフォー/アフター例文3組
実際に書き換えてみます。どちらが「次に読む人に伝わるか」を比べてみてください。
例文① 「不穏あり」→ 本人の行動と言葉を書く
ビフォー
19時ごろ不穏あり。声かけで落ち着く。
アフター
19時ごろ、玄関前を5回ほど往復していた。「家に帰らないと」と3回話される。名前を呼んで「ここで大丈夫ですよ」と声かけすると、居間のソファに座り落ち着かれた。19時30分には入眠。
例文② 「拒否あり」→ 何を断り、その後どうなったかを書く
ビフォー
入浴拒否あり。
アフター
18時に入浴を誘うと「今日はいい」とおっしゃる。無理強いせず一度引く。18時30分に再度「温かいお湯ですよ」と声かけすると「じゃあ少しだけ」と応じてくださった。シャワー浴10分、終了後「さっぱりした」と話される。
例文③ 「食事量少ない」→ どのくらい、なぜ、本人は何と言ったか
ビフォー
食欲なし。食事量少量。
アフター
昼食:主食3割、副食5割摂取。「味がしない」と話される。水分はお茶100ml。食欲低下が続いているため、明日の看護師への申し送り事項として記録する。
「アフター」が長い、と感じましたか? 慣れれば1分あれば書けます。そして、この記録があるだけで、次の担当者が「昨日と比べてどうか」を判断できるようになります。
短くても伝わる。「いつ・何が・どう変わった」の型
記録に時間がかかる理由のひとつは、「上手に書こうとしすぎること」です。 文章の上手さより、情報があるかどうかのほうが大事です。
伝わる記録に必要な要素は、シンプルにこれだけです。
いつ × 何が(だれが何をした/言った) × どう変わった(または変わらなかった)
5W1H(いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのように)は、よく紹介される型ですが、 全部埋めようとすると、かえって手が止まります。
わたしは「抜けをチェックするメモ」として使うのがおすすめです。 書いた記録を読み返して「いつ?」「どこで?」が抜けていたら足す、くらいの感覚でいいと思います。
夜間の記録は何を残すか
夜間帯は「特変なし」になりがちです。ですが、夜間こそ医療・ケア判断のカギになる情報が眠っています。
夜間の記録で意識したいのは、次の観点です。
- 睡眠の様子:いつ就寝、何時ごろ目が覚めた、その後どうなったか
- トイレの状況:回数、量(おむつ交換の場合は量・状態)、本人の様子
- 呼吸・体位:いびき・無呼吸が気になる場合、褥瘡(じょくそう)リスクがある方の体位変換記録
- 本人が話したこと:夜間に不安を訴えていた場合、その内容
「ずっと眠っていた」でも、ひと言添えると伝わり方が変わります。
22時に就寝確認。以後、0時・3時に巡視するが入眠継続。体位変換1回実施(右側臥位へ)。呼吸穏やか。
音声入力やAIで記録を書く時代に、変わらないこと
最近は、スマホやタブレットへの音声入力で記録を残したり、AIが文章を整えてくれる記録システムを導入する事業所も増えてきました。手書きやキーボードが苦手な人にとっては、大きな助けになります。使えるなら、どんどん使っていいと思います。
ただ、覚えておいてほしいことが3つあります。
① AIが整えた文章は、必ず自分の目で確かめる AIは文章を”それらしく”仕上げるのが得意です。だからこそ、自分が見ていないことまで、もっともらしく書かれてしまうことがあります。「言葉はきれいだけど、実際とちょっと違う」——これは記録として、いちばんまずい状態です。出てきた文章は、必ず読み返して直してください。最後に責任を持つのは、書いたあなたです。
② 職場が導入したシステム以外に、利用者さんの情報を入れない 「文章がうまく書けないから」と、一般のAIサービス(無料のチャットAIなど)に利用者さんの状態を打ち込むのは絶対に避けてください。名前を伏せていても、要介護度や病名、生活の様子は、立派な個人情報です。使うのは、事業所が正式に導入したシステムだけ。ここは線を引いておきましょう。
③ 「何を見るか」は、AIには代われない AIが助けてくれるのは、書く手間の部分です。玄関前を5回往復していたことに気づくのも、「家に帰らないと」という言葉を聞き取るのも、いつもと顔色が違うと感じるのも——すべて、その場にいた人にしかできません。
道具が便利になっても、記録の中身をつくるのは、やっぱり現場のあなたの目です。
まとめ
記録で大事なのは、文章のうまさではありません。
「その場にいなかった人が読んでも、状況がわかるか」——それだけです。
今日お伝えしたことを、ひとことでまとめると:
- 「見たこと(事実)」と「思ったこと(解釈)」を分けて書く
- 「不穏」「拒否」などの言葉で終わらせず、本人の行動と言葉をそのまま書く
- 型は「いつ・何が・どう変わった」。全部埋めようとしなくていい
- 夜間も「変化がなかった記録」には意味がある
記録は、自分のために書くものではありません。次にケアする人へのバトンです。
そのバトンが少しでも渡りやすくなるように——明日の勤務で、まず1件だけ「本人が話した言葉」を書いてみてください。それだけで、記録は変わりはじめます。
介護記録についてよく聞かれる質問
記録はどのくらいの長さで書けばいいですか?
文字数に決まりはありません。伝わるかどうかが基準です。 「主食3割摂取。『あまり食べたくない』と話す」の2行で十分なこともあります。 長く書くことより、必要な情報が入っていることのほうが大切です。書いた後に「誰が読んでも状況がわかるか」と一度確認してみてください。
「特変なし」は書いてはいけないのですか?
書いてはいけないわけではありません。ただ、それだけで終わると「何も観察していない」と見える可能性があります。 「特変なし」の後に一文添える習慣をつけると安心です。たとえば「特変なし。食事・水分摂取良好、終日穏やかに過ごされる」のように。
SOAP形式など、書き方の様式はどれが正しいですか?
様式は事業所によって異なります。どの形式が正解、ということはありません。今の職場で使っている様式に合わせてください。 この記事でお伝えした「見たこと・思ったことを分ける」という考え方は、どの様式でも共通して使えます。
書き間違えたとき、どう直せばいいですか?
紙の記録では、修正液や塗りつぶしは使いません。間違えたところに二重線を引いて、訂正印(または署名)を入れ、正しい内容を書き足すのが基本です。元の記述が読める状態で残すのがルール、と覚えておいてください。
「消してしまう」と、あとから「都合の悪いことを隠したのでは」と見られかねません。電子の記録システムでも、多くは修正履歴が残るしくみになっています。間違えること自体は問題ではなく、直し方が大事です。細かいやり方は事業所ごとに決まりがあるので、先輩に一度確認しておくと安心です。
書いた記録は、どのくらい保存するのですか?
介護保険のルールでは、サービスを提供した記録はその完結の日から2年間の保存が基本とされています。ただし、自治体によっては5年間の保存を求めているところもあります(条例で定められています)。自分の事業所が何年なのかは、管理者に確認しておくといいでしょう。
いずれにせよ、記録は「書いて終わり」ではなく、あとから見返される前提のものだということです。
本人が話した言葉をそのまま書いていいですか?
はい、むしろ積極的に書いてください。本人の言葉は、状態変化を読み取るうえでとても重要な情報です。かぎかっこ(「 」)を使って引用すると、本人の発言であることが明確になります。「痛い」「眠い」「家に帰りたい」——こうした言葉は、記録に残しておく価値があります。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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