親が施設に入ったら介護保険はどうなる?住所地特例をやさしく解説
「隣の市に空きがある施設が見つかった。住所はどうするの?」 「施設に移ったら、今の介護保険証はどうなるの?」
こんな疑問を持つ家族の方、けっこう多いんです。 施設への入居が決まった喜びの裏で、制度まわりのことが急に気になりはじめる……そのタイミングで知っておくと、余計な焦りが減ります。 今日は「住所地特例」という言葉を中心に、施設に入るときの介護保険の話を、やさしく整理してみます。
介護保険は「住んでいる市区町村」が担当する
まずベースの話から。
介護保険は、住民票がある市区町村(これを「保険者」といいます)が担当します。保険料を納める先も、サービスの利用申請をする先も、原則として住民票のある市区町村です。
たとえば、A市に住んでいれば「A市の介護保険」が使える。引っ越してB市に住民票を移せば「B市の介護保険」に切り替わる。これがふつうのルールです。
ここで困るのが、施設への入居です。
施設に入ると、住民票をその施設のある市区町村に移すことがよくあります。すると「新しく移った市区町村の介護保険」に切り替わる……はずなのですが、それが全国規模で問題になりました。
施設がたくさんある地方の市区町村は、介護サービスを使う人がどんどん増えて財政が苦しくなる。逆に、施設の少ない都市部の市区町村は、保険料を受け取っていたのにサービスを提供しなくてよくなる。 このアンバランスを解消するために生まれたのが、「住所地特例」という制度です。
住所地特例って何?ひとことで言うと
もう少し具体的に説明します。
たとえば、お母さんがA市に住んでいて、隣のB市の特別養護老人ホームに入居することになったとします。 住民票をB市に移しても、介護保険の保険者はA市のまま。A市が発行する、新しい住所(施設の住所)が記載された介護保険証を使うことになります。要介護認定の更新や介護保険に関する申請も、引き続きA市が担当します。
これが「住所地特例」の基本的な考え方です。
住所地特例が使えるのは、どんな施設?
住所地特例の対象になるのは、おもに次のような施設です。
- 特別養護老人ホーム(特養)…原則、定員30人以上のもの
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院
- 有料老人ホーム(介護付き・住宅型・健康型)
- 養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム(ケアハウスなど)
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
ただし、同じ種類の施設でも扱いが分かれることがあります(とくにサ高住)。
いちばん確実なのは、今お住まいの市区町村の介護保険の窓口に聞くことです。「この施設に入る予定なのですが、住所地特例の対象になりますか?」と、施設の名前を伝えて聞けば、はっきり教えてもらえます。判断するのは保険者である市区町村なので、ここで確認するのがいちばん間違いがありません。
施設の種類については、ショートや施設の請求が高い…負担限度額認定で安くなるかもの記事でも施設ごとの費用のちがいに触れていますので、参考にしてみてください。
手続きは誰がどこでやるの?
住所地特例の手続きの流れ
おおまかな流れは以下のとおりです。
① 転出・転入の届け出(住民票の移動) 施設に入居して住所を移す際、転出元(もとの市区町村)と転入先(施設のある市区町村)の両方に届け出ます。これは一般の引っ越しと同じです。
期限があるので、そこだけ押さえておきましょう。転出届は引っ越す前(あらかじめ)、転入届は引っ越した日から14日以内が原則です。正当な理由なく遅れると過料の対象になることもあるので、入居日が決まったら早めに動いてください。
なお、本人が窓口に行けなくても大丈夫です。ご家族が代理で手続きできます(本人確認書類や委任状が必要になる場合があるので、持ち物は事前に窓口へ確認を)。転出届は郵送で受け付けている自治体もあります。
② 住所地特例に関する手続き ここは市区町村によってやり方が異なります。住民票の異動をすれば自治体側で確認して必要書類が郵送されてくるところもあれば、本人や家族から介護保険の窓口へ届け出が必要なところもあります(14日以内など期限を定めている自治体もあります)。
だから、入居が決まった時点で、今お住まいの市区町村の介護保険担当窓口に「施設に入るのですが、どんな手続きが必要ですか」と一度聞いておくのがいちばん確実です。転出・転入の届け出と一緒にできるのかどうかも、そのとき確認できます。
③ 施設への連絡 手続きが済んだら、施設の相談員さんにも伝えておきましょう。保険証の内容や書類の住所が変わるため、施設側でも更新作業が必要になります。
ちなみに、特養・老健などに入った時点で、在宅で担当していたケアマネジャーの担当からは外れます(施設のケアマネジャーに引き継がれます)。なので、この手続きの報告先は施設です。
在宅のケアマネジャーに伝えるなら、手続きが終わったあとではなく、「施設に入ることになりました」と決まった時点で。そのほうが、引き継ぎや段取りの相談にのってもらえます。
子どもの家に引っ越してから施設へ、というケースは?
「実家を引き払って、まず子どもの家に住民票を移し、それから施設に入る」という流れもよくあります。
この場合、子どもの家のある市区町村が、施設入所前の住所地になります。 つまり「子どもの家のある市区町村」が保険者になったうえで、住所地特例が適用されることになります。 もとの実家のある市区町村ではないので、注意が必要です。
ただし、これは実際に子どもの家へ引っ越して、そこで暮らしてから施設に入る場合の話です。住民票は「実際に生活している場所」に置くのが原則、と覚えておいてください。
「順番が複雑でよくわからない」という場合は、転出先の市区町村窓口か、担当ケアマネジャーに相談しながら進めるのが安心です。
まとめ:慌てないために知っておくこと
住所地特例は、知らないと「え、どっちの窓口に行けばいいの?」と混乱しがちな制度です。 でも仕組みを押さえておけば、施設が決まったときに落ち着いて動けます。
細かい手続きの運用は市区町村や施設によって差があります。「うちの場合どうなる?」は、入居予定の施設・現在お住まいの市区町村の担当窓口・担当のケアマネジャーにご確認ください。
家族からよく聞かれる質問
住所を移さずに施設に入ることはできますか?
「入居したら必ず施設に住民票を移す」という単純なルールではありません。ただし、住民票は実際に生活している場所(生活の本拠)に置くのが原則です。
短期間の入所なのか、それともそこがこれからの暮らしの場になるのか——それによって判断が変わります。長く暮らすことになれば、施設の住所へ移すことになる場合が多いです。
自己判断せず、施設と、市区町村の住民登録の窓口・介護保険の窓口に確認してから決めてください。
住所地特例の手続きを忘れたら、どうなりますか?
必要な届け出や確認が漏れると、保険者の情報が正しく反映されず、介護保険証の交付や要介護認定の更新などの手続きに時間がかかることがあります。
気づいた時点で、早めにもとの市区町村の介護保険窓口に相談してください。「施設に入ったのですが、住所地特例の手続きは済んでいますか?」と伝えれば、今どういう状況か、これから何が必要かを確認してもらえます。
手続きが遅れていても、まずは落ち着いて相談することが大切です。
施設に入ったら、今のケアマネジャーは変わりますか?
特養・老健・介護医療院、介護付き有料老人ホームなどに入ると、その施設の介護支援専門員(施設ケアマネ)が担当に切り替わります。在宅のときにお世話になっていたケアマネジャーとは、入居をもってお別れになることが多いです。お世話になった方には、入居前に一声かけておくとよいですね。引き継ぎは施設側と在宅側で行います。
なお、サ高住や住宅型の有料老人ホームに移った場合は、在宅と同じ扱いになるため、居宅のケアマネジャーが引き続き担当することもあります(その住まいの近くの事業所に変わることもあります)。ここは施設の種類によって変わるので、入居先に確認してみてください。
要介護認定は、住所を移した後もそのまま使えますか?
はい。住所地特例が適用されていれば、もとの市区町村の認定がそのまま有効です。認定の更新時期が来たら、引き続きもとの市区町村に申請します。施設のケアマネジャーが段取りを一緒に確認してくれることが多いので、まず施設に相談してみてください。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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