報告しても伝わらない。職種で見ている場所が違うから
「一生懸命に報告したのに、なんだかうまく届かなかった気がする」
「なんで毎回すれ違うんだろう。自分の説明が下手なのかな」
そう感じたことのある方、けっこういらっしゃるんじゃないかと思います。
でも、これ、説明の上手い・下手の話じゃないんです。 職種によって、日ごろ「見ているもの」「気にしているもの」が根本から違う。 そのすれ違いを知っておくだけで、明日の伝え方がかなり変わります。
伝わらないのは、説明が下手だからではない
まず最初に、これだけはっきり言いたいんですが。
「報告しているのに、なんだかかみ合わない」と感じるとき、それはあなたの説明力の問題ではないことがほとんどです。
多職種連携の難しさは、職種ごとに「プロとして見るべき場所」が違うことにあります。 同じ利用者さんのことを話しているはずなのに、注目しているポイントが最初からずれているんですね。
伝わらないのは当然、というところから始めると、ちょっと楽になりませんか。
職種によって、見ているものが違う
これがこの記事のいちばん大事なところです。 各職種が「何を手がかりに動いているか」を整理してみます。
看護師が気にしていること
バイタル(血圧・体温・脈拍・呼吸、それに酸素飽和度)の数値と、その変化。 「昨日と比べて変わったか」「悪化のサインがないか」を素早く見きわめるのが仕事です。 だから、「なんとなく元気がない気がして…」という情報よりも、「昨日の夕方から食事量が半分になっています。いつもは36.2℃くらいの方ですが、今朝は36.9℃でした」という報告のほうがずっと動きやすい。
リハビリ職(PT・OT・ST)が気にしていること
※PT=理学療法士、OT=作業療法士、ST=言語聴覚士のこと。
身体機能と動作。「今どこまでできているか」「以前と比べてどう変わったか」「次のゴールは何か」。 そして、まだできていること、残っている力を見つけることも大切な視点です。 「歩けなくなった」より「左足の踏み込みが弱くなった気がする」のほうが、ずっと情報として使えます。
薬剤師が気にしていること
処方された薬が正しく飲めているかどうか、副作用が出ていないか、残薬が増えていないか。 「薬を飲んでいる」だけでなく、「最近、薬を飲み込むのに時間がかかるようになった」という生活の変化が、とても重要な情報になります。
医師が気にしていること
診断・病状の進み具合・治療方針。「今の状態が医学的にどういう状態か」を判断します。 日々の生活の細かい変化より、「何が変わって、どんな症状が出ているか」という報告が届きやすい。
介護職(ヘルパー・施設スタッフ)が気にしていること
暮らし全体と、その人らしさ。「今日の食事の量」「口から出た一言」「顔色や雰囲気」「いつもと違う様子」。 数値ではなく、生活の場で見えるものを丁寧に拾っています。これはとても大切な観察です。
そしてもうひとつ。ケアマネとして担当していると強く感じるのが、入浴や排泄の介助は「全身を見られる、数少ない場面」だということです。
服を着ていると、分かりません。お風呂やおむつ交換のときに、はじめて見えるものがあります。 背中やお尻の赤み。腕や足のあざ。かかとの傷。
床ずれ(褥瘡)も、痛みを口にされない方だと、見つかるきっかけは入浴や排泄の介助のことが多いです。 「体をきれいにする時間」だと思われがちですが、実際には「体を見る時間」でもある。 ここに気づけるのは、そばで手を添えている人だけです。
そして、気づいたあとにどこへつなぐかは、そのチームの顔ぶれによって変わります。
看護師などの医療職が入っている現場なら、その場で医療職に伝わります。 でも、医療職がチームにいないこともあります。そのときは、ケアマネを通して訪問看護につないだり、床ずれを防ぐ福祉用具につないだり、という形になります。
同じ「お尻が赤くなっていました」でも、渡す相手によって、必要な言葉は変わってきます。
どれも正しい。見ている場所が違うだけ
ここで大事なのは、「介護職の見方は医療職より劣っている」なんてことは一切ない、ということです。
「なんとなく元気がない」「さっきまでと表情が違う」——これは生活の場に毎日いる介護職だからこそ気づける変化です。数値にはまだ表れていない段階で、介護職の「いつもと違う」がきっかけになって早めに手が打てた、というケースを、わたし自身いくつも見てきました。
ただ、その気づきをそのまま渡すと、受け取る側が動きにくいのも事実。 「なんとなく元気がない」を、相手が判断に使える形に置きかえて渡す。それだけの話なんです。
相手にも、相手の事情がある
報告したときに短く返されると、ちょっと胸がきゅっとなることがありますよね。
でも、それは話を聞く気がないわけでも、あなたを責めているわけでもないんです。
看護師さんは、聞いた話から今すぐ動くべきかどうかを判断する立場にいます。医師に連絡するのか、受診をすすめるのか、もう少し様子をみるのか。それを、限られた情報と限られた時間の中で決めなければいけない。判断が遅れれば、利用者さんの体に直接はねかえります。
訪問看護なら、次の訪問の時間が決まっている。施設や事業所では、一人でたくさんの方の健康状態を見ていることも多い。短く要点を尋ねられるのは、冷たさではなく、早く要点をつかんで動きたいという気持ちの表れだったりします。
同じように、リハビリ職には限られた訓練時間の中で変化を見きわめる事情があり、医師には短い診察時間の中で判断する事情があり、薬剤師には処方の安全に責任を持つ事情がある。
そして介護職には、暮らしを支えながら、数えきれない小さな変化を拾い続けている事情がある。どれも、軽いものはひとつもありません。
お互いの事情が見えていないから、すれ違う。逆に言えば、相手にも相手の事情があると思えているだけで、返ってきた言葉の受け取り方は少し変わります。
だから、相手が受け取りやすい形に整えて渡す
伝わる報告の工夫は、「相手が気にしていることを、最初に置く」それだけです。
看護師への報告:伝わりにくい例と伝わりやすい例
伝わりにくい例 「Aさん、なんか最近元気ないんですよね。表情も暗くて…なんか心配で。昨日もあんまり話してくれなくて。ごはんもちょっと残してて。それで今日も…」
伝わりやすい例 「Aさん、昨日の夕食から食事量が3割くらい減っています。今朝は声かけへの反応もいつもより薄い感じで。体温は36.8℃、いつもより0.5℃ほど高めです。一度みていただけますか?」
同じ状況を伝えているのに、伝わりやすさが全然違いますよね。
数値・変化・期間の三点セットを最初に置くと、看護師には届きやすくなります。
リハビリ職への報告:伝わりにくい例と伝わりやすい例
伝わりにくい例 「最近なんか歩き方がちょっと変で、なんか前と違う気がするんですよね…」
伝わりやすい例 「今週から右足を引きずる感じが出てきました。廊下の段差で足が止まることも2回ありました。先週まではなかった変化です。」
「どこが」「いつから」「具体的にどう変わったか」を入れると、リハビリ職の耳にすっと入ります。
介護記録の書き方と通じる部分がありますよね。「特変なし」から卒業。介護記録が伝わるようになる一番簡単なコツでも整理していますので、よかったら一緒に読んでみてください。
迷ったとき、誰に聞けばいいか
最後に、相談先のことを少し。
「報告のしかたが分からない」と思ったとき、まず頼りになるのは職場の管理者や上司、先輩です。誰にどこまで上げるか、どのタイミングで報告するかは、事業所ごとにやり方が決まっていることがほとんど。自己流で悩むより、その場のルールを一度確認したほうが早いんですね。
そのうえで、利用者さん個別の支援内容——「この方のこの変化、どう共有するのがいいだろう」という中身の話であれば、担当のケアマネジャー(介護支援専門員)に聞いてもらっても大丈夫です。
ケアマネは、一人の利用者さんに関わるいろいろな職種とやりとりをしています。訪問介護、訪問看護、デイサービス、リハビリ、薬局、医師……。職種ごとに使う言葉が違うことには、日々ぶつかっている立場なので、「この方の場合はこう伝わりやすいですよ」とお伝えできることもあります。
サービス担当者会議やモニタリングでお会いしたときに、聞いてみてください。それも、わたしたちの仕事のひとつです。
まとめ
報告のしかたや職場のルールに関わることは管理者や上司に、利用者さん個別の支援内容については担当のケアマネジャーや関係する専門職と共有しながら、進めてみてくださいね。
よくある質問
介護職から医師に直接報告しても大丈夫ですか?
多くの事業所では、看護職やケアマネジャーを通して伝えるルートが決まっています。そのほうが情報が抜け落ちにくいので、まずは職場や事業所のやり方を確認してみてください。呼吸が苦しそう、意識がはっきりしない、といった急を要する状態のときは、事業所の手順に沿いつつ、迷ったら119番を。
「話が通じない」と感じる相手がいたとき、どうすればいいですか?
まずは「相手が何を気にしているか」を一度考えてみてください。そのうえで、相手の言葉に合わせて入口を変える。それでもかみ合わないと感じるときは、一人で抱えずに職場の管理者や上司に相談を。利用者さんの支援内容そのものでかみ合わないなら、サービス担当者会議など、担当のケアマネジャーを交えて話す場を使う手もあります。「うまくいかない」を一人で抱えなくていいんです。
介護職の観察って、医療職と比べて価値が低いんでしょうか?
全くそんなことはありません。生活の場で毎日関わる介護職にしか見えない変化は、確実にあります。その観察が、医療判断に直結することも珍しくない。大事なのは、その気づきを届きやすい形に整えることであって、観察の価値が低いわけではありません。
職種によって報告の仕方を毎回変えるのは、難しくないですか?
最初はそう感じるかもしれません。でも、「看護師には数値と変化を最初に」「リハ職には動きの具体的な変化を」という2〜3パターンを覚えるだけで、かなり違います。慣れるまでは、「いつから」「どこが」「どう変わった」の三点を必ず入れることだけ意識してみてください。それだけでも、伝わり方がずいぶん変わります。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
この人について →