認知症の親が詐欺に遭った?取り消せる契約と、相談先
「通帳のお金が減っている。でも本人は『頼んでない』と言うんです」
「もう払ってしまったお金は、戻らないんでしょうか」
気づいたときには、もう何度目かだった。そんなご家族に、わたしはよく会います。
認知症があると、本人にだまされたという感覚が残らないことがあります。頼んだ覚えはない、親切な人だった。本人からはそう聞こえてきます。だから、本人に聞いても、いつ何を契約したのかは分かりません。
今日は、どんな手口があるのか、契約は取り消せるのか、どこに連絡すればいいのかを整理していきます。
高齢者が狙われる詐欺には、これだけあります
まず、どんなものがあるのかを並べておきます。 担当していて多いと感じるのは、電話と訪問です。パソコンやスマホを使った手口は、実際にはあまり出てきません。
電話でくるもの
- オレオレ詐欺(家族を名乗って、お金が要ると言ってくる)
- 還付金詐欺(役所や年金を名乗って、ATMへ行かせる)
- 架空請求(未払い金がある、と言ってくる)
家に来るもの
- 点検商法(無料点検から、屋根・水回り・シロアリの工事へ)
- 訪問販売(布団、健康食品、リフォーム)
- 訪問購入(いわゆる押し買い。貴金属を安く買い取っていく)
- キャッシュカードのすり替え(警察や銀行を名乗って家に来る)
そのほか
- 送りつけ商法(頼んでいない商品が届く)
- パソコンやスマホに出る警告画面、お試しのつもりが毎月届く定期購入
わたしが担当していた方にも、屋根の工事の代金を払ってしまった方がいました。 その方にも、だまされたという感覚はありませんでした。「かわいそうだから、1万円渡してやった」と話していました。
本人は「だまされた」と言いません
ここが、認知症の詐欺のいちばんやっかいなところです。
家族が「だまされたんじゃないの」と聞いても、本人は否定します。 頼んでいない、そんな人は来ていない、あの人はいい人だった。
嘘をついているわけではありません。 契約したことが記憶に残っていないこともありますし、そもそも、だまされたと気づいていないこともあります。
だから、本人に問いただすことは逆効果になることもあります。 責められていると感じると、次からは家族に話さなくなります。そうなると、二度目が起きたときに気づけません。
家の中に出るサイン
本人から出てこないなら、家の中を見ることになります。
- 通帳 … 覚えのない引き落とし、まとまった出金、記帳していない期間
- 郵便物 … 契約書、請求書、宅配の伝票。開けずにたまっているもの
- 家の中 … 同じ物がいくつもある、見覚えのない箱、新しい健康器具や布団
- 家のまわり … 屋根や外壁に工事の跡、置きっぱなしの資材
- 電話のまわり … メモ書き、知らない会社名、着信履歴
見つけたら、契約書と領収書、封筒はすべて残してください。捨てないでください。 いつ、どこの会社と、いくらで契約したのか。これが分かるかどうかで、取り消せるかどうかが変わります。
契約は取り消せることがあります
払ってしまっても、あきらめないでください。取り消せる道がいくつもあります。
その1 クーリング・オフ
訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入は、法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内なら、理由を言わずに契約をやめられます。 やめると伝えるときは、電話ではなく、はがきなどの書面か、メールのように記録が残る形で、契約した会社に出します。出したものは、コピーを取っておいてください。
その2 訪問販売で、量が多すぎる契約
訪問販売で、日常生活に必要な量を明らかに超える契約をした場合は、契約から1年以内なら解除できることがあります。 布団を何組も、健康食品を何箱も買わされた、といったときです。1回で大量に契約した場合だけでなく、何度も買わされて積み上がった場合も対象になることがあります。
その3 うそを言われて契約した場合
事実と違うことを言われた、帰ってくれと言ったのに帰らなかった。そうした事情があるときは、あとから契約を取り消せることがあります。
その4 判断できない状態だった場合
契約したときに、本人が内容を理解できる状態になかったのであれば、その契約がそもそも無効になることがあります。認知症の診断や、当時の様子が分かるものが手がかりになります。
どれに当たるかを家族が見分ける必要はありません。次の相談先に、そのまま持っていってください。
相談先は、この3つ
1 消費者ホットライン「188」
いちばん最初にかける番号です。局番なしで188。近くの消費生活センターにつないでくれます。 契約の取り消しは、ここが専門です。相談は無料です。ただし、通話料はかかります。
2 警察相談専用電話「#9110」
オレオレ詐欺やキャッシュカードのすり替えなど、犯罪にあたりそうなときはこちらです。 緊急のときは110番ですが、「これは詐欺だろうか」という段階の相談は#9110で受けてもらえます。
3 地域包括支援センター
お住まいの地域の、高齢者の相談窓口です。 「詐欺のことは扱わないのでは」と思われるかもしれませんが、お金の管理や見守りの話につながる窓口です。担当のケアマネジャーがいるなら、ケアマネジャーでもかまいません。
先に塞いでおけること
ここまで、相談先と、契約を取り消せる場合をお伝えしてきました。
ただ、これはどれも条件に当てはまって、契約した相手の連絡先が分かっている場合の話です。相手にたどり着けなければ、取り消しようがありません。
ですから、起きる前に塞いでおくという見方も必要です。
また、一度あると、たいてい二度目があります。名簿が回るからです。 起きる前にできることを挙げておきます。
電話
- 留守番電話にしておく。知らない番号には出ない
- 通話を録音すると知らせる機器を付ける(自治体が貸してくれることがあります)
- 海外からかかってくる詐欺電話を止める。国際電話不取扱受付センター(0120-210-364・無料)に申し込むと、固定電話とひかり電話で国際電話の発着信を止められます。近ごろは国際電話番号を使った詐欺が増えていて、警察庁も呼びかけています(申し込みの仕方はみんなでとめよう!!国際電話詐欺|警察庁に出ています。電話のほか、専用サイトからも、最寄りの警察署でも申し込めます)
玄関まわり
- 録画が残るインターホンにする(あとから、誰が来たかを確かめられます)
- 見慣れない箱や、新しい健康器具、工事の跡がないか、実家に行ったときに見ておく
- ヘルパーやデイの職員にも、気づいたら教えてほしいと伝えておく
お金
- 通帳と印鑑を、本人の手元に置かない。置き場所は家族が決めておく
- 判断がむずかしくなってきたら、日常生活自立支援事業や成年後見という仕組みがあります。詳しくは認知症の親のお金が心配…どう守る?成年後見と日常生活自立支援にまとめています
まわりの目
- 担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに、心配していると伝えておく
- 郵便物を、家族が定期的に見られるようにしておく
- 離れて暮らしているなら、様子が分かる仕組みも助けになります(離れて暮らす親を見守る方法、どれを選べばいい?)
ただ、正直に書いておきます。 家で暮らしている以上、詐欺を完全に防ぐことはできません。転倒と同じです。完全に防ごうとすると、外との関わりを断つしかなくなります。
ある程度のことは起こりうると引き受けたうえで、それでも家で暮らす。 そういう選び方があっていいと、わたしは思っています。だからこそ、起きたあとの動き方を知っておいてほしいのです。
まとめ
だから通帳とか郵便とか、家の中を見る。契約書は捨てない。
払ったあとでも、8日以内ならやめられるし、量が多すぎたら1年以内。判断できない状態だったら、そもそも無効になることもある。
そして、まず188に電話する。
あってる?
気づいたときには何十万円、ということもあります。 自分を責めてしまう方は多いのですが、家族が防ぎきれるものではありません。
もし親が詐欺に遭っていたとしても、まだ間に合うことは残っています。契約書を手元に、188へ電話するところからで大丈夫です。
ここまでの話を、1枚にまとめました。印刷して手元に置いたり、ご家族で見ながら話すときに使ってください。
この記事で触れた内容は、制度の概要です。個別の事情によって結論は変わります。最終的なご判断は、担当のケアマネジャーや専門家にご相談ください。
よくある質問
本人が「自分で頼んだ」と言い張ります。それでも取り消せますか?
本人がそう言っていても、相談はできます。契約したときに内容を理解できる状態だったかどうかが問われますし、訪問販売で量が多すぎる契約なら、それだけで解除できることもあります。契約書を持って188へ相談してみてください。
クーリング・オフの8日を過ぎてしまいました。もう無理ですか?
そうとは限りません。訪問販売で量が多すぎる契約なら1年以内、うそを言われた場合や、判断できない状態だった場合は、別の道があります。8日を過ぎたからとあきらめずに、まず相談してください。
頼んでいない商品が届きました。送り返さないといけませんか?
いいえ。一方的に送りつけられた商品は、届いたその日から処分してかまいません。支払う義務もありません。ただし、代金引換で受け取ってしまうとお金は戻りにくくなるので、身に覚えのない荷物は受け取らないほうが安全です。
遠くに住んでいます。何から始めればいいですか?
まず、地域包括支援センターか担当のケアマネジャーに、心配していると伝えてください。訪問したときに様子を見てもらえます。そのうえで、通帳や郵便物を確認できる機会をつくっておくと、早く気づけます。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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