認知症の親が趣味や家事をやめた…その背景にあるもの
以前は毎日料理を作っていた。庭いじりが生きがいだった。散歩を欠かさなかった。
それなのに、今はソファでテレビを見ているだけ。
「どうしてやらなくなったんだろう」 「何か嫌なことがあったのかな」 「体の具合が悪いのかしら」
そう感じて、不安になっている家族の方は多いと思います。 「何もしない」の背景には、本人なりの理由が隠れていることがあります。今日はその話をしていきます。
認知症になると「始める力」が弱くなることがある
認知症というと、「もの忘れ」がまず頭に浮かぶと思います。 でも実際には、記憶だけでなく、こんな力にも影響が出ることがあります。
- 段取りを考える力
- 計画を立てる力
- 判断する力
たとえば料理ひとつとっても、「今日は何を作ろうか→冷蔵庫を確認する→材料が足りなければ買い物に行く→手順通りに調理する」という、たくさんの工程が必要です。
認知症が進むと、この「何から始めればいいか」が分からなくなることがあります。やる気がないのではなく、手が出せなくなっている、という状態です。
本人からすれば「やりたくない」ではなく、「どうすればいいか分からない」という感覚に近いかもしれません。
「失敗したくない」気持ちが隠れていることも
もうひとつ、大切な視点があります。
認知症のある方は、自分の変化に気づいていることが多いんです。 「前はできていたのに、最近うまくできない」という感覚は、本人が一番感じています。
だからこそ、こんな気持ちが生まれてきます。
- 料理の手順が途中で分からなくなった
- 買い物でお金の計算が不安になった
- 人と話していて、うまく言葉が出なかった
こうした経験が積み重なると、「またできなかったらどうしよう」「恥をかきたくない」 という気持ちから、行動そのものを避けるようになることがあります。
これは「できない」ということより、「失敗が怖い」 という感情が前に来ている状態です。
大好きだった庭いじりをやめたのは、草の名前が分からなくなったから、かもしれない。 散歩に行かなくなったのは、道に迷いそうで怖くなったから、かもしれない。
そう思うと、「やらなくなった」が少し違って見えてきませんか。
家族がやりがちな「逆効果」な言葉
家族が思わず言ってしまいやすい言葉があります。
- 「なんで何もしないの?」
- 「前はできたでしょ」
- 「少しは動いたら?」
これらは責める気持ちからではなく、心配や焦りから出てくることがほとんどです。家族だって、変化が怖いし、何か力になりたいと思っている。
でも、こうした言葉が本人をさらに萎縮させてしまうことがあります。
「また怒られた」「自分はだめになった」という気持ちが積み重なると、ますます引きこもりやすくなる。そういう悪循環が起きることがあるんです。
なお、認知症のある方への言葉かけについては、認知症の親に言ってはいけない言葉と、やさしい言い換えでも詳しく紹介しています。
こんな関わり方が、力を引き出しやすい
では、どんな関わりが本人の力を引き出しやすいのでしょうか。
一緒にやる
「自分でやってみて」ではなく、「一緒にやってみようか」という関わり方です。 一人でやろうとすると途中で迷子になっても、誰かがそばにいるだけで安心して動ける場合があります。
最初だけ手伝う
「最初の一手」を一緒にやる、という方法も有効です。 エプロンを出して「これ結ぼうか」と言えば、あとは自分でできることもあります。「始める」の壁が高くなっているだけで、始まれば動ける、というケースは少なくないです。
役割を小さく分ける
これが一番大事かもしれません。
| 以前の役割 | 小さくした役割 |
|---|---|
| 料理を全部担当 | 野菜を洗うだけ |
| 洗濯を全部担当 | タオルをたたむだけ |
| 買い物に行く | カゴを持つだけ |
全部をやらなくていい。「一部だけ」できればOK という設定にすることで、成功体験が生まれます。
そして、ここが大切なのですが——小さな役割でも、「ありがとう、助かったよ」という言葉が返ってくると、本人の中に「自分は役に立てた」という実感が生まれます。この感覚の積み重ねが、次の意欲につながっていくんです。
「何をしてもらうか」よりも、「どんな役割を持ってもらうか」。その視点で日常を見直してみると、意外と小さなことがたくさん見つかります。
多くの方は、認知症になっても「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持っています。
洗濯物をたたむことも、テーブルを拭くことも、家族にとっては小さなことかもしれません。
でも本人にとっては、「まだ自分にもできることがある」と感じられる大切な役割になることがあります。
訪問介護(ホームヘルパー)という選択肢も
家族だけで支えようとしなくていい、ということも伝えておきたいです。
訪問介護(ホームヘルパー)は、「やってあげるだけ」のサービスではありません。 掃除や料理を一緒に行う「共に行う支援」も得意としています。 「今日はここを一緒に拭きましょうか」「野菜を切るのをお願いしてもいいですか」といった形で、本人が参加できる場をつくることができます。
また、家族にはなかなか見せない顔を、第三者には見せることがあります。 「家族の前では頑張りたくない」「家族には迷惑をかけたくない」という気持ちが、ヘルパーとのやりとりでは和らぐことがあるんです。
ヘルパーに手伝ってもらって一緒に動けた、という経験が自信の回復につながることもあります。家族ひとりで抱え込まず、こういった選択肢もあると頭の隅に置いておいてもらえるといいかなと思います。
ケアマネとして感じること
現場でよくあることをひとつ、お話しします。
「何もしなくなった」と言われていた方が、ヘルパーと一緒に台所に立ち始めたことがありました。 最初は見ているだけだったのに、ある日「わたしが味付けするわ」とおっしゃって。ご家族はとても驚かれていました。
また、デイサービス(通所介護)でテーブルを拭くという小さな役割を担ってもらったとき、「ありがとうございます」と言われることで笑顔で話しかけるようになった方もいます。自宅で洗濯物を干す一部を担ってもらったことで、「役に立てた」とご本人が言っていたというお話を家族から聞いたこともあります。
能力がゼロになったわけではなく、発揮しづらい状況になっているだけの場合があります。 その「発揮しやすい場」を一緒に探すのが、家族と専門家の役割だとわたしは感じています。
こんなときは専門家に相談を
関わり方の工夫をしても、以下のような変化が見られるときは、早めに専門家への相談をおすすめします。
- 急激な変化(数日で急にぼんやりすることが増えた)
- ほぼ一日中閉じこもっている状態が続く
- 食事量が目に見えて減った
- 涙が多い、表情が暗いなど抑うつが疑われる
こうした場合、認知症の進行だけでなく、身体的な疾患や「うつ状態」が関係している可能性もあります。
主治医・地域包括支援センター・担当のケアマネジャーに、気になっていることをそのまま伝えてみてください。「なんとなくおかしい」という感覚も、大切な情報です。
最終的なご判断は、担当のケアマネジャーや医療・福祉の専門家にご相談ください。
まとめ
「できないこと」を数えるより、「まだできること」を一緒に見つけていく。 家族ひとりで抱え込まず、ヘルパーやケアマネジャーも一緒に考える仲間に入れてもらえると、もう少し余裕が生まれることがあります。
一人で抱えずに、ケアマネジャーや地域の相談窓口にも気軽に声をかけてみてくださいね。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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