介護で腰を壊さないために。「持ち上げない」が一番のコツ
毎朝、ベッドから起こすたびに腰に痛みが走る。 お風呂の介助が終わると、しばらく動けない。 そんな毎日を「しょうがない」と我慢していませんか。
介護は長く続くものです。 その間、支える人の体が持たなければ、介護そのものが続きません。 今日は「腰を守る」ことを、いっしょに考えてみましょう。
大原則は「持ち上げない・引きずらない」
介護での腰痛は、「力で相手を持ち上げる・引っ張る」ことから生まれます。
体の重い人間を、腰を曲げた状態で持ち上げる。 これは腰にとって、かなりの負荷です。 体格の小さい方でも、毎日繰り返せば少しずつ傷みが蓄積していきます。
大原則はシンプルです。
「持ち上げない」「引きずらない」。この2つを頭に置くだけで、全然ちがいます。
「じゃあどうするの?」というところを、これから一つずつ見ていきましょう。
体の使い方、3つだけ覚えてください
難しいことは言いません。 動かすときに意識してほしいのは、この3つだけです。
① 足を肩幅に開く 足を閉じた状態で介助すると、バランスが不安定になり、腰に力が集中します。しっかり足を開いて、安定した土台を作ることが基本です。
② 膝を曲げて腰を落とす 腰を曲げてかがむのではなく、膝を曲げてしゃがむように体を落とします。腰が曲がっていると、そこに体重がかかってしまいます。膝を使うイメージで。
③ 相手に体を近づけ、腰を”ひねらない” 相手から離れた状態で支えると、腕だけに力がかかり、腰をひねりやすくなります。相手に体をぐっと近づけて、一体になって動くのがコツです。「ひねりながら持ち上げる」は腰痛の大きな原因なので、特に気をつけてください。
それでも腰に不安が残るときは、介助のあいだだけ腰を支える「腰痛ベルト(骨盤ベルト)」を使うのも、ひとつの方法です。
今日からできる工夫。「持ち上げない」ための道具とひと手間
体の使い方と並んで大切なのが、環境と道具の工夫です。 少しの準備で、毎日の介助がぐんとラクになります。
介護ベッドの高さを「自分の腰の高さ」に合わせる
介護ベッドは高さを調整できます(介護ベッドについてはこちらの記事も参考になります)。
ベッドが低いと、介助するたびに深くかがまなければなりません。 これが腰への負担の大きな原因のひとつです。
自分の腰の高さくらいにベッドを上げると、かがまずに介助できます。 それだけで持ち上げの回数が減り、腰への負担がぐっと変わります。
「でも、本人が降りるとき危なくない?」と思うかもしれません。 作業するときだけ高くして、普段は本人に合った高さに戻す、という使い方で大丈夫です。
スライディングシート・ボードを使う
「スライディングシート」「スライディングボード」は、介護の現場でよく使われる道具です。
スライディングシートはツルツルした素材のシートで、ベッドの上に敷くことで、持ち上げなくても横への移動や体の向きを変えるのがスムーズになります。引きずるのではなく「滑らせる」感覚です。
スライディングボードは、ベッドと車椅子のあいだに橋のように渡して、座ったまま横移動できる板のこと。 移乗(ベッドから車椅子など場所を移ること)のときに、「よいしょ」と抱え上げる動作が要らなくなります。
どちらも、ケアマネジャーに相談すれば介護保険でレンタルできる場合があります。
どうしても持ち上げが多いなら「リフト」も
全介助で抱える場面が多い場合は、体を吊り上げて移乗する「移動用リフト」という道具もあります。
実は国(厚生労働省)も、介助で人を抱え上げるのは原則さけて、リフトなどの道具を使うことをすすめています。
「家に置けるの?」と心配になるかもしれませんが、床走行式(キャスターで動かすタイプ)など置き場所を取りにくいものもあり、介護保険でレンタルできる場合があります。
まずはケアマネジャーに「リフトも検討したい」と相談してみてください。
ベッド柵や手すりで「本人の力を借りる」
全部こちらで支えようとしなくていい、というのも大切な視点です。
ベッドに柵や手すりがあれば、本人がそれにつかまって体を起こす力を使えます。 手すりの位置や高さをうまく設定すると、介助する側が抱える量が減ります。
たとえば「少し前かがみになってください」「手すりを持ってください」と声をかけて、本人が動ける部分は一緒に動いてもらう。
それだけで、介助する側の負担は大きく変わります。介助される人にも、できる動きはお願いしていいんです。
「本人の残っている力を活かす」ことは、介護される側にとっても良いことです。 「全部やってあげなきゃ」よりも、「一緒にやる」を意識してみてください。
声かけと「タイミング合わせ」も立派な技術
立ち上がりを介助するとき、いきなり持ち上げようとすると、お互い力が入りすぎて腰にきます。
「いっせーの、どっこいしょ」と声をかけて、本人が動き始めるタイミングに合わせて介助するだけで、必要な力が半分以下になることがあります。
声かけは「手を抜いている」のではなく、腰を守るための立派なコツです。
プロに任せていい場面もある
移乗の介助(ベッド↔車椅子、車椅子↔トイレなど)は、毎日何度も繰り返す動作です。
この回数が多い場合は、訪問介護(ホームヘルプ)のサービスをうまく使うことも検討してほしいと思います。
「家族がやるべき」という思い込みは、少し手放してみてください。 プロの介護職員は、体への負担が少ない方法を訓練で身につけています。
それに、プロが介助するところを間近で見せてもらったり、「うちの場合、どう動けばいい?」と教わったりすることもできます。
訪問のヘルパーさんや、リハビリの専門職(理学療法士・作業療法士など)に、体の使い方のコツを聞いてみるのもおすすめです。プロの動きには、家庭で真似できるヒントがたくさんあります。
実際には、「移乗だけ」を頼むというより、排泄や着替えの介助などとあわせて、移乗の負担が大きい時間帯に来てもらうという使い方が多いです。
組み合わせ方は人それぞれなので、まずはケアマネジャーに「腰が心配なので、移乗の負担が大きい時間帯に支援を入れられないか」と相談してみてください。
介護する人自身の体を休める
腰を守るには、「正しく動く」と同じくらい、「ちゃんと休む」ことが大切です。
痛む前に、こまめに座る
「少し痛いな」と感じてからでは遅いことがあります。 痛みが来る前に、1日のうちに何度も「ちょっと座る」を意識してみてください。 5分でいい。腰を伸ばして座るだけで、疲労の蓄積がちがいます。
入浴・温めで腰をほぐす
入浴や、蒸しタオルを当てるだけでも腰の緊張がほぐれます。 無理なストレッチは逆効果になることもあるので、「ゆっくり温めて伸ばす」くらいで十分です。
1日でも「介護を休む日」を作る
我慢の積み重ねは、慢性的な腰痛につながります。 週に1回でも、1日でも、「介護から離れる時間」をちゃんと作ることが、長く続けるための土台になります。
ショートステイ(短期間、施設に泊まってもらうサービス)やデイサービス(日中施設で過ごしてもらうサービス)は、家族が休むためにも使っていいサービスです。「レスパイトケア」といいます。
「施設に預けるのは申し訳ない」と思う方もいますが、あなたが体を壊してしまえば介護そのものが続きません。休むことは、立派な介護の選択肢です。
まとめ:支える人の体も、同じくらい大切です
腰の痛みが続く場合や、足のしびれがある場合は、我慢せずに早めに整形外科などを受診してください。 「少し痛いくらい」の段階で診てもらうのが、慢性化を防ぐためには大切です。
道具の活用やサービスの利用については、担当のケアマネジャーに遠慮なく相談してみてください。 「腰が心配で」と伝えるだけで、いろいろな選択肢を一緒に考えてもらえます。
無理しない介護が、長く続けられる介護です。 あなたの体を、どうかいたわってください。
※本文でふれた腰痛ベルト(骨盤ベルト)は、このあとのリンクからご覧いただけます。合う・合わないや使い方に個人差があるので、ご利用は自己責任でお願いします。痛みや足のしびれが強いときは、まず整形外科にご相談ください。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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