脳梗塞・脳出血の親を自宅で。再発を防ぐために家族が見ること
「退院できた。よかった、ひと息ついて……でも、また倒れたら?」
そう思いながら毎日を過ごしているご家族は、きっと少なくないと思います。 脳梗塞や脳出血は、退院してからが「次を防ぐ」ための大事な時間です。
治療はお医者さんにお任せしながら、家でできることを少しずつ知っておく。 こわさを、備えに変えていきましょう。
脳血管疾患は、再発しやすい病気です
脳梗塞や脳出血は、一度起こると同じ血管の問題が再び起きやすい状態が続きます。 「退院したから完治」ではなく、退院後も再発のリスクと向き合い続ける病気です。
再発は、最初の発症よりも後遺症が重くなりやすいこともあります。 ただ、これは「また倒れるぞ」と怖がるためではなく、「だから日常のケアが意味を持つ」という話です。
医師や看護師、薬剤師、リハビリ職など、専門職のチームがいます。 でも、血圧がじわじわ上がってきた、お薬が余っている、このごろ水を飲まない——そういう小さな変化に最初に気づけるのは、毎日いちばん近くにいるご家族です。 その気づきを主治医に伝えてもらえると、再発につながる変化を早い段階で見つけられることがあります。
家族が毎日できる「再発を防ぐ視点」
血圧を測る習慣を続ける
脳血管疾患と血圧は深く関係しています。 日本脳卒中学会は、自宅での血圧測定を「少なくとも朝と夜の2回、安静にしてから」とすすめています。 座って少し落ち着いてから測る。数字は血圧手帳などに書いておいて、受診のときに主治医に見てもらう——この流れができていると、診察がぐっと進めやすくなります。 目標の数値は、脳梗塞だったのか脳出血だったのか、血管の状態はどうかによって変わります。だからこそ、「主治医から言われた数値の範囲内かどうか」 を確認することが大切です。
「数字の良し悪しは医師に判断してもらう。わたしたちは測って記録する役」——このくらいの役割分担で十分です。
脈の乱れにも、そっと目を向けて
脳梗塞の原因のひとつに、心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈があります。心臓の中でできた血のかたまりが流れていって、脳の血管を詰まらせてしまうタイプです。
日本脳卒中学会は、心房細動のサインとして「どきどきする」「胸が苦しい」「階段や坂を上るのがきつい」「息が切れやすい」「疲れやすい」を挙げています。 家庭用の血圧計は脈の数も一緒に出るものが多く、機種によっては脈の乱れを知らせてくれるものもあります。
「最近やけに疲れやすい」「脈がバラバラな気がする」——血圧を測るついでに、そこも眺めておく。気になったら主治医に伝えてみてください。
薬を続けられているか見守る
退院後は、毎日欠かさず飲むお薬が出ていることがほとんどです。 ただ、そのお薬の中身は、脳梗塞だったのか、脳出血だったのかで変わってきます。脳梗塞のあとは、血のかたまりをできにくくする薬(抗血栓薬。「血をサラサラにする薬」と説明されることが多いお薬です)が再発予防の柱になります。一方、脳出血のあとは、血圧をしっかり下げていくお薬が中心になります。 どちらにも共通しているのは、自己判断でやめないこと。「なんだか調子がいいから」「副作用が怖くて」と本人がそっと飲むのをやめてしまうことが、再発につながるケースがあります。
飲み忘れていないか、薬が余っていないかを、さりげなく確認してみてください。 飲みにくさや副作用の不安があれば、本人の声を主治医・薬剤師に届けることも家族の大事な役割です。
薬の管理に悩んでいる場合は、薬の管理、どうしてる?親の飲み忘れ・飲み過ぎを防ぐ工夫 居宅療養管理指導というサービスも有効もあわせてご覧ください。
水分をとれているか気をつける
脱水は、血液がドロドロになりやすい状態をつくり、脳梗塞の引き金になることがあります。 「のどが渇いた」と感じにくくなる方もいるので、飲んでいるかどうかをさりげなく見ておきましょう。
どのくらい飲んだらいいかは、疾患・薬の種類によって変わることもあるため、目安は主治医に確認してください。
生活リズムを整える
睡眠・食事・活動のリズムが崩れると、血圧が乱れやすくなります。 「毎朝だいたい同じ時間に起きている」「食事の時間が安定している」など、大きく乱れていないかを見ておくくらいで十分です。
後遺症とのつきあい方——ここも「見て、伝える」でいい
リハビリを続けられているか、見守る
「退院したらリハビリも終わり」と思われる方もいますが、むしろ退院後の生活の中でリハビリを続けることが、機能の維持・回復に大きく影響します。 ここでもご家族の役割は同じで、続けられているかを見て、続かなくなってきたら伝える——それで十分です。
在宅でのリハビリを支えるサービスとして、
- 訪問リハビリ(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅に来てくれるサービス)
- 訪問看護(看護師が自宅に来て体調を見守るサービス。事業所によっては、理学療法士などが訪問看護の一環としてリハビリに来てくれることもあります)
などが使えることがあります。介護保険の対象になる場合もあるので、ケアマネジャーに相談してみてください。
なお、介護保険は「65歳から」と思われがちですが、脳血管疾患は国が定める「特定疾病」のひとつです。そのため40歳から64歳の方でも、要介護認定を受けて介護保険のサービスを使える場合があります。働き盛りで倒れた親御さんや配偶者の場合も、あきらめずに、お住まいの市区町村の介護保険の窓口やケアマネジャーに聞いてみてください。
「本人がやる気をなくしてしまった」という声もよく聞きます。意欲が落ちているときは、無理にがんばらせるより、まず専門職に相談する方が結果的に続きやすいことが多いです。
「むせ」が増えていないか見る
脳血管疾患の後遺症として、飲み込む力(嚥下機能)が低下することがあります。 食事中にむせが増えた・咳き込むようになったというサインが出たら、早めに主治医や言語聴覚士(ST)に伝えてください。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん/食べ物や水が気管に入って起こる肺炎)の予防にもつながります。 くわしくは、誤嚥性肺炎を繰り返す親へ。家で「次の一回」を防ぐ視点でもお話ししています。
意欲の落ち込み・ボーっとしたようすに気づく
脳血管疾患の後遺症として、「脳血管性認知症」(血管の障害によって起こる認知症のタイプ)が現れることもあります。 急に記憶が落ちたり、ぼんやりした時間が増えたり、感情の波が大きくなったりすることが特徴のひとつです。
「こういうもの」と流さず、気になることがあれば主治医に伝えてみてください。 日々の暮らしの中でできることは、認知症の進行を、少しでも遅らせる暮らし方にもまとめています。
「再発かも」と思ったときのサイン——FASTを知っておいて
脳梗塞・脳出血が疑われるとき、次の4つのサインが知られています。 「FAST(ファスト)」と呼ばれるものです。
| 頭文字 | 意味 | 見るポイント |
|---|---|---|
| Face | 顔 | 顔の片側がゆがんでいる・口が歪む |
| Arms | 腕 | 両腕を上げると、片方がだらっと下がる |
| Speech | 言葉 | ろれつが回らない・言葉が出にくい |
| Time | 時間 | 症状が出た時刻を確認して、すぐ119番 |
「いつもと違う」「急に」が大事なキーワードです。
FASTでは拾えないサインもあります
じつは「顔・腕・言葉」だけでは気づけないことがあります。 日本脳卒中学会は、これに2つを加えた「脳卒中の5大症状」を挙げています。いずれも「突然」が目印です。
- 片方の手足・顔半分のマヒやしびれ(顔だけ、手だけ、足だけのことも)
- ろれつが回らない、言葉が出ない、相手の言うことが理解できない
- 経験したことのない、激しい頭痛
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
- 力はあるのに立てない、歩けない、フラフラする
このうち「経験したことのない激しい頭痛」は、脳出血やくも膜下出血のサインで、FASTには入っていません。脳出血で入院された親御さんのご家族は、ここもあわせて覚えておいてください。
「いつから」を伝えられるように
救急の場面では時間が大きく効いてきます。早く治療を始めるほど効果が期待できるため、救急隊や病院では「症状が出たのは何時ごろか」「気づいたのは何時ごろか」「最後にいつもどおりだったのはいつか」を聞かれます。
眠っているあいだのことで、時刻がはっきりしなくても大丈夫です。「最後に普段どおりだったのは、昨日の夜9時ごろ」と言えるだけで十分に役立ちます。
迷ったときは119番に電話して判断を仰いでください。救急隊員の方が状況を聞いて案内してくれます。 「大げさかな」と迷うより、早めに動くほうが、もし本当に再発だったときの回復に大きく関わります。
専門職と組みながら、家族は「見る人」でいい
在宅での再発予防は、ひとりで抱えるものではありません。
- 主治医……薬の調整・数値の管理・総合的な判断
- 訪問看護師……血圧管理・体調の変化を早期に把握
- リハビリ職(PT・OT・ST)……機能の維持・回復・飲み込みの支援
- ケアマネジャー……これらをまとめてつなぐ調整役
家族だけで抱えなくて大丈夫です。 「なんかいつもと違う気がする」——その感覚を、主治医やケアマネジャーに伝える。それだけで、もう立派にチームの一員です。
まとめ
「こわい」という気持ちは自然なことです。 でも、毎日の小さな気づきが積み重なることで、家族の関わりは再発予防の力になります。
医療的な判断や薬の調整は、かならず主治医にゆだねてください。 家でできることは「見て、記録して、気づいたら伝える」——その循環をつくることが、いちばん家族らしい関わり方だとわたしは思っています。
具体的にどんな専門職を呼ぶかや、介護保険の使い方などは、担当のケアマネジャーに相談してみてください。
よくある質問
薬を嫌がって飲まないときは、どうしたらいいですか?
無理に飲ませようとすると、かえって関係が崩れることがあります。まずは「なぜ飲みたくないか」を聞いてみることから。副作用の不安、錠剤が大きい、忘れてしまう——理由によって対策が違います。主治医や薬剤師に伝えると、薬の形を変えるなどの工夫ができることもあります。
訪問リハビリは、どんな状態の人でも使えますか?
介護保険の認定(要介護・要支援)が出ている方なら、使える可能性は高いです。ただし医師の指示が必要で、主治医と事業所のあいだで情報のやりとりをする手続きがあります。まずケアマネジャーに「訪問リハビリを使いたい」と相談するのが一番の近道です。
FASTのサインがあるかどうか、毎日確認した方がいいですか?
毎日チェックする必要はありません。「顔色・話し方・動き方がいつもと違うな」という感覚のほうを大事にしてください。異変を感じたときに思い出せるよう、頭の片隅に置いておくのが目的です。スマホのメモに入れておくのもいいと思います。
意欲が落ちていて、リハビリを嫌がっています。どうすれば続けられますか?
意欲の低下は、後遺症のひとつとして起こることがあります。「やる気がないから無理」と決める前に、リハビリ職や主治医に伝えてみてください。本人のペースや好みに合わせて内容を変えると、続けられるようになることもあります。焦らず、専門職と一緒に考えましょう。
おまけ:「続かない」のは、意志じゃなく仕組みの問題
続かなかった原因は、たぶん本人のせいではありません。書き写す手間です。 測る → ノートを探す → 数字を書く。この3ステップのどこかで、たいてい止まります。
わたしがいま使っているのは、測ると勝手にスマホに記録が飛ぶタイプ——オムロンの上腕式血圧計(HCR-7608T2)です。
まず上腕式(腕に巻くタイプ)であること。日本高血圧学会が示す家庭血圧の測り方でも、装置は「上腕カフ」が基準とされています。 そのうえで、測ったあとはBluetoothでスマホのアプリに数字が入るので、こちらは何も書かなくていい。受診のときは画面をそのまま先生に見せています。ノートを探すのをやめた日から、記録が途切れなくなりました。
もちろん、血圧計を買えば再発を防げる、という話ではありません。数字を判断するのは主治医です。 それに学会の指針にも、「測り忘れに一喜一憂する必要はない」「測定に不安をもつ人に、測定を強いてはならない」とはっきり書かれています。親御さんが嫌がる日は、休んでいいんです。
続けるためにがんばるのではなく、がんばらなくても続く形にしておく。それだけのことだと思っています。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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