賃貸でも手すりは諦めなくていい。工事なしで置ける手すりの話
「アパートだから壁に穴を開けられない。玄関でふらつくのを見るたびヒヤッとするけど、大家さんに何て言えばいいのか分からない。レンタルもきっと高いだろうし、そのままにしている」
こう感じているご家族、本当に多いです。
結論から言うと、工事なしで置けるタイプの手すりは、賃貸でも持ち家でも同じように介護保険で借りられます。 壁に穴を開けないので、住宅改修のような工事の承諾も要りません。費用も「高いだろう」という想像とはかなり違います。今日は、その話を整理していきます。
手すりには2種類ある
まずここを整理しておくと、ずっと話が通じやすくなります。
壁にネジで固定するタイプは、「住宅改修(じゅうたくかいしゅう)」という制度を使います。工事なので、当然ながら賃貸では大家さんの承諾が必要です。退去するときに元に戻す義務が生じることもあり、その費用は自己負担になります。
床に置くタイプ・天井まで突っ張るタイプは、「福祉用具貸与(ふくしようぐたいよ)」、いわゆるレンタルです。工事ではないので、壁や天井にネジや釘を打つことはありません。
わたしが担当してきた賃貸のお宅では、この置き型のレンタルを使うケースが多くありました。
賃貸で不利になるのは、工事のほうだけ
工事の場合は、大家さんへの承諾・退去時の原状回復・費用の自己負担という三つのハードルがあります。
一方、レンタルの場合は工事ではないため、工事の承諾も、退去時の原状回復も、関係ありません。 介護保険の扱いも同じで、賃貸だからレンタル料が高くなったり、対象から外れたりすることはありません。
つまり「賃貸だから無理」というのは、工事の話とレンタルの話が混ざってしまっている状態です。工事は確かにハードルが高い。でもレンタルは、賃貸かどうかで制度の扱いが変わることはありません。
これまで賃貸のお宅にいくつも手すりを入れてきましたが、大家さんに相談したことは一度もありません。「工事をしない」というのは、それくらいシンプルなことなのです。
いくらかかるか
介護保険のレンタルを使うと、自己負担は1割負担の方で月400円ほどが目安です(品物の種類と事業所によって変わります。2割・3割負担の方は、その分高くなります)。
相談を受けるとき、この金額をお伝えすると、よく「え、そんなに安かったんですか。1日ですか?」と聞き返されます。1日ではなく、1か月でその金額です。
そもそもこういう制度があることをご存じない、という方が本当に多いです。「レンタルはきっと高い」と思って調べずにいた、というケースが、担当していると繰り返し出てきます。
福祉用具レンタルで借りられるものの全体像については、福祉用具レンタル、何が借りられて月いくら?介護ベッドから車椅子までもあわせて読んでみてください。手すり以外の道具も含めて、ひと通り整理しています。
どこに置くか
よく相談を受ける場所は、次の四つです。
玄関(上がりかまち):段差の昇り降りのために使います。靴の脱ぎ履きで前のめりになるときにふらつきやすいので、ここを最初に挙げる方が多いです。
ベッド脇:寝ている状態から起き上がるとき、横に支えるものがないと一人では難しくなります。就寝・起床のたびに使う場所なので、優先度が高いです。
トイレ:立ち座りで大きな負担がかかる場所です。便座から立てない・座れないという段階になる前から、早めに入れておくご家族もいます。
廊下:伝い歩きの補助として使います。移動距離に合わせて複数置くこともあります。
玄関・ベッド脇・トイレが多いですね、というのが現場でよく見るパターンです。
お風呂はどうか、と聞かれることもあります。わたしが担当してきた方の中には、浴槽につからずシャワーで済ませたり、デイサービスで入浴したりしている方もいて、ほかの場所より後回しになることがあります。なお、浴槽の縁に挟んで使う浴槽手すりは、レンタルではなく「特定福祉用具販売(とくていふくしようぐはんばい)」という購入の制度になりますので、扱いが変わります。
置けない家もある
ここは正直に書いておきます。
突っ張り式の手すりは、天井に力をかけて固定する仕組みです。天井の素材や強度によっては取り付けできないお宅もあります。
また、玄関や廊下が非常に狭い場合、そもそも置き場所が確保できないこともあります。
だからこそ、「まず見てもらう」が大切です。担当のケアマネジャーに相談すると、福祉用具を選ぶ専門の職員である福祉用具専門相談員(ふくしようぐせんもんそうだんいん)が実際に家を訪問して、身体の状態と家の様子を見ながら、どのタイプが合うかを一緒に選んでくれます。カタログや写真だけでは分からないことが、現場に来ると一発で分かることがほとんどです。
賃貸とは少し違う話ですが、「住民票と違う家」でも借りられる?
ここまでは「賃貸かどうか」の話でした。似た質問でよく受けるのが、住民票のある家とは別の場所で使いたい、というケースです。
わたしが実務で行政に確認したときは、「生活の場所です」と言われました。住民票の住所そのものではなく、実際にそこで暮らしているかどうかを踏まえて判断された、ということです。
たとえば、お子さんの家に呼び寄せた場合。実家と行き来している場合。どちらが「生活の場」なのかを確認することになります。
以前担当していた方で、A市を拠点にしながら、B市のご家族の家に数日ずつ泊まることがあったケースがあります。行政に確認したところ、B市のお宅でもベッドのレンタルが認められました。このときは、わたし自身が確認しています。他県だったときには、福祉用具の業者さんが確認してくれたこともあります。
ですので、ご家族が自分で役所に電話をかけるところから始めなくて大丈夫です。まずは担当のケアマネジャーか福祉用具の事業者に相談してみてください。必要な確認をしてもらえることがあります。
ただし、行政によって判断の基準が違うこともあります。「この住所なら必ず大丈夫」と言い切れるものではなく、確認が必要な話です。そこだけはご了承ください。
まとめ
玄関のふらつきが気になりはじめたら、「まず見てもらう」だけでも動いてみてください。諦める前に、選択肢は思ったより多いです。
ここまでの話を、1枚にまとめました。印刷して手元に置いたり、ご家族で見ながら話すときに使ってください。
よくある質問
介護保険のレンタルを使うには、要介護の認定が必要ですか?
介護保険の認定(要支援または要介護)を受けていることが前提になります。ただし、手すりは要支援1・2の方でも借りられます。 福祉用具のレンタルには、要支援1・2と要介護1の方は原則として使えない品目(介護ベッドや車いすなど)がありますが、手すり・スロープ・歩行器・歩行補助つえは、そこには含まれていません。まだ認定を受けていない場合は、まず地域包括支援センターかかかりつけ医に相談することが、最初の一歩になります。
レンタルはいつでも返せますか?状態が変わったら別の手すりに替えられますか?
はい。必要がなくなれば返却できますし、身体の状態や暮らしが変わったときには、別の手すりに替えることもできます。
たとえば、最初は玄関だけだったけれど、あとからベッド脇にも必要になった。今まで使っていた手すりが、身体の状態に合わなくなってきた。そういうことが起こります。そのときどきの状態に合わせて見直しやすいのが、レンタルのいいところです。
変更や返却をしたいときは、担当のケアマネジャーか福祉用具専門相談員に相談してください。
突っ張り式とベース台の置き型は、どう違いますか?どちらがいいですか?
突っ張り式は天井と床で固定するため安定感がありますが、天井の強度によっては取り付けできない場合があります。ベース台に重りを置くタイプは天井が不要ですが、スペースをやや取ります。どちらが合うかは、実際の家の構造や使う場所によって変わります。 カタログだけで判断せず、福祉用具専門相談員に来てもらって選ぶのが確実です。
ケアマネジャーがついていない場合、どこに相談すればいいですか?
お住まいの地域の地域包括支援センターが最初の窓口になります。市区町村の介護保険の担当窓口でも受け付けています。まだ要介護認定を受けていない場合の相談も、地域包括支援センターで受けてもらえます。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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