在宅介護

立ち上がれない親に。原因・工夫・補助の道具

立ち上がれない親に。原因・工夫・補助の道具

「椅子から立てなくなってきた」 「トイレから立ち上がれなくて、呼ばれる回数が増えた」 「本人も情けないって言っていて、どうしてあげればいいか…」

こう感じているご家族は、たくさんいます。立ち上がりの問題は、気づいたら少しずつ進んでいることが多くて、 「いつから?」とはっきり言えないことも多いですよね。

今日は、なぜ立ちにくくなるのか、どう対応するか、 そして補助の道具や介護保険の使い方まで、一緒に整理していきましょう。


とも
とも
こんにちは。今日は「立ち上がれない」というテーマで話しますね。ご家族からよく聞かれる悩みのひとつです。
こまり
こまり
立ち上がるって、そんなに難しいこと?わたし、ぴょんってできるけど。
とも
とも
あはは、こまりは元気ですね。でも年を重ねると、立ち上がりって実はすごく複雑な動作なんです。足の力・バランス・勢いのつけ方・痛みの有無…いくつもの条件が重なって、はじめてスムーズに立てる。どれかひとつが欠けると、一気にしんどくなる。
こまり
こまり
えっ、そんなにいろんなことが絡んでるの。

なぜ立ち上がれなくなるのか

手すりを使って立ち上がるお年寄りと寄り添う家族

立ち上がりがしんどくなる原因は、ひとつとは限りません。いくつかが重なっていることも多いです。

筋力の低下

まず多いのが、脚の筋力(とくに太もも)の低下です。 椅子から立つとき、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が体をぐっと押し上げる力を使います。 この筋肉は、動かさないとかなりの速さで落ちます。 「最近外出が減った」「一日中座っている」という状況が続くと、気づかないうちに弱くなっていきます。

関節の痛み・こわばり

膝や股関節が痛いと、立ち上がる瞬間の体重のかけ方がうまくできなくなります。 変形性膝関節症(ひざの軟骨がすり減って痛む状態)は高齢の方にとても多く、 「立とうとするとひざが痛い」という方はかなり多いです。

バランス感覚・ふらつき

立ち上がる瞬間、体重が前にかかって重心が動きます。 このときにバランスをとる力が弱まっていると、「立てるけど倒れそう」「怖くて立てない」という状態になります。 パーキンソン病や脳卒中の後遺症でも、このバランスの問題が起きやすいです。

椅子・便座の高さ

環境の問題も見落とせません。座面が低すぎる椅子やソファ、 和式のような姿勢が必要なトイレなどは、脚に大きな負担をかけます。 同じ人でも、座る場所が変わるだけで「ここは立てる/ここは立てない」と変わることがあります。


こまり
こまり
ねえ、突然立てなくなったときって、救急車を呼ぶべき?「何科に行けばいい」とか「救急車」って検索してる人もいるって聞いたけど。
とも
とも
それ、大事なところです。ちゃんと話しますね。

「急に立てなくなった」ときの見分け方

じわじわと立ちにくくなってきた場合と、急に立てなくなった場合では、対応が変わります。

すぐに救急を考えるサイン

次のような変化が「急に」起きたときは、緊急の対応が必要です。

  • 顔のゆがみ・ろれつが回らない・片側の手足に力が入らない(脳卒中の疑い)
  • 呼びかけへの反応が悪い、意識がぼんやりしている
  • 突然、立てない・歩けない状態になった
  • 転んだあと、強い痛みや変形があって動かせない(骨折の疑い)

こうした場合は、119番を考えてください。

呼ぶかどうか迷ったときのために、消防庁の救急受診アプリ「Q助」があります。 当てはまる症状を選んでいくと、「今すぐ救急車を呼びましょう」「できるだけ早く受診しましょう」といった目安を教えてくれる仕組みです。 地域によっては、救急相談の電話窓口(#7119など)が使えるところもあります。

急ぎではなくても、そのままにしない変化

「なんとなく元気がない」「昨日より動きが鈍い」。 こうした変化の裏に、感染症や脱水、お薬の影響などが隠れていることがあります。 高齢の方は、熱が出ない・痛みを訴えないまま、「なんとなく」だけが出ることも珍しくありません。

救急車を呼ぶ状態ではなくても、いつもと明らかに違うと感じたら、様子を見続けずにかかりつけ医に相談してください。

何科に行けばいい?

じわじわと立ちにくくなってきた場合は、まずかかりつけ医(内科)に相談するのが一番です。 原因によって整形外科・脳神経内科(神経内科)・リハビリテーション科に紹介してもらえることもあります。

かかりつけ医がいない場合は、地域包括支援センター(地域の高齢者相談窓口)に電話すると、 「どこに相談すれば?」から一緒に考えてもらえます。市区町村のHPで検索すると場所がわかります。


お金をかけずにできること

明るいトイレで娘に寄り添われる高齢女性

道具や改修の前に、環境と習慣を少し見直すだけで、立ちやすくなることがあります。

座面の高さを上げる

目安になるのは、足の裏を床につけたまま、体を前に傾けられる高さです。 低いソファに深く沈み込むと、それだけで立てなくなることがあります。

参考までに、膝の角度が90度、またはそれより少し開くくらいが立ちやすい目安とされています。 ただ、ちょうどよい高さは体格・足の位置・痛みや麻痺の有無によって変わります。 「何センチが正解」という決まった数字はないので、この目安を頭に置きつつ、 ご本人が立ちやすい高さを一緒に探してみてください。

低すぎるときは、沈み込みにくく、座面からずれない専用のクッションを検討します。 座布団を何枚も重ねるやり方は、ずれたり沈んだりして転倒につながるので避けてください。

おじぎをするように、前に傾いてから立つ

背筋を伸ばしたまま真上に立とうとすると、なかなか腰が上がりません。 おじぎをするように上半身を前に倒してから立つと、足に力が入りやすくなります。 立ち方を少し変えるだけで、ずいぶん楽になる方もいます。

立ち上がりやすい場所を「拠点」にする

家の中で、立ちやすい場所を作るという発想も大事です。 「この椅子からは立てる」「このトイレは立ちやすい」という場所を、 なるべく使いやすい動線に配置してあげましょう。

家の中のほかの危険もあわせて見直したいときは、 親の転倒が怖い。家の中の危険を家族が見直す方法も参考にしてみてください。


こまり
こまり
なるほど。お金をかける前に、まず環境を整えるってことだね。じゃあ、道具はどんなものがあるの?
とも
とも
ここからが本題ですね。補助の道具にはいくつか種類があるので、場所ごとに整理しますね。

立ち上がりを助ける補助の道具

つかまる場所を作る:手すり

立ち上がりで一番助けになるのが、手でつかまるものがあることです。 手すりがあるだけで、「よいしょ」が「すっ」になることは本当によくあります。

床に置くタイプの手すり(据置型)は、工事不要で置くだけで使えます。 ベッドの脇・椅子の横・トイレの横など、ピンポイントで置ける点が便利です。 トイレでは、便器を囲むように置いて、両手で支えられるタイプもあります。 片手だけより格段に安定するので、便座からの立ち上がりで困っている方には、まずこれを試してほしいです。

壁に取り付けるタイプ(壁付け)は、しっかり固定されるので安定感が高いです。 ただし、壁に穴を開ける工事が必要になります。

なお、手すりを選ぶとき、ベッドの柵(サイドレール)は立ち上がりの支えには向きません。 ベッド柵は転落を防ぐためのものなので、体重をかけてつかまるのは危険です。 立ち上がりに使うのは「介助バー(サポートバー)」と呼ばれる専用のものにしてください。 ベッドまわりの整え方は、起き上がれない親のベッド周り、整えると変わることでもう少し詳しく書いています。

また、家具(テーブルや棚)につかまって立つのも勧めていません。 動いたり倒れたりするリスクがあります。

トイレで使う:補高便座

便座が低いと立ち上がりにとても苦労します。 補高便座は、便座の上に乗せるだけで高さを上げられる道具です。 数センチ上がるだけで、立ち上がりの負担がぐっと減るという方は少なくありません。

ご自身で購入もできますし、後述する介護保険の購入制度も使えます。

椅子から立ちやすく:座面が上がる椅子

座面がゆっくり持ち上がって、立ち上がりを助けてくれるタイプの椅子もあります。 脚力がかなり落ちてきた方には、大きな助けになります。

製品によっては、介護保険の「移動用リフト」としてレンタルの対象になります。 ただ、見た目が似ていても対象になる製品とならない製品があるので、 「この商品は保険で借りられますか」と、福祉用具の事業者やケアマネジャーに確認してください。

移動用リフトは、要支援1・2と要介護1の方は原則として給付の対象外です。 ただ、ここは知っておいていただきたいのですが、 「日常的に立ち上がりが困難」と判断される場合は、例外的に借りられる仕組みがあります。 主治医の意見やサービス担当者会議での検討をふまえて、市区町村が必要かどうかを判断する、という流れです。 「要介護1だから、うちは無理だろう」とあきらめる前に、担当のケアマネジャーに一度相談してみてください。

なお、座面が動く椅子なので、立ち上がる途中でバランスをくずす事故も起きています。 最初は必ず、福祉用具の担当者に使い方を教わってから使ってください。


介護保険で借りる・買うという選択肢

道具にはお金がかかります。ただ、介護保険を使うと費用が1〜3割負担になるものがあります。 「制度を使うのは難しそう」と思われがちですが、窓口さえわかれば、手続きはそれほど複雑ではありません。

詳しくは福祉用具レンタル、何が借りられて月いくら?介護ベッドから車椅子までもあわせてご覧ください。

貸与(レンタル)できるもの

道具備考
手すり(床置き・据置型)要支援の方も対象になります
座面が上がる椅子(移動用リフトに該当するもの)要支援1・2、要介護1は原則対象外(例外あり)
介護ベッド(付属の介助バー含む)要支援1・2、要介護1は原則対象外(例外あり)

同じ「手すり」でも、床に置くタイプは「貸与(レンタル)」、壁に固定するタイプは工事を伴うので「住宅改修」と、 別の制度になります。ここが、いちばん混乱しやすいところです。

住宅改修(工事で取り付ける手すり)

壁付け手すりの取り付けには、住宅改修という制度が使えます。 対象になる工事費は原則20万円までで、そのうち1〜3割がご自身の負担です。 手すりの取り付けなら、この枠でおさまることが多いです。 ただし、工事をする前に申請が必要です。「つけてから申請」は原則できないのでご注意ください。

置くか、つけるか。迷ったときの考え方

床置きのレンタルと、工事の住宅改修。どちらを選ぶかは、「使う期間の見通し」でも変わります。 レンタルは月々の費用がずっとかかり続けるので、 長く使うことが見込まれる場所は、工事をすすめられる自治体もあります。

「置くだけのほうが手軽」と思っても、そこが毎日必ず通る場所なら、 工事のほうが結果的に安く、つかまり心地もいい、ということは少なくありません。 逆に、しばらく様子を見たい場所や、賃貸で工事ができない場所は、置くタイプが向いています。 どちらが合うかは、担当のケアマネジャーと一緒に考えてみてください。

購入(特定福祉用具)できるもの

道具制度の上での「種目」
補高便座・ポータブルトイレ・和式便器にかぶせるもの・電動で立ち上がりを助けるものまとめて「腰かけ便座」というひとつの種目
シャワーチェア・浴槽用の手すり・浴槽内のいすなどまとめて「入浴補助用具」というひとつの種目

ここでいう「種目」は、介護保険が福祉用具を分類している単位のことです。 種目がちがえば、それぞれ別に買えます。補高便座とシャワーチェアを両方買うのは問題ありません。 一方で、同じ種目の中で買えるのは基本ひとつ、と思っておいてください。

つまづきやすいのが、補高便座とポータブルトイレです。 見た目も置き場所もまったく違いますが、制度の上ではどちらも同じ「腰かけ便座」。 「トイレの高さを上げる道具」と「夜だけ枕元で使う便器」を両方そろえたい、というご希望はよく聞きますが、 そのままでは片方しか保険が使えません。

介護保険で買える上限は、1年度(4月〜翌年3月)につき10万円です。 ただ、年度が変わって枠が戻っても、同じ種目をもう一度買えるとは限りません。 同じ用途の用具を買い直すときは、「壊れてしまった」「体の状態が変わって前のものが使えない」といった なぜもう一度必要なのかを、市区町村に確認されることになります。

どうしても両方必要な事情があるときは、自己判断で買ってしまう前に、 ケアマネジャーか市区町村に相談してください。このあたりの運用は、自治体によって差があります。

介護保険を使えない場合は

まだ介護認定を受けていない方も、道具は自費で購入・レンタルできます。 介護認定を受けると選択肢が広がるので、「親が最近しんどそう」と思ったら、 まずは市区町村の担当窓口か地域包括支援センターに相談してみてください。


こまり
こまり
手すりのレンタルと住宅改修って、全然別の話なんだね。まぎらわしい…。
とも
とも
そうなんです、わかりにくいですよね。「床に置くか壁につけるか」で制度が変わる、というのが大事なポイントです。どちらにするか迷ったら、ケアマネジャーと相談するのがいちばん遠回りしなくてすみます。

困ったときの相談先

状況相談先
介護認定を受けていない地域包括支援センター・市区町村の福祉窓口
介護認定がある担当のケアマネジャー
道具を実際に試してみたい福祉用具の専門店(試用できる店舗もあります)
住宅改修の相談ケアマネジャーまたは住宅改修を行う業者(ケアマネが紹介できることも)

「玄関に椅子を置いて、座って靴を履けるようにしたい」というご要望もよく聞きます。 置くだけの椅子は介護保険の福祉用具に入らないので、ご自身での購入になります。 ただ、玄関の上がりかまちの段差に固定式の台(式台)を取り付ける場合は、 住宅改修の「段差の解消」として相談できることがあります。 同じ玄関の話でも扱いが変わるので、「これは使えますか」とケアマネジャーに聞いてみてください。


「情けない」と言う親に

立ち上がれなくなったとき、いちばんこたえているのは、たぶんご本人です。 「情けない」「迷惑をかけている」という言葉が出るのは、 それだけ長く、自分の足で立って暮らしてきた方だからだと思います。

道具を使うことを「負けたみたいだ」と感じて、手すりを拒む方もいます。 でも手すりも補高便座も、できなくなったことを突きつける道具ではなくて、 できることを、もう少し長く続けるための道具です。 眼鏡や補聴器と同じで、使えば楽になるから使う。それだけのことだと、私は思っています。

立ち上がりにくくなったことは、その方の一部でしかありません。 自分の足で立ってきた何十年のほうが、ずっと長いのですから。


まとめ

とも
とも
今日お伝えしたことを、少しまとめますね。立ち上がりの問題は、筋力・痛み・バランス・環境など複数の原因が絡んでいることが多いです。突然立てなくなった、意識や手足の様子がおかしい、というときは119番を。急ぎではなくても、いつもと明らかに違うと感じたらかかりつけ医や地域包括支援センターへ。道具は環境の工夫から始めて、補助の道具・介護保険の順で考えると整理しやすいと思います。
こまり
こまり
つまり…「急に立てなくなったら救急」「いつもと違ったら様子を見ないで相談」「道具は場所ごとに合うものがある」「介護保険は床置き手すりはレンタル・壁はリフォーム・補高便座は購入」ってこと?
とも
とも
完璧です。ひとりで抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。「こんなことを相談していいのかな」と思うことこそ、ぜひ相談していただけたらと思います。

最終的なご判断は、担当のケアマネジャーや主治医など専門家にご相談ください。 この記事は情報の整理を目的にしており、個別の状況に合わせたアドバイスは、専門家からいただくのが一番です。


よくある質問

とも
とも
最後に、よくいただく質問にいくつかお答えいたします。

介護認定がなくても手すりをレンタルできますか?

介護保険のレンタルを使うには、原則として要支援または要介護の認定が必要です。 認定を受けていない場合は、自費でのレンタル・購入になります。 福祉用具の専門店では自費レンタルも行っているところがありますので、問い合わせてみてください。 「親が最近つらそう」という段階で、まず介護認定の申請を検討してみるのもよいと思います。

転んだあと、骨折はなかったけど立ち上がりが怖くなったようです。道具を使っていいですか?

もちろんです。骨折がなくても、転倒後に「また転ぶかも」という恐怖から動きが慎重になることはよくあります。 手すりや補高便座などの補助の道具は、病気・けが・老化を問わず使えます。 「必要な人が使う」でいいのです。恐怖感を減らすだけでも、日常の動きがずいぶん楽になります。

補高便座を購入したいのですが、どれを選べばいいですか?

便座の形や高さ、取り付け方は製品によって異なります。 福祉用具の専門店に相談すると、実物を見せてもらいながら選べることが多いです。

ひとつ、大事な注意点があります。 介護保険を使って買えるのは、都道府県などの指定を受けた「特定福祉用具販売」の事業者から買った場合だけです。 通販サイトで同じような商品が安く売られていても、そちらで買うと保険の対象になりません。 先に買ってしまうと戻せないので、介護保険を使うつもりなら、 買う前に担当のケアマネジャーか地域包括支援センターに相談してください。

手すりの工事は、賃貸でもできますか?

住宅改修の介護保険補助は、持ち家でなくても適用できる場合があります。 ただし、賃貸の場合は建物の所有者(大家さん)の承諾が必要です。 また、原状回復の問題もあります。床置きタイプの手すりであれば工事不要なので、 賃貸の場合はまずそちらを検討するのが現実的かもしれません。詳しくはケアマネジャーにご確認ください。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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