高齢の親が大腿骨を骨折。退院までの流れと、家に帰ってからのこと
「転んで足のつけ根を骨折して、手術をした。このまま歩けなくなるんじゃないかと、そればかり考えてしまう」
「この先どうなるのか、病院ではまだ何も言われていない」
こう思っているご家族は、たくさんいます。
大腿骨の骨折は、高齢の方に多いけがです。ただ、怪我をしてから家に帰るまでには、だいたい決まった流れがあります。それを先に知っておくと、急に話が進んでも、落ち着いていられます。
今日は、入院してから家に帰るまでに何が起きるのか、そして帰ってからのことを、一緒に整理していきましょう。
大腿骨の骨折とは、どんなけがなのか
大腿骨は、太ももの骨です。そのいちばん上、足のつけ根にあたるところを骨折することが、高齢の方にはとても多いです。
日本整形外科学会も、高齢の方が転倒したあとに立てなくなったら、まずこの骨折を考えてレントゲンで確かめるとしています。
骨折する場所によって、大きく2つに分かれます。関節に近いところ(頸部)と、その少し下(転子部)です。病院では「大腿骨頸部骨折」「大腿骨転子部骨折」と呼ばれます。
関節に近いほうは骨がつきにくく、その少し下は比較的つきやすい、という違いがあります。そのため、手術のしかたも変わってきます。どちらだったかは、病院で説明を受けているはずです。
ここでご家族に知っておいてほしいのは、このけがは「起きたら終わり」ではないということです。ここから先の流れが、ちゃんとあります。
手術する/しない。どちらもリハビリが始まります
多くの場合、手術をします。
ただ、年齢や持病によっては手術ができず、手術をしない方法(保存療法)を選ぶこともあります。 ご家族はここで「手術できないなら、もう寝たきりになるのでは」と思ってしまいがちですが、そうではありません。手術をしない場合も、リハビリを行うことが多いです。
そして手術をした場合も、基本的にはすぐリハビリが始まります。 じっと安静に寝かせておく、という時代ではありません。動かない時間が長いほど、体の力が落ちてしまうからです。
「手術したばかりなのに、もう歩かせるんですか」と驚かれる方もいます。でもこれは、早く回復してもらうための、決まったやり方です。
病院が変わることがあります
手術をした病院に、そのままずっと入院しているわけではありません。
リハビリを集中的に行うための病棟(病院)へ移ることが多いです。回復期リハビリテーション病棟や、地域包括ケア病棟と呼ばれるところです。大腿骨の骨折は、こうした病棟の対象になっています。
ここを知らないと「たらい回しにされた」と感じてしまいますが、そうではありません。リハビリのための移動です。
そして、もうひとつ大事なことがあります。こうした病棟には、入院できる期間の上限が決められています。 大腿骨の骨折でリハビリの病棟に入る場合、その期間はおよそ3か月までです。
つまり、入院は「よくなるまで」ではなく、区切りがあるものなのです。
退院は、どう決まるのか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
退院は「すっかり治ったから」決まるものではありません。
病院で集中的にリハビリをする段階から、家で暮らしながら続けていく段階へ移れると判断されたところが、退院の目安になります。
退院の判断をする時に見ているのは、体の状態だけではありません。
- ご本人が、これからどう暮らしたいか
- 家の中の環境
- ご家族がどこまで手を貸せるか
- 帰ってから使えるサービス
- そして、入院できる期間
これらを合わせて決まります。
急に退院と言われて戸惑うご家族を、わたしは何度も見てきました。「まだ家で過ごせる自信がない」というのが、正直なところだと思います。
けれど、これはリハビリが終わったのではなく、医療の中のリハビリから、暮らしの中のリハビリへ移るということです。ここを先に知っているかどうかで、退院を告げられたときの受け止め方がまるで変わります。
退院の前に、リハビリの人が家を見に来ます
意外と知られていませんが、リハビリの職員が、退院前にご自宅を見に来ることがあります。
家の中を実際に見て、ご本人が生活できるように環境を整えるためです。
ご家族はこの訪問があること自体をご存じないので、慌ててきれいに片づけてしまう方がいます。でも、ふだんのままを見てもらったほうがいいです。ふだんの状態でどこが危ないのかを見に来ているからです。
そして、この場にケアマネジャーが同席することもあります。
家に帰ってから、どこが危ないか
ここからが、ケアマネジャーがいつも見ているところです。
とくに危ないのは段差です。 玄関、部屋の敷居、廊下との境目。ほんの数センチでも、足が上がらなくなっているとつまずきます。
そのほかに見ているのは、この4つです。
- お風呂 … 浴槽をまたげるか。またぎにくいなら、環境を変える必要があります
- トイレ … 便座から立ち上がれるか
- ベッド … 寝た状態から起き上がれるか
- 玄関 … 上がり框(あがりかまち)を昇り降りできるか
そして車椅子を使うことになったなら、そもそも家の中で車椅子が使えるのか(廊下の幅、段差、方向転換できる広さ)も確かめます。
細かいようですが、ここを一つずつ見ておくと、帰ってからの暮らしがまるで違います。
家の中の危ないところは、こちらの記事でもまとめています。
どこまで動かしていいか。悩まずに、聞いていい
ご家族がとても苦しむのが、ここです。
転ばせたくない。でも動かさないと、また力が落ちる。歩かせれば、転ぶかもしれない。この板挟みで悩んでいるご家族を、たくさん見てきました。
でも、その線を決めるのはご家族ではありません。
手術のしかたによって、荷重制限(どれくらい体重をかけていいか)や、可動域制限(どこまで曲げていいか)が決められています。リハビリも、その範囲の中で組まれています。つまり、線はもう引かれているのです。
ご家族がやるのは、判断ではなく確認です。
この話は、退院前に病院とケアマネジャーの間でやりとりされることが多く、ご家族もその場にいます。 ただ、必ず出てくる話とも限りません。
もし出てこなかったら、こう聞いてください。
「家では、どこまで動かしていいですか」
それでも話し合いの機会が持たれないときは、病院の相談員さんに、こう伝えて構いません。
「ケアマネさんを交えて話し合いがしたいのですが」
遠慮する必要はありません。ケアマネジャーがついていれば、こうした視点で一緒に確認してくれます。
退院前の話し合いについては、こちらの記事にまとめています。
もう一度骨折しないために
大腿骨を骨折された方は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を疑われることが多いです。骨がもろくなっているため、次に転んだときも骨折につながりやすくなります。
だからこそ、先ほどの段差を減らしておくことに意味があります。怖がらせたいのではなく、先に手を打てるという話です。
そしてもうひとつ。退院したら、リハビリが終わりではありません。
- 訪問リハビリ … 自宅に来てもらう
- デイケア(通所リハビリ) … 通って続ける
どちらも介護保険で使えます。家に帰ってから何もしないでいると、せっかく戻った力がまた落ちていきます。続けることが、次の骨折を防ぐことにもつながります。
訪問リハビリって何をする?機能訓練との違いと利用のタイミング
介護保険の申請と、誰に伝えるか
最後に、手続きの話です。
入院中に、病院の相談員さんから「介護保険の申請をしておきましょう」と勧められることが多いです。骨折で入院すると、それまで介護保険を使っていなかった方でも、家に帰ってから何か必要になることが多いからです。
申請そのものは、ご家族が市区町村の窓口へ出しに行きます。地域包括支援センターやケアマネジャーに、代わりに出してもらうこともできます。
まだケアマネジャーがついていないなら、地域包括支援センターに相談してください。そこからケアマネジャーを紹介してもらえます。
ただ、病院から何も言われないまま話が進むこともあります。そのときは、ご家族のほうから地域包括支援センターに連絡してください。早いほうがいいです。早く動くほど、退院までに支度が間に合います。
もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。
すでにケアマネジャーがついている方は、保険証を入れているケースに、ケアマネジャーの名刺を入れておいてください。
いざというときに、事業所の名前を思い出せなくなる方が本当に多いです。名刺が1枚入っているだけで、病院からも連絡が取れるようになります。
まとめ
骨折した直後は、この先のことが何も見えなくて、不安でいっぱいだと思います。
でも、流れは決まっています。次に何が起きるのかを知っているだけで、そのつど慌てずに済みます。 そして分からないことは、病院にもケアマネジャーにも聞いていいのです。
一人で抱えず、周りを頼ってください。
最終的なご判断は、担当のケアマネジャーや専門家にご相談ください。
よくある質問
入院は、どれくらいの期間になりますか?
手術をした病院から、リハビリのための病棟へ移ることが多く、そこには入院できる期間の上限が決められています。 大腿骨の骨折の場合、リハビリの病棟にいられるのはおよそ3か月までです。
ただし、上限いっぱいまで入院するとは限りません。体の状態や、帰ってからの環境が整うかどうかで、実際の退院日は前後します。
手術をしないと、寝たきりになりますか?
そうとは限りません。 年齢や持病によって手術ができず、手術をしない方法を選ぶことはありますが、その場合もリハビリは行います。
どちらの方法になるかは、体の状態を見て医師が判断します。「手術しないから終わり」ではないので、そこは主治医とよく話してください。
入院や手術のお金は、どれくらいかかりますか?
金額は年齢や所得によって変わるので、ここでいくらとはお伝えできません。
ただ、医療費にはひと月の自己負担に上限を決める仕組みがあります。上限を超えた分は、支払わなくてよくなります。
マイナ保険証を使っている方は、手続きは要りません。窓口での支払いが、最初から上限までで済みます。
マイナ保険証を使っていない場合は、先に「限度額適用認定証」というものを用意しておくと、同じように上限までの支払いで済みます。病院の相談員さんに聞いてみてください。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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