杖のゴムがすり減った。道具の交換はどうしたらいいのか
「杖の先のゴムが、つるつるになってる。雨の日、滑らないかな」
「車いすを押すのが、前より重い。わたしの力が落ちてきたのかな」
道具は、毎日使っているうちに少しずつ劣化していきます。毎日目にしているぶん、かえって気づきにくいものです。押すのが重くなったのも、力の問題ではなく、タイヤの空気が抜けているだけかもしれません。
今日は、杖の先のゴムを入口に、劣化してきた介護の道具をどう替えたらいいのかをお話しします。買いに行く前に、ひとつ確かめてほしいことがあります。
すり減ったゴムは、なぜ滑るのか
杖の先についているゴムは、床を傷つけないためだけの部品ではありません。杖を裏返して見ると、輪の形やギザギザの溝が刻まれています。あれは車のタイヤと同じ役目で、床にある水を溝へ逃がして、ゴムを床に密着させるためのものです。
溝がすり減って平らになると、水の逃げ場がなくなります。ゴムと床のあいだに水が残ったままになるので、ついた杖が、そのまま横にすべります。雨の日の玄関、お店の入口のタイル、病院のつるつるした廊下。ふだん問題なく歩けている場所ほど、警戒せずに体重を預けるので、滑ったときに受け身が取れません。
もうひとつ、底が一方だけ斜めにすり減っていくことがあります。杖を体から離して、斜めについているときです。斜めに減ったゴムは、底の全体が床に着かず、残ったふちのところだけで着くようになります。床に触れているところが小さくなるので、体重をかけたときに、杖が横にすべります。
ゴムそのものが硬くなる劣化もあります。溝が残っていても、押して硬く感じるようなら、床をつかむ力は落ちています。
替えどきは、ここを見ます
確かめ方はひとつだけです。杖を逆さにして、底を見てください。減るのは床に当たる面なので、そのままの向きでは見えません。
見るところは、この5つです。
- 溝が消えて、つるりと平らになっている。新しいゴムと見比べると差がはっきりしますが、比べるものがなくても、指でなぞって引っかかりがなければ替えどきです。
- 底が平らではなく、どこか一方だけ削れて、坂のようになっている。杖をまっすぐ立ててつけていない、というしるしです。ゴムを替えるときに、杖の高さが合っているかも見てみてください。
- 押しても沈まず、硬い。細かいひびが入っている。ゴムが古くなっています。
- ゴムの中の芯(金具や硬い樹脂)が見えている。ここまできたら、その日のうちに替えてください。床に金属が直接当たるので、とてもよく滑ります。
- 手で持って左右に振ると、ゴムが動く。緩んでいます。歩いている途中で抜けることがあります。
その道具は、借りものですか。買ったものですか
ここから先、やることが2つに分かれます。その杖が借りているものか、ご家庭で買ったものかで、まったく変わるからです。
ご家族に聞いても「どちらだったかな」となることがよくあります。確かめ方は3つあります。
1つめは、毎月の書類です。介護保険のサービスを使っていると、毎月ケアマネジャーから利用の予定表が届きます。そこに「福祉用具貸与」とあれば、何かを借りています。
2つめは、道具そのものです。借りている品には、たいてい貸してくれた会社のシールや管理の番号が貼られています。杖なら握りの近く、車いすなら背もたれの後ろやフレームのあたりを見てみてください。
3つめは、杖の形です。これはすぐに分かります。介護保険で借りられる杖は、先が3本以上に分かれている多点杖、松葉づえ、腕を通す輪がついたロフストランドクラッチなどに限られています。握りがTの字になった、いわゆる一本杖は、介護保険では借りられません。ですから、お使いのものが一本杖なら、それはご家庭で買われたものです。
借りものだったら、言えば替えてもらえます
借りている道具が劣化してきたときは、買いに行く必要はありません。連絡すれば、点検して、必要なら替えてもらえます。
連絡する先は2つあります。ひとつは、その道具を貸してくれた福祉用具の会社。契約の書類や、道具に貼られたシールに電話番号が書かれています。もうひとつは、担当のケアマネジャーです。どちらに連絡してもかまいません。会社の名前が分からなければ、ケアマネジャーに「杖のゴムが減っているみたいです」と伝えるだけで大丈夫です。
このときの費用ですが、ふつうに使っていて減ったぶんの交換で、別にお金を請求されることは、まずありません。点検も交換も、毎月払っている貸与のお金の中に含まれているものだからです。
もうひとつ、知っておいていただきたいことがあります。福祉用具を貸している事業所は、貸したあとも定期的に家を訪ねて、使い方や傷み具合を確かめています。ですから、放っておいてもいずれ担当者は来ます。
ただ、その日を待つ必要はありません。気づいた日に電話していただいて構いません。
買ったものだったら、自分で選びます
ご家庭で買った杖なら、替えるのはご自身になります。といっても、杖ごと買い替える必要はありません。先のゴムだけが部品として売られています。ホームセンター、ドラッグストア、介護用品のお店、通販でも手に入ります。福祉用具の事業所が扱っていることもあります。こちらは取り寄せになることが多いので、割高になります。
気をつけたいのは太さです。先ゴムには何種類かのサイズがあり、合わないものを買うと、はまらないか、はまってもすぐ抜けます。確実なのは、いま付いているゴムを外して、それを持ってお店に行く方法です。外すのが難しければ、杖ごと持って行ってしまうのが早いです。
先が3本以上に分かれた多点杖の場合は、減っているのが1本だけでも、全部まとめて替えてください。高さがそろっていないと、杖が傾いて立つことになります。
古いゴムがどうしても外れないときは、無理に引っ張らず、買われたお店や介護用品店で相談してみてください。力任せに抜こうとして、ご家族のほうが転ぶことがあります。
それから、底が一方だけ斜めに減っているなら、杖そのものが体に合っていないのかもしれません。高さが合っていない、あるいは一本杖では支えきれなくなってきた、ということもあります。杖の種類の選び方は杖だけじゃない。親に合う「歩く道具」の選び方にまとめてあります。
車いすのタイヤと、歩行器の車輪
劣化するのは、杖だけではありません。
車いすの後ろの大きなタイヤには、自転車と同じように空気を入れるタイプと、中までゴムが詰まっていて、空気を入れないタイプがあります。空気を入れるタイプは、パンクしていなくても、置いておくだけで少しずつ抜けていきます。
空気が減ると、まず押すのが重くなります。まっすぐ進みにくくもなります。そして、いちばん気をつけたいのがここです。ブレーキの効きが落ちます。車いすのブレーキは、金具でタイヤを横から押さえて止める仕組みのものが多く、タイヤがへこんでいると、レバーを倒しても十分に食い込みません。乗り移ろうとしたときに、止めたはずの車いすが動いてしまいます。
確かめ方は簡単です。タイヤを指で強く押してみてください。ぐにゃりとへこむようなら空気が足りません。左右で押した感じが違うときも、片方が抜けています。
歩行器や歩行車の車輪も同じです。片減りしてくるとまっすぐ進まなくなりますし、車輪の軸に髪の毛やほこりが巻きついて、回りにくくなることもあります。ブレーキの付いたものなら、レバーを握ったときにきちんと止まるかどうかも見てください。
車いすも歩行器も、借りていることの多い道具です。空気を入れるのも、車輪を替えるのも、連絡すれば来てもらえます。自転車の空気入れが使えることもありますが、入口の形が合わないこともあるので、無理はしないでください。
同じことが起きている道具は、ほかにもあります
一度「劣化」という目で家の中を見渡すと、思いのほか出てきます。
マットレスは、長く使うと体の重みがかかるところがへこんできます。真ん中が沈むと、寝返りがしにくくなり、ご本人が腰の痛みを訴えるようになることもあります。
据え置きの手すりは、床に置いてあるだけのものだと、ネジが緩むなどして、体重をかけたときに少し動くようになってきます。土台の裏のゴムが硬くなっていることもあります。手すりは、ぐらついた瞬間がいちばん危ない道具なので、ときどき両手で揺すってみてください。
お風呂で使う椅子や浴槽台は、脚のゴムや吸盤がぬめってきたり、硬くなったりします。浴槽の中に敷く滑り止めマットも、吸盤が効かなくなってきます。濡れた場所で使うものなので、ここは早めに。
どれも、借りている品なら同じことです。気づいたら、電話1本。
まとめ
道具が劣化してきたことに気づいたら、まず、それが借りているものかどうかを確かめてみてください。借りているものなら、買いに行く必要も、家計から出す必要もありません。
ふつうに使って減ったのだから、替えてもらっていいものです。我慢して使い続けることではありません。
今度ご実家に行かれたら、杖を一度、逆さにして見てみてください。
最終的なご判断は、担当のケアマネジャーや専門家にご相談ください。
よくある質問
一本杖は借りられないとのことですが、買うときに補助は出ますか?
握りがTの字の一本杖は、借りる制度にも、買うときに介護保険が使える制度にも入っていません。買う場合は全額のご負担になります。ただし、先が3本以上に分かれた多点杖や歩行器については、令和6年4月から借りるか買うかを選べるようになりました。買うほうを選んだ場合は、介護保険を使って買うことができます。どちらがよいかは、使う期間の見通しによって変わるので、担当のケアマネジャーや福祉用具の担当者にご相談ください。
多点杖は、借りるのと買うのと、どちらがいいですか?
令和6年4月から、多点杖は借りるか買うかを選べるようになりました。目安になるのは、これから体の状態が変わりそうかどうかです。
変わっていきそうな時期なら、借りるほうが身軽です。合わなくなったときに別の道具へ替えてもらえますし、傷んだときの点検や交換もしてもらえます。
状態が落ち着いていて、同じものを長く使う見通しなら、買うほうが安く収まることもあります。ただし買ったものはご自身のものになるので、傷んだときは自分で買い替えることになります。
どちらがよいかは、使う見通しを担当のケアマネジャーと福祉用具の担当者に伝えて、相談してみてください。
借りている道具を壊してしまいました。弁償になりますか?
まずは、貸してくれた事業所に連絡してください。使っているうちに自然に傷んだものと、落として壊してしまったものとでは扱いが変わりますし、その扱いは事業所によっても違います。契約の書類に書かれていることが多いので、あわせて見てみてください。黙って使い続けるほうが、けがにつながります。
福祉用具の担当者を、こちらから呼んでもいいのですか?
はい。定期的な訪問を待たずに、こちらから連絡して来てもらえます。「調子が悪い気がする」というくらいの内容でかまいません。実際に見てもらうと、道具ではなく使い方や高さの問題だったと分かることもあります。
借りている杖のゴムを、自分で買って付け替えてもいいですか?
ご自分で替える前に、一度、貸してくれた事業所に連絡してください。借りている品は、その事業所が状態を確かめて手入れをする決まりになっています。合わない部品を付けてしまうと、かえって外れやすくなることもあります。ご家庭で買われた杖であれば、ご自分で替えていただいて問題ありません。
介護保険で借りられる福祉用具の種類や、交換・修理の扱いは、事業所や自治体によって運用が異なることがあります。 実際のご利用にあたっては、担当のケアマネジャーまたは福祉用具貸与事業所にご確認ください。
※本文でふれた杖は、このあとのリンクからご覧いただけます。体に合う高さや持ち手の形は人によって違いますので、ご利用は自己責任でお願いします。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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