在宅介護

認知症でも昔の話は覚えている?思い出でつながる時間

認知症でも昔の話は覚えている?思い出でつながる時間

「今日が何日か聞いても、もう分からなくなってしまった」
「名前を呼んでも、ぼんやりした顔をされる」

そういう日々が続くなかで、ふとしたきっかけで昔の話をしたら、急に目が輝いたという経験はないでしょうか。

それは偶然ではありません。
今日は、その「なぜ」と「どうすればいいか」を一緒に見ていきましょう。


とも
とも
こんにちは。今日は「思い出を使ったコミュニケーション」の話をしたいと思います。認知症の方と話していて、「うまく通じない」と感じること、ありますよね。
こまり
こまり
うん。昨日のことは忘れちゃっても、子どものころの話は急にすらすら出てくる…あれ、なんで?
とも
とも
いい気づきです。そこに、認知症の方との「つながり方」のヒントがあるんですよ。

昔の記憶は、なぜ残りやすいのか

祖母と娘が古いアルバムを一緒に眺める温かな場面

認知症になると、新しいことを記憶する力が弱くなっていきます。
「今日の朝ごはんが思い出せない」「さっき聞いたことを忘れる」——こういった変化は、多くの方に起きます。

一方で、ずっと以前から積み重ねてきた記憶は、比較的長く残りやすいことが知られています。
子どものころの遊び、若い頃に夢中だったこと、仕事で誇りに思っていたこと。
そういった記憶は、脳の深いところに刻まれているイメージです。

だから、昨日のことは思い出せなくても、五十年前の話は生き生きと語れるということが起きるんですね。

これは「失った能力」ではなく、今もちゃんとそこにある力です。


こまり
こまり
えっ、じゃあ昔の話をするのって、ただの「なつかしい話」じゃなくて、ちゃんと意味があるってこと?
とも
とも
そうなんです。「回想法」という考え方があって、昔の思い出を一緒に振り返ることで、気持ちが落ち着いたり、表情が豊かになったりする効果が期待されています。専門的なプログラムもありますが、家庭でも日常のなかで取り入れることができますよ。

「回想法」って、むずかしいものじゃない

回想法(かいそうほう)というのは、過去の思い出を語り合うことで、気持ちの安定や自己肯定感につなげようとする関わり方です。
もともとはアメリカの精神科医が提唱したもので、今では介護や医療、福祉の現場でも取り入れられていますが、その考え方はとてもシンプル。

「昔のことを、一緒に楽しく話す」——それだけで構いません。

大切なのは、「正しい情報を引き出そう」としないこと
「それは間違い」「そんなことあったっけ?」などと訂正するのではなく、ただ耳を傾けて、一緒に喜ぶ。それが回想法の根っこにある姿勢です。

これは、実際の介護の場面でもよくあることです。
たとえば「あの頃は〇〇で働いていたんだ」と話していて、本当は少し違っていたとしても——「違うよ」と正すより、「そうだったんだね」と話を続けるほうが、おだやかに過ごせることが多いんです。
話が事実と多少ずれていても、無理に訂正しなくて大丈夫。その人の中では、それが本当の風景なのですから。

関連して、言葉のかけ方について書いた記事もありますので、よかったら合わせてご覧ください。

認知症の親に言ってはいけない言葉と、やさしい言い換え


家庭でできる「思い出つながり」の工夫

縁側で家族と昔の音楽を聴く穏やかなひととき

では、具体的にどんなことができるでしょうか。
特別な道具や準備は必要ありません。

古いアルバムを一緒に見る

写真は、記憶の入口になりやすいものです。
「この人、誰?」と聞くより、「これ、どこで撮ったんだろうね」と話しかけてみましょう。
正解を求めるのではなく、「懐かしい」と感じてもらえればそれで十分です。

好きだった音楽をかける

若い頃によく聴いていた歌謡曲や民謡を流すと、体が自然と動いたり、口ずさんだりすることがあります。
「お母さん、この歌好きだったよね」と一緒に聴く時間は、それだけで穏やかな交流の場になります。

昔の料理の話を聞く

「お正月に何を作っていたの?」「子どものころ、おばあちゃんの家で食べた料理って何だった?」
こういった質問は、記憶を引き出しやすいうえに、「あなたのことを知りたい」という気持ちも伝わります。
実際に一緒に料理できなくても、「話すだけ」でじゅうぶんです。

出身地の話をする

「生まれ育ったところの景色はどんなだった?」「子どものころ、どんな遊びしてたの?」
地元の言葉や地名が出てくると、それだけで空気が変わることがあります。
その土地の昔の写真や映像を検索して見せると、さらに話が広がることもあります。


こまり
こまり
なるほど。むずかしいことじゃなくて、「一緒にのんびり昔の話を聞く」ってことか。
とも
とも
そうです。正解を出そうとしなくていい。「通じた」「笑えた」「一緒の時間を過ごせた」——それがいちばんの目的です。

“治す”ではなく、“つながる”時間として

介護をしているご家族が、ときどき口にされます。

「何かしてあげないといけない気がして、焦ってしまう」 「もっとうまくやれたらと思うけど、どうしていいか分からない」

回想法の良さは、「なにかを改善しよう」「できることを増やそう」という目的がないところです。
ただ、一緒に時間をすごす。昔の話に耳を傾ける。笑顔が戻る瞬間を、そのまま受け取る。

それが、「通じ合えた」という手ごたえになります。

認知症になっても、感情は残ります。嬉しいという気持ち、懐かしいという気持ち、大切にされているという感覚——これらは消えません。

詳しくは、こちらの記事でも書いています。

認知症になっても失われないもの8選 家族に知ってほしいこと


思い出は、これからのケアのヒントになる

もうひとつ、ケアマネとしてお伝えしたいことがあります。
昔の話で出てきたエピソード——「若い頃は〇〇の仕事をしていた」「△△がとにかく好きだった」といった思い出は、できれば担当のケアマネジャーや、これからお世話になる施設・サービス事業所にも、ぜひ話しておいてほしいのです。
その人がどんな人生を歩んできたか、何を大切にしてきたかは、これからのケアの大きなヒントになります。それが分かるだけで、関わるスタッフの声かけや接し方が、ぐっとあたたかくなります。

そして、思い出には、もうひとつ素敵なところがあります。
思い出は、いわば「配当金」のようなもの。一度心にしまっておけば、何度でも振り返って、そのたびに楽しい気持ちを受け取ることができます。使ってもなくならないんです。
だからこそ、介護をしているあなた自身も、たまには一緒に楽しい思い出をつくる時間をもてたら——それは、この先ずっと受け取れる宝物になります。

こまり
こまり
思い出って、何回でも楽しめるんだ。しまっておいた宝物を、また開けるみたいだね。

まとめ|昔の話は、今日の「窓口」になる

とも
とも
今日の話をまとめると——認知症になっても、昔の記憶は残りやすい。だから、古い写真・音楽・料理の話・出身地の話など、昔のことを一緒に振り返る時間は、自然なコミュニケーションの入口になります。「治す」目的じゃなく、「つながる」ための時間として、気軽に試してみてほしいなと思います。
こまり
こまり
昨日のことは忘れても、昔の話なら笑顔になれる。それって、すごいことだよね。正解を出そうとしないで、ただ一緒に聞く——それだけでいいって、なんかほっとした。
とも
とも
「うまくできるかな」と考えすぎなくても大丈夫です。アルバムを一冊出してみるだけで、きっかけになることはたくさんあります。まず一度、試してみてください。昔の思い出を振り返る時間も、これから新しい思い出を作る時間も、どちらも大切な時間です。

回想法の取り入れ方や、認知症の方との日常的な関わりについては、担当のケアマネジャーや、専門の医療・福祉スタッフにも気軽に相談してみてください。
「こんなことで相談していいの?」と思わずに、どうかお声がけを。小さな困りごとほど、早めに話すほうが楽になることが多いです。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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