認知症でも昔の話は覚えている?思い出でつながる時間
「今日が何日か聞いても、もう分からなくなってしまった」
「名前を呼んでも、ぼんやりした顔をされる」
そういう日々が続くなかで、ふとしたきっかけで昔の話をしたら、急に目が輝いたという経験はないでしょうか。
それは偶然ではありません。
今日は、その「なぜ」と「どうすればいいか」を一緒に見ていきましょう。
昔の記憶は、なぜ残りやすいのか
認知症になると、新しいことを記憶する力が弱くなっていきます。
「今日の朝ごはんが思い出せない」「さっき聞いたことを忘れる」——こういった変化は、多くの方に起きます。
一方で、ずっと以前から積み重ねてきた記憶は、比較的長く残りやすいことが知られています。
子どものころの遊び、若い頃に夢中だったこと、仕事で誇りに思っていたこと。
そういった記憶は、脳の深いところに刻まれているイメージです。
だから、昨日のことは思い出せなくても、五十年前の話は生き生きと語れるということが起きるんですね。
これは「失った能力」ではなく、今もちゃんとそこにある力です。
「回想法」って、むずかしいものじゃない
回想法(かいそうほう)というのは、過去の思い出を語り合うことで、気持ちの安定や自己肯定感につなげようとする関わり方です。
もともとはアメリカの精神科医が提唱したもので、今では介護や医療、福祉の現場でも取り入れられていますが、その考え方はとてもシンプル。
「昔のことを、一緒に楽しく話す」——それだけで構いません。
大切なのは、「正しい情報を引き出そう」としないこと。
「それは間違い」「そんなことあったっけ?」などと訂正するのではなく、ただ耳を傾けて、一緒に喜ぶ。それが回想法の根っこにある姿勢です。
これは、実際の介護の場面でもよくあることです。
たとえば「あの頃は〇〇で働いていたんだ」と話していて、本当は少し違っていたとしても——「違うよ」と正すより、「そうだったんだね」と話を続けるほうが、おだやかに過ごせることが多いんです。
話が事実と多少ずれていても、無理に訂正しなくて大丈夫。その人の中では、それが本当の風景なのですから。
関連して、言葉のかけ方について書いた記事もありますので、よかったら合わせてご覧ください。
家庭でできる「思い出つながり」の工夫
では、具体的にどんなことができるでしょうか。
特別な道具や準備は必要ありません。
古いアルバムを一緒に見る
写真は、記憶の入口になりやすいものです。
「この人、誰?」と聞くより、「これ、どこで撮ったんだろうね」と話しかけてみましょう。
正解を求めるのではなく、「懐かしい」と感じてもらえればそれで十分です。
好きだった音楽をかける
若い頃によく聴いていた歌謡曲や民謡を流すと、体が自然と動いたり、口ずさんだりすることがあります。
「お母さん、この歌好きだったよね」と一緒に聴く時間は、それだけで穏やかな交流の場になります。
昔の料理の話を聞く
「お正月に何を作っていたの?」「子どものころ、おばあちゃんの家で食べた料理って何だった?」
こういった質問は、記憶を引き出しやすいうえに、「あなたのことを知りたい」という気持ちも伝わります。
実際に一緒に料理できなくても、「話すだけ」でじゅうぶんです。
出身地の話をする
「生まれ育ったところの景色はどんなだった?」「子どものころ、どんな遊びしてたの?」
地元の言葉や地名が出てくると、それだけで空気が変わることがあります。
その土地の昔の写真や映像を検索して見せると、さらに話が広がることもあります。
“治す”ではなく、“つながる”時間として
介護をしているご家族が、ときどき口にされます。
「何かしてあげないといけない気がして、焦ってしまう」 「もっとうまくやれたらと思うけど、どうしていいか分からない」
回想法の良さは、「なにかを改善しよう」「できることを増やそう」という目的がないところです。
ただ、一緒に時間をすごす。昔の話に耳を傾ける。笑顔が戻る瞬間を、そのまま受け取る。
それが、「通じ合えた」という手ごたえになります。
認知症になっても、感情は残ります。嬉しいという気持ち、懐かしいという気持ち、大切にされているという感覚——これらは消えません。
詳しくは、こちらの記事でも書いています。
思い出は、これからのケアのヒントになる
もうひとつ、ケアマネとしてお伝えしたいことがあります。
昔の話で出てきたエピソード——「若い頃は〇〇の仕事をしていた」「△△がとにかく好きだった」といった思い出は、できれば担当のケアマネジャーや、これからお世話になる施設・サービス事業所にも、ぜひ話しておいてほしいのです。
その人がどんな人生を歩んできたか、何を大切にしてきたかは、これからのケアの大きなヒントになります。それが分かるだけで、関わるスタッフの声かけや接し方が、ぐっとあたたかくなります。
そして、思い出には、もうひとつ素敵なところがあります。
思い出は、いわば「配当金」のようなもの。一度心にしまっておけば、何度でも振り返って、そのたびに楽しい気持ちを受け取ることができます。使ってもなくならないんです。
だからこそ、介護をしているあなた自身も、たまには一緒に楽しい思い出をつくる時間をもてたら——それは、この先ずっと受け取れる宝物になります。
まとめ|昔の話は、今日の「窓口」になる
回想法の取り入れ方や、認知症の方との日常的な関わりについては、担当のケアマネジャーや、専門の医療・福祉スタッフにも気軽に相談してみてください。
「こんなことで相談していいの?」と思わずに、どうかお声がけを。小さな困りごとほど、早めに話すほうが楽になることが多いです。
現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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