着替えがラクになる服の選び方【前開き・伸びる生地・マジックテープ】
腕を通そうとすると嫌がる。 かぶるタイプの服がうまく着られない。 着替えのたびに時間がかかって、お互いぐったり…。
そんな声を、家族の方からよく聞きます。 実は、服をちょっと変えるだけで、着替えのしんどさがかなり和らぐことがあるんです。
今日は「介護の着替え」を助ける服えらびの軸を、一緒に整理していきましょう。
なぜ着替えがつらくなるのか
高齢になったり、病気やケガの後遺症があると、着替えがぐっと難しくなります。 その理由は大きく2つです。
ひとつ目は、肩や腕が上がりにくくなること。 肩関節の痛み(いわゆる五十肩)や関節の変形、脳卒中(脳梗塞や脳出血など)のあとの麻痺などで、腕を頭の上まで持ち上げるのがつらい方は少なくありません。かぶりタイプのトレーナーや T シャツは、腕を大きく上げなければ着られないため、本人にとって痛みや不快感の原因になります。
ふたつ目は、着替えの手順がわかりにくくなること。 着替えは「いま着ている服を脱ぐ→袖に腕を通す→前を合わせる→ボタンを留める」と、複数の手順を順番にこなす作業です。認知症(さまざまな病気が原因で、記憶や判断の力が落ちた状態のこと)があると、この「順番」がわからなくなったり、服と体の位置関係がつかみにくくなって、手が止まってしまうことがあります。脳梗塞などのあとに残る高次脳機能障害でも、原因はちがっても同じことが起こります。
着替えをいやがっているように見えても、背景はひとつではありません。「ラクにできない」「わからなくて怖い」という気持ち。担当していると、それだけでもないと感じます。単純に面倒だったり、人前で肌を見せるのが恥ずかしかったり、どこかが痛かったり。ご本人の口から出てこないだけで、いくつも重なっていることが多いです。
服えらびの4つの軸
着替えをラクにする服を選ぶとき、わたしがよく家族の方にお伝えする軸は4つです。
① 前開きを選ぶ
頭からかぶらなくてすむ、前あきの服が基本です。 カーディガン、前開きのシャツ、スナップボタンのパジャマなど。 前あきなら、座ったままでも着替えやすく、介助する側も手順がシンプルになります。
麻痺のある方のお宅に伺っていて、「前開きという手があるのを知らなかった」と言われたことが何度もあります。替えてみたあとに、ご家族から「介護がラクになった」と言っていただけることが多いのも、この一枚です。
② 伸びる生地を選ぶ
ストレッチ素材(伸縮性のある生地)は、少ない動きでも着脱できます。 ウエストがゴムのズボンは、ベルトを外す・通すという手順がなくなるだけで大きな差があります。 かたい生地・タイトなシルエットは、腕や足を通す際に引っかかりやすいため避けると無難です。
③ ボタンは大きめ・マジックテープも選択肢に
細かいボタンは、手の震えや握力の低下があると非常に難しい。 大きめのボタンや、重ねて押さえるだけで留まるマジックテープ(面ファスナー)式 は、介護用衣料でもよく採用されています。 自分で留められる機会が増えると、「自分でできた」という感覚につながりやすくなります。できるだけ本人の手で留められるものを選んでみてください。
ただ、朝は時間がありません。担当していて、ご家族がいちばんやってしまうのは、待ちきれずに着せてあげることです。その気持ちはよく分かりますし、間に合わない日は着せてあげていいと思います。そのうえで、余裕のある日だけボタンをひとつご本人にお願いしてみると、ずいぶん変わってきます。
服そのものを変えるほかに、ボタンを留めやすくする小さな道具もあります。 → 「自分でできた」を増やす小道具。届かない・つかめない・留められないを助ける
④ 袖口・首元はゆったりと
袖口がきつかったり、首元がつまっていると、腕や頭を通す際に引っかかります。 袖口はリブ(ゴム編み)より広めのもの、首元はゆったり開いたデザインのほうが、頭を通しやすいことがあります。
季節ごとのひとこと
夏場は、汗をよく吸う綿素材や、通気性のよいメッシュ地も意識してみてください。 高齢になると体温調節がしにくくなる方が多く、こもった熱やかぶれが起きやすくなります。 洗濯しやすい・乾きやすい素材を選ぶと、清潔を保ちやすくなります。
冬は、重ね着が多くなるぶん、着脱の手順が増えます。 インナーを体にフィットした薄手の保温素材にまとめ、外側を前開きの一枚で整えると、手順がシンプルになります。
介護専用の服でなくても大丈夫
「介護用の服」と聞くと、病院着みたいなものを想像する方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
衣料品の量販店やネット通販で売っている普通の服でも、前開き・ゆったりシルエット・ゴムウエスト の条件を満たしていれば十分代用できます。 介護用品専門店には、マジックテープ仕様の上着や、肩や脇が開くタイプのパジャマなど便利なアイテムもそろっています。「選ぶ軸」さえ押さえておけば、どこで買っても構いません。
なお、体の状態が変わって転倒リスクや住環境の見直しが必要になったときは、あわせて参考にしてみてください。 → 親の転倒が怖い。家の中の危険を家族が見直す方法
本人の「これがいい」を大事にする
着替えをラクにしようとするとき、つい家族の都合で「着やすい服」を押しつけてしまいがちです。 でも、着る本人にとって「自分で選んだ服を着る」ことは、自尊心にも関わる大切なことです。
「前開きならこっちとこっちがあるよ。どっちがいい?」という風に、選択肢の中から選んでもらう。 本人が「この色が好き」「この服は気に入ってる」と感じているなら、その気持ちはできるだけ尊重してあげてほしいと思います。
着替えがしやすいかどうかと、「自分らしくいられる」という感覚は、両立できます。
まとめ
最終的なご判断は、担当のケアマネジャーや専門家にご相談ください。 購入前に試着できる場合は、着心地や着替えやすさを確認しておくと安心です。
よくある質問
介護服って、どこで買えますか?
ネット通販(Amazonや楽天など)でも「介護用パジャマ」「前開き シャツ 高齢者」などで検索すると多く見つかります。介護用品専門店や、ホームセンターの介護コーナーでも取り扱いがあることが多いです。まずは普段の量販店で「前開き・ゆったり」を条件に探してみるだけでも、けっこう見つかりますよ。
本人が着替え自体を嫌がって、何日も同じ服でいる。どうしたらいい?
着替えをいやがる背景は、ひとつとは限りません。体が痛い、寒い、その服が好きではない、人前で肌を見せたくない——いくつもの理由が重なっていることがあります。認知症がある方では、行動・心理症状(BPSD。認知症にともなって出る、不安や拒否などの反応のこと)として現れることもあります。無理に着替えさせようとすると、お互いの関係がしんどくなることも。「声をかけるタイミング」や「本人が好む服」を見直すことと並行して、訪問介護のヘルパーさんや担当のケアマネジャーに相談してみてください。第三者だとすんなりできるケースもあります。 → 認知症の親に言ってはいけない言葉と、やさしい言い換え
恥ずかしがって、着替えをさせてくれません。
恥ずかしさが問題になるのは、着替えに手を貸す場面です。ご自分で着替えられるうちは、人に肌を見られることはありません。寝たきりに近い状態になるほど、肌が出ている時間も、人の手が触れる時間も長くなります。バスタオルなどをかけて、出す部分を最小限にしながら介助する。それだけで、ご本人の気持ちはずいぶん違います。
「面倒くさい」と言って、着替えたがりません。
正直なところ、面倒だという気持ちをなくすのは難しいです。ここは声のかけ方を変えるほうが早いことが多いです。わたしがよくお伝えしているのは、着替えそのものを話題にしない言い方。「洗濯するんだけど、もったいないからお父さんのも一緒に洗っちゃっていい?」——こんな入り方だと、すんなり脱いでくださることがあります。
片麻痺(かたまひ)がある場合、着替えの順番はありますか?
片麻痺(体の片側が動かしにくい状態)がある場合、着るときは麻痺のある側(動かしにくい側)から先に通す、脱ぐときは麻痺のない側から先に抜くというのが基本とされています。介護の現場では「脱健着患(だっけんちゃっかん)」と呼ばれる考え方です。ただし、体の状態によって適切な方法は違いますので、理学療法士・作業療法士や看護師など、リハビリや医療の専門職に、実際の動きを見てもらうのがいちばん安心です。
介護用の服は、介護保険で買えますか?
介護保険で使えるのは、車いすや手すりのように借りるものと、腰掛便座や入浴補助用具のように買った費用の一部が戻るもので、どちらも国が定めた種目に限られています。衣類はそのどちらにも入っていないので、購入は自己負担になります。価格帯はさまざまですので、まずは一枚だけ試してみて、合うようなら少しずつ増やしていく、という買い方でも十分だと思います。
マジックテープは洗濯に耐えられますか?
マジックテープ(面ファスナー)は、洗濯のときに糸くずや毛玉を巻き込んで、だんだん留まりにくくなることがあります。洗濯の際はマジックテープ同士を閉じた状態にして、洗濯ネットに入れて洗うと長持ちしやすいです。商品によって耐久性が異なりますので、購入前に洗濯表示や口コミを確認してみてください。
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現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。
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