在宅介護

同じ訪問看護なのに保険が違う?医療保険と介護保険の使い分け

同じ訪問看護なのに保険が違う?医療保険と介護保険の使い分け

「同じ訪問看護なのに、うちは介護保険。知り合いのお宅は医療保険なんだって」

こう聞いて、不思議に思ったことはありませんか。 保険が変わると自己負担も変わるし、介護保険の「限度額」に影響するかどうかも変わってきます。 でも、これ、家族が全部理解しなくていいんです。 知っておく意味があるのは、どっちにするか決めるためではなく、請求書が変わっても慌てないため。そして、困ったときに正しく相談できるようになるためです。 今日は「ややこしさの正体」だけつかんでもらえるような話をしますね。

こまり
こまり
同じ訪問看護なのに、保険がちがうことってあるんだ…。もしかして、事業所によって違うの?
とも
とも
そう思いますよね。でも実は、事業所では決まらないんです。「どっちで使うか」には原則があって、その仕組みが分かると、請求書の見方まですっきりしてきます。
こまり
こまり
原則がある、ってことは、誰かが決めてくれてる、ってこと?
とも
とも
そうなんです。家族の方が自分で判断するんじゃなくて、主治医やケアマネジャーが整理してくれる仕組みになっています。順番に見ていきましょう。

そもそも、なぜ保険がふたつあるの?

母と娘が書類を一緒に確認する温かな場面

日本には、大きく分けてふたつの公的な保険があります。

ひとつは 医療保険(健康保険・国民健康保険など)。 病気やケガの「治療」を支える保険で、年齢に関係なく全員が加入しています。

もうひとつが 介護保険。 「日常生活のケアや支援」を支える保険で、40歳になると加入します。 実際に使えるのは、65歳以上の方は原因を問わず、40〜64歳の方は国が定めた特定の病気(特定疾病)が原因のときです。

そして訪問看護は、この両方の保険にあるサービスです。 来てくれる看護師さんがしてくれることは同じなのに、入り口になる保険だけが違う。だからこそ「どっちを使うの?」という疑問が生まれるんです。


基本は「介護保険が優先」

介護保険を持っている方(要介護・要支援の認定を受けた方)が訪問看護などを使う場合、 原則として介護保険が優先されます。

これは法律で決まっていることで、「医療保険と介護保険、どちらか選べる」という話ではありません。 介護認定を受けていれば、まず介護保険を使うのが基本の流れです。

こまり
こまり
えっ、選べないの!? じゃあ、ひとによって医療保険になる、ってどういうこと?
とも
とも
いい質問です。「原則は介護保険」なんですが、例外的に医療保険になる場合があるんです。状態や病気の種類によって、切り替わるケースがあります。

医療保険が使われるのは、どんな場合?

介護認定を受けていても、医療保険での訪問看護になる場合があります。 大きく分けると、次の3つです。

  • 国が定めた病気・状態にあてはまる方(末期のがん、パーキンソン病などの難病、人工呼吸器を使っている状態など)
  • 急に体調が悪くなったとき。主治医が「特別訪問看護指示書」という書類を出すと、その日から14日間だけ医療保険での訪問看護になります(原則として月1回まで)
  • 認知症以外の精神疾患で、精神科の訪問看護を受ける方

3つ目は、勘違いされやすいところです。 「精神科の訪問看護」と聞くと認知症も入りそうに思えますが、認知症が主な病気の方は、この対象からは外れます。認知症で訪問看護を使う場合は、原則どおり介護保険になります。

2つ目の「14日間」も、知っておくと安心できる数字です。 急に具合が悪くなった時期だけ一時的に医療保険に切り替わって、落ち着いたらまた介護保険に戻る。ずっと医療保険に変わってしまうわけではないんですね。

この特別訪問看護指示書は、原則として月1回までです。 ただし、気管カニューレを使っている方と、真皮を越える褥瘡(じょくそう=床ずれ)がある方は、月2回まで出してもらうことができます。

担当していると、こちらから主治医に「特別訪問看護指示書を出していただけませんか」とご相談することもあります。 床ずれができてしまって、今のうちに集中して看護師さんに入ってもらったほうがいい——そんなときです。 ただ、決めるのはあくまで医師や看護師。ケアマネジャーは今の状態をお伝えして、ご意見をうかがう立場です。そのうえで「わたしはこう思うのですが」と、考えを伝えることはあります。

短い期間でも集中して入ってもらえると、専門的なケアの力はやはり大きいです。 ご家庭でどこまで手をかけられるかにもよりますし、床ずれの程度にもよるのですが、早いうちに気づいて手を打てると、その後がずいぶん違ってきます

対象になる病気や状態は制度で細かく決められていて、同じ病名でも進み具合によって判断が変わります。 「うちの場合はどっちだろう?」は、主治医または担当ケアマネジャーに確認するのが確実です。

なお、要介護・要支援の認定を受けていない方は、訪問看護は医療保険での利用になります。 40歳未満の方はもちろん、40〜64歳でまだ認定を受けていない方も同じです。 (40〜64歳の介護保険については、40〜64歳でも介護保険が使える?第2号被保険者と特定疾病のこともあわせてご覧ください)


保険が変わると、何が変わる?

ケアマネジャーと家族がケアプランを一緒に確認している穏やかな場面

どっちを使うかで変わるのは、自己負担の計算方法と、介護保険の限度額への影響、そして訪問できる日数の考え方です。

介護保険で使う場合

介護保険には、要介護度ごとに支給限度額(1か月に使える上限)が設けられています。 訪問看護を介護保険で使うと、この限度額の内側でカウントされます

ほかの訪問介護やデイサービスなども使っている方は、 「訪問看護が介護保険で入ると、ほかのサービスに使える枠が減る」ことになります。 逆に、訪問できる日数そのものに決まった上限はなく、限度額の範囲内でケアプランを組み立てていきます。

自己負担の割合は、介護保険の場合は1割・2割・3割のいずれかです。 (負担割合については介護保険の自己負担はいくら?1割・2割・3割の決まり方と上限で詳しく解説しています)

医療保険で使う場合

医療保険での利用は、介護保険の支給限度額には影響しません。 枠を使わないので、「限度額がギリギリの方」にとっては、医療保険適用のほうが組み合わせやすくなることもあります。

そのかわり、訪問できる日数は原則として週3日までと決まっています。 ただし、さきほどの「国が定めた病気・状態」にあてはまる方や、特別訪問看護指示書が出ている期間は、週4日以上の訪問もできます。

自己負担の割合は、医療保険の区分(年齢・収入)によって変わります。

ここは、ご相談を受けるなかで「意外です」と言われることが多いところです。 「医療保険になると高くなるんでしょう?」とよく聞かれるのですが、そうとも限りません。 医療にも介護にも、自己負担が増えすぎないようにする上限の仕組みがあります。 さらに、難病の医療費助成・精神科の自立支援医療・重度心身障害の医療費助成などを受けている方は、負担の出方が変わることがあります。 どちらが軽くなるかは人によって違うので、受給者証をお持ちの方は「これは助成の対象になりますか」と聞いてみてください

こまり
こまり
なんか…話を聞けば聞くほど、自分では判断できない気がしてきた。
とも
とも
それが正直な感想だと思います。でも、これって家族の方が自分で判断しなくていいことなんです。「うちはどっちの保険で使ってるの?」と聞けば、ケアマネジャーや訪問看護の事業所が教えてくれます。

「どっちか」は、家族が決めなくていい

この記事で一番伝えたいのは、実はここです。

医療保険と介護保険の使い分けは、 主治医の指示・利用者さんの状態・介護認定の有無 などをもとに、専門家が判断します。

家族の方が「どっちにするか」を自分で選ぶわけではないので、 「選び間違えて損をさせてしまった」と、ご自分を責める必要はありません。

実際、金額が大きく変わる月は、ご家族から「なんで今月はこんなに違うんですか」とご質問をいただきます。 思っていた金額と違うと、それだけで暮らしの負担になりますから、当然のことだと思います。

なのでわたしの場合、保険がどちらになりそうかは、できるだけ早い段階で「この状態だと医療保険になりそうですね」とお伝えするようにしています。 あとから届いた請求書で驚かせてしまうのが、いちばん申し訳ないからです。

それでも気になることがあれば、

  • 担当のケアマネジャーに「これ、何の保険で使ってますか?」と聞く
  • 来てくれている訪問看護ステーションに直接聞く

この2つで、たいていの疑問は解決できます。

請求書に「介護保険」「医療保険」どちらで書かれているかを確認するだけでも、 「ああ、今月はこっちの枠を使ってるんだ」という理解につながります。

制度が複雑なのは、家族の方のせいではまったくありません。 「分からなくて当然。聞けばいい」と、気楽に構えてもらえると嬉しいです。


「そんなに来てもらう必要、ありますか?」と思ったとき

保険がどちらであっても変わらないのは、「必要だから入ってもらっている」ということです。

とはいえ、ご家族から「訪問看護って、そんなに来てもらう必要がありますか」とご質問をいただくこともあります。 血圧を測って、体調を見て、少しお話をして帰る。そう見えると、「月に1回でもいいのでは」と感じるお気持ちは、とてもよく分かります。

ただ、訪問看護のいちばん大きな役割は、いざというときに相談できることだと思っています。 ご家族からよくうかがうのも、「夜中に何かあったらどうしよう」という不安です。 そういうときに電話で相談できて、必要なら実際に来てもらえる。 その頼れる先があることが、いちばんの支えになっている——そう感じる場面が、本当に多いです。

そして、急なご相談を受けたときに看護師さんが判断できるのは、普段の様子を知っているからなんです。 月に1回しか会っていない方の「いつもと違う」は、誰にも分かりません。 だから、減らしたいというお気持ちをうかがったうえで、「できれば毎週入ってもらいませんか」とお伝えすることがあります。

もうひとつ。看護師さんにお願いできることは、健康チェックだけではありません。 体を拭いたり、入浴のお手伝いをしたり、体を動かす練習をしたりということもできます。 「せっかく来てもらうなら、こういうこともお願いしたい」と思うことがあれば、担当のケアマネジャーに相談してみてください。訪問看護ステーションと相談しながら、内容を組み立て直すことができます。


まとめ

こまり
こまり
整理すると…介護認定があれば、基本は介護保険。でも、病気の種類や状態によっては医療保険になることもある。どっちかによって限度額への影響が変わる。でも、判断は専門家がしてくれる。だから、「どっち?」って聞けばいい。…こういうこと?
とも
とも
完璧です。そのまま覚えておいてください。

ポイントをまとめます。

  • 介護認定を受けた方は、原則として介護保険が優先される
  • 国が定めた病気・状態、急な体調悪化(14日間)、認知症以外の精神疾患などの場合は、医療保険になることがある
  • どちらを使うかで、介護保険の支給限度額への影響が変わる
  • 使い分けの判断は主治医・ケアマネジャーが整理してくれる。家族が自分で決める話ではない
  • 疑問があれば、ケアマネジャーや事業所に「これ、何の保険ですか?」と気軽に聞いていい

この記事で触れた内容は、制度の概要です。 個別の状況によって適用が変わることがあります。具体的なご判断は、担当のケアマネジャーや主治医にご相談ください。


よくある質問

とも
とも
最後に、よくいただく質問にいくつかお答えいたします。

今は医療保険で訪問看護を使っています。介護認定が下りたら、どうなりますか?

原則として、介護保険での利用に切り替わります。介護保険が優先されるからです。 ただし、国が定めた病気・状態にあてはまる方などは、認定が下りたあとも医療保険のまま続くことがあります。 切り替えのタイミングは、ケアマネジャーと訪問看護ステーションが調整してくれます。ご家族が手続きをする必要はありません。

途中で保険が変わることはありますか?

あります。いちばん多いのは、急に体調が悪くなって、主治医が特別訪問看護指示書を出したときです。 その期間だけ医療保険になり、落ち着いたらまた介護保険に戻ります。 「先月と請求書の書き方が違う」と感じたら、たいていはこれです。慌てなくて大丈夫です。

費用が心配です。訪問看護を医療保険に変えてもらうことはできますか?

適用される保険は、医師の指示や制度の基準で決まります。費用や限度額の都合で選ぶことはできません。 ただ、病状が変わったときに、結果として医療保険に切り替わることはあります。 費用のことで困っているときは、保険を変える相談ではなく、サービスの組み合わせを見直せないかを担当のケアマネジャーに聞いてみてください。

請求書に「医療」「介護」と書いてあるけど、見方が分かりません。

請求書の区分に迷ったときは、送ってきた事業所に「これは医療保険ですか、介護保険ですか?」と確認するのがいちばん確実です。 「聞いてもいいの?」と遠慮しなくて大丈夫。事業所はそういった質問に答えるのも仕事のうちです。

医療保険と介護保険を、同時に併用することはできますか?

同じ月に、医療保険と介護保険の訪問看護をまとめて併用することは、原則としてできません。どちらか一方が適用されます。

ただし、月の途中で切り替わることはあります。たとえば特別訪問看護指示書が出た14日間は医療保険、その前後は介護保険、という形です。その月の請求書に両方の名前が出てくるのは、このためです。

「二重に払っている」わけではないので、安心してください。気になるときは、訪問看護ステーションに「今月はどこで切り替わっていますか?」と聞けば教えてもらえます。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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