介護の仕事

ユニットケアの実地研修施設で働いて学んだこと。ユニットケアは、箱ではなく考え方

ユニットケアの実地研修施設で働いて学んだこと。ユニットケアは、箱ではなく考え方

「早番で出勤したら、まだ誰も起きていない。前の勤務帯、何してたんだ」

「うちは従来型だから、ユニットケアなんて別の世界の話」

介護の現場で働いていると、こう感じる場面があると思います。

わたしが働いていたのは、日本ユニットケア推進センターの実地研修施設でした。全国から、ユニットリーダー研修を受ける方が実地研修に来る施設です。そこでは、この同じ朝の光景が、まったく違う意味を持っていました。誰も起きていないのは、誰かがサボったからではありません。

今日は、その施設で学んだ「入居者の生活リズムを尊重する」という考え方と、それが現場でどう回っていたのかをお話しします。そして、これは建物の形の話ではありませんでした。

とも
とも
こんにちは。今日はユニットケアの話をしますね。わたしが働いていた施設で見たことが、いまでもわたしの物差しになっているんです。
こまり
こまり
ユニットケアって、少人数で暮らすやつだよね。建物がそういう形になってるってこと?
とも
とも
形も関係はあります。でも、わたしがいちばんおどろいたのは建物じゃなくて、朝の光景のほうでした。
こまり
こまり
朝? なにかあったの?
とも
とも
早番で行ったのに、誰も起きていなかったんです。ふつうなら「え?」となるところですよね。
こまり
こまり
ならなかったの?
とも
とも
ならなかったんです。むしろ、いい施設だなと思いました。その理由を、順番にお話ししますね。

ユニットケアで大事にしていること

ユニットケアで大事にしていることは、ひとつだけです。

入居者の生活リズムを尊重する。

施設の一日に人を合わせるのではなく、その人の一日に施設が合わせる、ということです。

なぜ、そこまでするのか。

そもそも、体が思うように動かなくなって、介護が必要になった。それだけのことで、どうしてこれまでの普通の暮らしを我慢しないといけないのでしょうか。

わたし自身、わりとわがままな人間なので、そこがどうしても納得できませんでした。だからこそ、我慢を前提にしていない施設を見たときに、素敵だなと思えたのだと思います。

言葉にすると当たり前に聞こえます。でも、これを本当にやろうとすると、朝の起こし方から順番に、全部が変わっていきます。

ユニット型は、それがしやすいようにできている

ユニット型は、少人数のまとまりで暮らす形です。ひとつのユニットの定員は、原則としておおむね10人以下、15人を超えないと決められています(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号)|e-Gov法令検索)。

協力ユニットとあわせても、20人ほどです。20人なら、誰が何時ごろに目を覚ますか、朝は何から始める人か、頭に入れておけます。

従来型はどうでしょうか。フロア全体で何十人、規模の大きいところでは100人近い方がいます。その100人分の暮らし方を全部頭に叩き込むのは、正直なところ無理があります。

つまり、ユニット型は「一人ひとりに合わせられる施設」なのではありません。一人ひとりに合わせることが、しやすいようにできているだけです。ここは分けて考えたほうがいいと思っています。

こまり
こまり
でも、20人でも覚えるの大変じゃない? こまり、おやつの時間しか覚えられないよ。
とも
とも
そこは覚えなくていいんです。書いて、みんなで見られるようにしておく道具があるんですよ。

24時間シートで、その人の一日を知る

その道具が、24時間シートです。

一日24時間を時間の軸にして、その人がどんなふうに過ごしてきたかを書き出していきます。何時ごろに起きていたか。朝は何から始める人か。お風呂はいつ入っていたか。何時に寝ていたか。好きなこと、していたこと。

大事なのは、施設に入ってからの様子だけを書くのではなく、入ってくる前の暮らしを、ご家族から聞かせてもらって書くところです。その人が何十年も続けてきたリズムは、施設に入った日にリセットされるものではありません。

これがあると、担当が替わっても、夜勤明けの引き継ぎでも、その人の一日が伝わります。わたしも、だいたいのことは24時間シートで把握できていました。

なお、この表は24Hシートと書かれることもあります。書き方に迷ったときは、事例を集めたガイドブックも出ています。

記録が「その人が伝わるもの」になっているかどうかは、ユニット型かどうかとは関係なく効いてきます。そこは「特変なし」から卒業。介護記録が伝わるようになる一番簡単なコツにも書きました。

「まだ寝ていたい」なら、また来ますねと戻る

朝の光が差し込む施設の個室と、まだ人のいないベッド

では、朝は実際どうしていたのか。

早番で出勤して、誰も起きていない。そこから何をするかというと、定期的に部屋をまわります。様子を見て、目が覚めている方がいれば声をかける。「まだ寝ていたい」と言われたら、「わかりました、また来ますね」と言って、部屋を出ます。

それだけです。起こさない。ただ、それだけのことでした。

そして、ここが意外だったところなのですが、介助が一か所に集中することは、ほとんどありませんでした。

一斉に起こすと、着替えも、トイレも、食事も、全部が同じ時間に来ます。だから渋滞します。廊下に並んで順番を待っている列を見たことがある方もいると思いますが、あれは、みんなを同じ時間に動かすから生まれるものです。

一人ずつ起きてくると、そのぶん手も一人ずつになります。結果として、ゆっくり時間が流れていました。

従来型でも、やろうと思えばやれる

浴室で、シャワーチェアに座った高齢の女性に職員がひとりで付き添っている

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

先に書いておきます。従来型の施設で、ユニットケアを全部やるのは、正直むずかしいです。たとえば、朝起きる時間を一人ひとりのリズムに合わせる。これは働いている人のやる気の問題ではなく、仕組みの問題です。何十人もの方が同じフロアで暮らしていて、職員の数も配置も決まっている。その中で全員のリズムに合わせるのは、無理があります。

だからこそ、ユニット型が生まれました。ユニットケアをやりやすいように、建物のほうを変えたわけです。従来型がやりづらいことは、確かです。

それでも、工夫次第で真似られるところは、いくつもあります。

わたしは、ケアマネジャーとして従来型の施設で働いていたことがあります。建物はユニット型ではありません。それなのに、ユニットケアの考え方でやっているな、と感じることがいくつもありました。

まず、呼び方です。その施設では、入居している方を「お客様」と呼んでいました。建物は従来型でも、呼び方ひとつに考え方が出ます。

そして、個浴です。一人ずつ、湯船に入っていました。従来型は流れ作業になりやすいので、これを見たときは、すごいなと思いました。

お酒やたばこを普通に楽しんでいる入居者の方もいました。ここは施設の方針や主治医の判断によって変わるところなので、そのまま真似できる話ではありません。ただ、施設に入ったからといって、その人が続けてきたことを全部やめてもらう決まりがあるわけでもない、ということです。

コンサートの話もあります。その施設の施設長が言っていたのは、こういう施設に入っても、昔通っていたコンサートとか普通に経験させてあげたいということでした。しかも、ボランティアに来てもらうのではなく、きちんと謝礼を払ってプロを呼んでいました。ハワイ旅行も当たり前にやる施設でした。

建物はユニット型ではなかった。それでも、やっていた。だから思うんです。ユニットケアは箱ではなく、考え方だと。

全部やる必要はありません。一部でいいんです。入居者のQOL(生活の質)を上げるために、自分の職場では何ができるか。それを考えるきっかけになったら、うれしいです。

自分の支援で、その人の生活が変わるのが見える

一斉に流していく介助でも、仕事は終わります。ただ、終わったことは分かっても、その人が前より良くなったかどうかは、見えにくいままです。

一人に合わせていくと、そこが見えるようになります。眠れるようになった。食べる量が戻った。表情が変わった。自分がやったことで、その人の暮らしが良くなっていく。それが目に見える。

これは、職員にとってかなり大きいことだと思っています。貢献しているという手応えがあって、やりがいにつながる。がんばれと言われて出てくるものではなく、見えるようになるから、出てくるものです。

こまり
こまり
それ、いいね。がんばった先がちゃんと見えるって、うれしいもん。
とも
とも
そうなんです。しかもこれ、まわりから見ても分かるんですよ。

自分が入居してもいいと思えた施設は、スタッフが楽しそうだった

これまでいろいろな施設を見てきました。その中で、自分が将来入居してもいいなと思えた施設が、ふたつあります。

ひとつが、いま書いた従来型の施設です。もうひとつは、ホスピスホームでした。ペットと一緒に入れて、ご家族が24時間いつでも出入りできる。そういう場所です。

まったく違う形のふたつなのですが、共通点がありました。スタッフが楽しそうだったことです。

自分がここに入ってもいいと思えるかどうかは、けっこう正直な物差しです。

いま自分の職場をそう思えなかったとしても、それは読んでいるあなたのせいではありません。建物も人数も、自分で決められるものではないからです。それでも、明日ひとつだけ変えられることはあります。起きていない人を起こさない。お風呂の順番を、その人の都合でずらしてみる。担当している一人分だけでも、24時間シートを書いてみる。

そこから始まります。

この「自分が入ってもいいと思えるか」は、ご家族が施設を選ぶときにも、そのまま使える物差しです。見学で何を見るかは施設見学で後悔しないために見ておきたいことにまとめました。ご家族から相談されたときに、渡してみてください。

まとめ

こまり
こまり
つまり、ユニットケアって建物のことじゃなくて、その人のリズムに合わせるって考え方のことなんだね。ユニット型はそれがやりやすくできてるだけで、従来型でもやれる。起こさないでいると、かえって手が重ならないし、自分の支援でその人が良くなるのも見える。こんな感じ?
とも
とも
そのとおりです。箱がないからできない、ではなかった。わたしはそれを、従来型の施設で教わりました。

早番で出勤して、誰も起きていない朝。あの光景の意味が変わったとき、わたしの中で介護の見え方も変わりました。

全部を一度に変える必要はありません。一人分から、ひとつだけで十分です。

ここまでの話を、1枚にまとめました。

ユニットケアは、箱ではなく考え方 まとめ図

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職場のやり方や人員の組み方に関わることは管理者や上司に、入居されている方それぞれの支援内容については担当のケアマネジャーや関係する専門職と相談しながら、進めてみてくださいね。


よくある質問

とも
とも
最後に、よくいただく質問にいくつかお答えいたします。

うちは従来型です。何から始められますか?

一人分から始めるのがやりやすいと思います。担当している方の中で、朝起きる時間にこだわりがありそうな方を一人。その方だけ、起きるまで待ってみる。それだけでも、その人の一日は変わります。職場全体のやり方を変える話ではないので、まずは自分が受け持っている範囲からで大丈夫です。

一人ずつ動いたら、人手が足りなくなりませんか?

わたしがいた施設では、かえって手が重なりませんでした。一斉に起こすと、着替えもトイレも食事も同じ時間に来るからです。ただ、人員の組み方や夜勤帯の体制は職場ごとに違いますので、勤務の組み方に関わる話になるときは、管理者や上司と相談しながら進めてください。

24時間シートは、何を書けばいいですか?

一日を時間の軸にして、その人が何時ごろ起きて、いつ食べて、いつお風呂に入って、いつ寝ていたかを書いていきます。施設に入ってからの様子だけでなく、入る前の暮らしをご家族から聞かせてもらって書くのが大事なところです。様式は法人や施設で決まっていることが多いので、まずは自分の職場のものを見てみてください。

お酒やたばこを希望されたら、認めていいのでしょうか?

ここは自分だけで決めないでください。施設の方針と、主治医の判断がある話です。わたしが見てきた施設では普通に楽しまれている方がいましたが、どの施設でも同じというわけではありません。まずは管理者や看護職に相談して、施設としてどう考えるかを確かめるところからになります。

※本文でふれた24Hシートのガイドブックと、ユニットケアの実践書は、このあとのリンクからご覧いただけます。書き方も進め方も職場ごとに違いますので、ご利用は自己責任でお願いします。

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とも 現役・主任介護支援専門員

現役のケアマネジャー(主任介護支援専門員)。在宅介護の家族に「ちょっと隣にいる人」がいたらいいなと思ってこのブログを始めました。猫のこまりとお届け中。

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